あんな風に頑張ればいい
祝いの席に似つかわしくない少し重い空気となり、
「初仕事で何かしら思うところがあったのだろう」
それを察したウィルが、セラの意思に理解を示す。
「当人の悩みは当人にしかわからん。あまり、引き止めるのも悪いか」
「気づかない内に、うちらが不快な思いをさせたかも、だしね」
「いえ、そんなことはありません」
リタの口にした推測は、慌てて否定するセラ。
「皆さんに不満はありません。それどころか、色々と助けてもらえ、教えてもらえて、感謝しているくらいです。ただ、それだけに、皆さんに甘えるだけでは良くない、と考えたのです」
「甘えるだけということは……いや、よそう。たぶん、堂々めぐりになるだけだ」
ユリィは首を左右に振り、引き止める言葉を飲み込む。
「別にこの町を離れるわけでも、ケンカ別れをするわけでもないのだ。また、力を合わせる日もあるかも知れん。今夜は楽しく飲み食いし、明日から互いの健闘を祈ることにするべきか」
「突然、このようなことを申し出てすいませんでした」
まとめるようなユリィの言葉に、ウィルとリタは無言でうなずき、セラは深く頭を下げる。
「ただ、蒸し返すつもりはないが、オレらと組んで何か不快なことはなかったか。いや、オレは男で、まだガキだ。女の扱いも気遣いもまだまだだからな。自分で気づいてないんじゃないか、と気になってな」
「そんなことはありませんよ。気軽に話しかけてくれて、むしろ、ありがたかったくらいです」
「それならいいが、もし、不愉快なことがあったら、ハッキリと言った方がいいぞ。特に、女でソロでやるなら」
ウィルの言いたいことがわからず、セラは小首を傾げるが、ユリィとリタは口々に「ああ」とか「なるほど」とつぶやく。
「これは冒険者やっていた姉の一人の話なんだが、独りの女性冒険者はまず、仲間に困らないらしい。特にセラのような可愛い女の子、しかも新米となると、引く手あまたらしい」
面向かって「可愛い」と言われ、少し頬を赤らめたセラだが、
「駆け出しの女性冒険者が独りでいると、ベテランの男性冒険者が放っておかないらしい。もちろん、中には面倒見がいいヤツもいるだろうが、たいていは体が目的らしい」
「だから、パーティを組むというより、力で女を従えるという方が正しいだろう。ただ、実力者にうまく体で取り入り、共生関係を築く者も少なくないそうだ」
「ただ、ここでうまく体で取り入らないと、食い散らかされて終わるだけじゃない。いったん、安く見られると、男の冒険者がこぞって食って捨てようとするらしい」
「しかし、さじ加減が難しいのは、顔の効く冒険者を手酷く拒絶した場合、逆恨みされて睨まれることになり、厄介事を背負い込まないよう、他の冒険者に相手にされなくなるそうだ。こうなると、他の町の冒険者ギルドに移るしかないな」
「色目と体の使い方を間違わぬことだ。それを間違うと、堕ちるところまで堕ちるかねん。慎重さと大胆さ、これをうまく使いこなすことが肝要だぞ」
言うまでもなく、今のセラの顔は赤みが消え去り、すっかりと青ざめている。
「あそこの席。あれがいい見本だと思う。あんな風に頑張ればいい」
リタの視線の先には、夕食を取る一組の男女の冒険者がいた。
男は二十代半ばの戦士、女はウィルたちより少し年上の盗賊であったが、酒が入っているのもあるのだろうが、人目をはばからずに男は片手を胸元に突っ込み、女はイヤがるどころか、男に身を寄せて潤んだ瞳で見上げている。
「っ!」
何より、セラが驚いたのは、女の片手がテーブルの下に伸びていることだ。
鼻の下を伸ばす、気持ち良さげな男の表情からして、女の方はうまくやっているのだろうが、そんな自信も技巧もないセラは、
「……あの~、やっぱり、残っていいでしょうか?」
今後の自分のためにも、結論を変えることにした。