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聖女様の復帰に口添えをしてください

 実質的に十一ヵ国、いや、十二ヵ国を支配しつつあり、この地方で最大、世界でも三指に入る勢力を築いた半魔族の魔王だが、その内部にはいくつかの問題を抱えている。


 半魔族の魔王を悩ませる問題の中で特に大きなものは二つ。これは多くの闇勢力に共通していることだが、ゴブリンなどの処置と処理だ。


 コボルト、ゴブリン、オークは闇勢力にとって数を揃えるのにもってこいの亜人だ。個々は弱く愚かだが、それだけに使い易くて切り捨て易い。


 だが、平時においてゴブリンなどは、闇勢力にとってお荷物、いや、トラブルメーカー以外の厄介な代物でしかなくなる。


 コボルト、ゴブリン、オークは繁殖力が旺盛で、放っておいてもその数は増える。だからこそ、容易に戦力の補充が効き、闇勢力は重宝しているのだ。


 しかし、戦時ならば矢面に立たせ、勝手に数が調整されるゴブリンらも、平時では増殖してすぐに手に余る数となってしまう。


 半魔族の魔王も平和になり、軍役を解いたゴブリンの一部が南に流れ、他国の村をいくつか滅ぼす原因となってしまい、あわや外交問題となりかけている。


 幸い、南の隣国を支配下に置きつつあり、この問題はうやむやになったが、国内でも増殖したコボルト、ゴブリン、オークが害を成す事例が増えつつあり、


「これらの問題を解決する手立ては一つ。ヤツらを東の侵攻に使えば良いだけです」


 主の平和の意思を理解しつつも、好戦派の代表たるミルフィーユは、ゴブリンなどの問題を戦争継続の口実にせんとしている。


 だが、ミルフィーユは戦を好む一方、負け戦を嫌う。もう一つの大きな問題、これを解決せねば、東へと本腰を入れて進軍することなどままならないのも理解していた。


 しかし、その問題、聖女の離反は、ある意味で一国を征するよりも難題である。


 癒しの女神に仕える聖女は、半魔族の魔王の旗揚げ直後から彼を導き、勝利をもたらしてきた最重要人物だ。十一ヵ国の実質的支配などという偉業が成ったのも、彼女の貢献によるところが大きい。


 いや、有り体に言えば、聖女の導きがなくば、彼の魔王は中道で倒れていただろう。


 それほどの人物が一身上の都合で離反してしまったのだから、半魔族の魔王の勢力に問題が生じぬわけがない。


 言うまでもなく、この問題の最も良い解決策は、離反した聖女を呼び戻すことだ。しかし、それを打診した聖女は二つ返事で断り、旧に復するのを明快に拒んだ。


 ミルフィーユを始めとする旧知の者らは、聖女の元に赴いて説得を試みたが、誰もその首を縦に振らせることができず、現在に至る。


 万策が尽きてしまい、聖女の件は気が変わるのを気長に待つしかないという棚上げ状態の中、実質的支配下に置くために南方の隣国に赴いたミルフィーユは、ここで思わぬアプローチ方法があることに気づく。


 両親を魔族に殺された聖女が孤児院で育ったのは有名な話だ。その境遇によって、聖女が聖女たらしめるだけの力量を得たのみならず、共にその境遇で育った兄弟姉妹も、聖女に比肩するか、準じるほどの実力者ばかりであるのも、聖女とその人脈で先の戦いに勝利できたミルフィーユらは、それをよく知っている。


 そして、グライスからの報告書で、ガンドが報復を考える相手が孤児院出身であることをミルフィーユは知った。


 おそらく、少しでも詳細な報告書を作成し、新たな支配者の心証を良くしようとしたグライスの計算が、皮肉にも憎悪してやまないウィルたちを助けることとなった。


 もちろん、世の中には孤児や孤児院はいくらでもある。しかしながら、ガンドを撃退できるような孤児を輩出する孤児院となると、話は違ってくる。


 確信があったわけではないが、可能性はある。もし、知らずとはいえ、弟や妹を殺したとなれば、聖女に復帰を頼むどころか、命乞いをせねばいけなくなるかも知れない。


 聖女とその兄弟姉妹をマジ切れさせたなら、十一ヵ国だろうが十二ヵ国だろうが、そんな勢力はあっさりと吹き飛ぶのだから。


 実際、ウィル、ユリィ、リタと聖女は同じ孤児院の出身だったのだから、ミルフィーユの想像や懸念は正しく、双方にとって最悪の事態は回避できたが、


「どうか、お願いします。聖女様の復帰に口添えをしてください」


 ピンチをチャンスに変えるべく、ミルフィーユとガンドは揃って、ウィル、セラ、ユリィ、リタ、サリア、ベルリナ、そしてガヴェに土下座をしていた。





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