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そのような話なら、オレたちは協力をしようはない

「最初に言っておくが、聖女様に戻ってもらいたいとはいえ、それを無理強いするつもりはない。手詰まりのこちらとしては、そちらの口添えがただ欲しいというだけだ。それでも聖女様が首を横に振るなら、それ以上のことを求めないことを約束する。しかし、聖女様と我々、いえ、主との関係を知らねば、口添えのしようがないだろう」


 そう前置きをするミルフィーユは、ウィルたちが想像していたより「賢い」女性であった。


 あるいは「強か」という方が正しいか。


 ウィルたちのみでは、半魔族の魔王とその勢力には対抗できない。とにもかくにも、いずれかの兄か姉の所、あるいは孤児院に身を寄せねば身の安全を計れぬと判断して、ミルフィーユの要求にとりあえずは応じることにしたのだ。


 かくして、王宮の一室にて、ウィル、ユリィ、リタ、セラ、サリア、ベルリナ、ガヴェと単身、向かい合うミルフィーユは、協力を引き出したからと小躍りするどころか、むしろ交渉の本番はこれからと言わんばかりの、穏やかだが、その実、油断ならぬ態度を見せている。


 ただ口添えさせるだけではなく、内部事情を話した上での口添えを求めるところ、また無理強いをしないところも、ウィル、ユリィ、リタとしては警戒せざる得ない。


 その内心の警戒を察しながらも、ミルフィーユは柔和な、まるで世間話をするような口ぶりで、


「そちらは我が主のことをどれほど知っている?」


「世間一般程度。父親の魔神が勇者に討たれた。当初はその仇討ちを目的に、人間に戦を仕掛けた。しかし、聖女との出会いで、人間との共存を考えるようになった。これくらいだ。そもそも、オレたちはその聖女がエレ姉ってことも知らなかったんだ」


「たしかに詳しいことは知らないようだ。細かい点を色々と語ることはできるが、ここで補足しておくべき点は二つとしておこう。主の両親は人間に殺されていること。そして、我が主は聖女様を愛しておられること」


「もしかして、オレたちに恋の橋渡しを頼むつもりなら、これは絶対に無理だぞ。エレ姉の両親は魔族に殺されているんだから」


「ああ、そのように聞いている。あなた方の兄の一人も同じように言ってたが……これはどうしようもないのか?」


 ウィル、ユリィ、リタの答えは一考するまでもない。


 絶対無理であり、


「そのような話なら、オレたちは協力をしようはない。キッパリと断らせてもらう」


 勝てない相手に進んで逆らいたいわけではない。


 好んで危地に飛び込みたいわけではない。


 しかし、自分たちの安全のために、姉を売り渡すようなマネは死んでもゴメンだ。


 生きて姉を不幸にするぐらいなら、ここで討ち死にする事に迷いのないウィル、ユリィ、リタは、敵意に燃える瞳をミルフィーユに向ける。


 幾多の戦場を乗り越えてきたラクシュール族の女将軍は、


「最初に言ったとおり、無理強いする気はない。聖女様の件であなた方に頼るのは諦める」


 疲れた風に嘆息しながら、勝てない戦いからあっさりと退く。


「なら、オレたちはこれで帰っていいか?」


「あくまで帰るというなら、どうしようもない。だが、私としては、あなた方を我が陣営に取り込みたい。先の大戦、光の陣営が自滅するまで我が勢力が保てたのも、聖女様の力と人脈によるところが大きかった」


 ミルフィーユが語るとおり、先の光と闇の戦いは、闇の陣営が勝利したというよりも、光の陣営が自滅したという方が正しい。


 先年まで絶大な勢力を誇っていた太陽神の教団は、あまりに敵を作りすぎる方針が災いし、堕天使や魔神はともかく、天使、最強の勇者、ドワーフ族、果ては始源の混沌や外来勢力にまで攻められ、今では全盛期の半分以下にまで凋落している。


 だが、そうなるまで光の陣営は優勢であり、ミルフィーユたちの勢力は危機的な状況にあった。その危機をしのぎ、光の陣営が自滅するまで踏ん張れたのは、ミルフィーユらの健闘もあるが、何よりも聖女とその呼びかけに応じた者らの力があったからこそなのである。


 例え数倍の敵を相手にしても、そこにルウ一人が加わっただけで戦力差などカンタンにひっくり返る。ウィルたち自身が弱くても、彼らを取り込めばそのような強力なエースカードが何枚も確保できるのだ。


 無論、そんな兄姉妹弟に迷惑をかけるようなスカウトなど論外ではあるが、


「だが、聖女様の尽力は大きすぎた。その聖女様と多くの者が去った。しかし、全員が去ったわけではない。我が陣営に残った者もいる。その者は今、軍閥化している。だが、我らだけの力だけではその者に対抗できない。あなた方にはその者を抑えること、少なくともそれには協力を願いたいのだ」




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