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猟犬の仕事はそいつらにやらせればいいだろう

 ラクシュール族。


 魔族の中には人に近い姿の種が多く、ラクシュール族もその一つに数えられるだろう。


 外見で人と異なるのは背中に生える四枚の白い羽だけ。その唯一の違いさえなければ、人と全く異なるところのない姿をしている。


 無論、どれだけ人に似ていようが、魔族は魔族。特に、ラクシュール族は人族と比べてどころか、魔族の中でも身体能力も知能も魔力も高く、高位種の一つとされるだけのスペックを有する。


 ラクシュール族の個人戦闘力の高さは言うまでもないが、その高い知能は伊達ではなく、戦いに際しては強力な戦士や有能な指揮官となるのは当然として、高度な戦術や策略も立てることもできる。もっとも、ラクシュール族は気質的に後方で策を練るよりも、前線に身を置くことを好むが。


 好戦的というのは魔族では特に珍しくもない性質だ。ラクシュール族は冷徹でもあるが、これも魔族の中では珍しい性質ではない。


 ただ、ラクシュール族は冷徹であっても冷酷ではない。まして、多くの魔族に見られる残虐さを有していない。勝つために策も巡らせば、冷酷な方法も取り、どれだけ血を流すこれもいとわぬが、逆に必要でなければ、無意味に冷酷なマネはせず、不要な血を流すようなことはない。つまり、勝つことにはこだわるが、勝敗が決した後、面白半分に敗者をいたぶるようなことをしないのだ。


 多くの魔族に見られる、弱者を虐待するという振る舞いも同様に、ラクシュール族は好まない。もちろん、だから弱者に優しいということもないのであるが。


 このラクシュール族の種族的な最大の特徴は魔族の中では稀有なもので、優れた主を求めるところにある。自分より強い者、認めるに足る器量の者ならば、例え人間でも頭を垂れ、真摯に仕えて、裏切るようなマネは決してしない。優れた主に出会うこと、認めた主に尽くすことを、ラクシュール族は何よりの喜びとするので、魔族の一般的な性質を思えばかなりの変わり種であろう。


 魔族としては風変わりでも、ラクシュール族が優れているのは厳然たる事実だ。半魔族の魔王の命を受け、一軍を率いて南下したラクシュール族のミルフィーユは、ハルバ伯爵の手勢をあっさりと蹴散らし、隣国の救援要請を果たしている。


 ミルフィーユはハルバ伯爵を逃すことなく討ち取っている。ガンドも大ケガを負いながらも、オーガーやゴブリンなどを使い、ハルバ伯爵の根拠地たるハルバ市を制圧している。


 半魔族の魔王より一軍を委ねられているミルフィーユは、短い金褐色の髪の美しく凛々しい容姿をした、ラクシュール族の女性だ。


 見た目は二十代後半ではあるが、そこは長命な魔族、外見年齢など当てにならない。実際に見た目がどうあれ、百戦練磨のミルフィーユはハルバ伯爵を打ち破った軍勢を背景に、狼を追い払うために獅子を呼び込んだうかつなこの国を属国化、実質的に支配するべく王都に居座り、活動をしている。


 すでに現地のオーガーやゴブリンなどをまとめたガンドがハルバ市を制圧して、この国の南部を押さえている。この国は半魔族の魔王に頭を垂れるしか選択肢はないが、しかし全てが予定どおりに進んでいるわけではない。


「ガンドが負傷、いや、大ケガしたのか」


 その報告を受けたミルフィーユは、形の良い眉をしかめずにいられなかった。


 幸い、ガンドは大きなケガを負いながらも、命は落としたわけではない。頑強なリゴー族のこと、回復も早いだろう。


 ガンドが重傷を負い、ハルバ市が陥落した際、ハルバ伯爵の身内を多く逃がしたのは、予想外の事態ではある。しかし、ガンドはいずれ回復するし、落ち延びたハルバ伯爵の身内に何ができるわけでもない。作戦は他のリゴー族が進めていて、支障の出る心配もない。


 だが、それでも何の問題もないとはいかず、


「しかし、ガンドが収まらないだろう」


「はい、そのとおりです」


 ミルフィーユの最大の懸念を、報告に来たリゴー族は肯定する。


 ガンドに大ケガを負わせた相手、冒険者らが打たれたなら、それで終わりとなるが、その逃走を許し、捕捉ができていないのでは、そのままにはできない。否、ガンドの性格を思えば、そのままにしておくことなど考えられない。


 本音を言えば、捨て置けと言いたいミルフィーユだが、ガンドはそれで納得する部下ではない。ヘタすれば手勢を動かし、その冒険者を追い回して、作戦に支障を出してしまう可能性もある。


 ミルフィーユというより、上官としては思案のしどころだ。


 私怨と言って切り捨てるのは可能だが、強引に不満を押さえれば、ガンドとの間にしこりが生じかねない。ここは部下の私怨にいくらか便宜を計るべきではないか。


「……たしか、協力を申し出ている現地の犯罪組織が、アンデッドの使者を寄越していたな。猟犬の仕事はそいつらにやらせればいいだろう」



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