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違いすぎると言っているのです

 ゴブリンを皆殺しにして、冒険者の仕事は終わりではない。


 無論、このままモーグの村に報告し、依頼票に達成のサインをもらえば、冒険者ギルドでゴブリン退治の報酬はもらえる。


 しかし、ウィルたちは横穴をふさいだ後、モーグの村にすぐには戻らず、ゴブリンの死体を漁った。


 ゴブリンには一応、光物を好む習性がある。とはいえ、しょせんはゴブリン、良くて数枚の銅貨かクズ宝石の原石、装備も錆びた小剣か短槍を持っていれば上等だ。


 全滅する前に村か旅人でも襲っていれば多少の実入りになるのだが、街道から離れた森の洞穴で暮らしていたゴブリンによる被害は、熟しかけていた穀物や野菜を盗まれたに留まる。


 それでもゴブリン退治の報酬と、二束三文の価値しかなかったゴブリンの所持品、副収入を得たウィル、ユリィ、リタ、セラの四人は、

初仕事を果たしたその日の夜、体を清めてから冒険者ギルド併設の酒場に行き、祝杯を挙げていた。


 初仕事成功の祝いの席なので、四人が囲むテーブルにはちょっと値の張る料理が数点、並んでいるが、大した報酬額ではないゴブリン退治を成功させた、駆け出し冒険者たちの身の丈と懐具合に応じた祝いの席である。ベテラン冒険者のいつもの食事に比べれば見劣りするという内容だ。


 それでも普段よりはいい物を食べ、エールやリンゴ酒を交わす、四人の内の三人の表情は晴れやかであったが、この場におけるセラの笑みは硬くぎこちない。


 いや、セラの表情にくもりが帯びたのは、正確にはゴブリンを全て退治した後からである。


 ゴブリンとはいえ子供を含めて皆殺しにしたことに、感情的には釈然としないが、行動として正しいのは頭で理解している。


 彼女が思い悩んでいるのはそうした心構えを含め、今の仲間たちとの釣り合いである。


 ゴブリンを子供まで禍根になるとして全て殺した、冒険者として正しい行動が今後、自分にできるかセラには自信がなかったが、それでもこれは心構え次第なので、これだけなら大して悩むことはなかっただろう。


 セラの心中に重いしこりとなっているのは、ウィル、ユリィ、リタとの実力さだ。


 リタの精霊魔法は、すでにベテラン冒険者と同等の域にある。聖杯から授かったという特殊能力を加味すれば、その実力はベテラン冒険者以上となるだろう。


 その特殊能力はウィルやユリィにもある。


 それに比べて、自身は初歩の御業が二つ、数度、使える、正真正銘の新米冒険者という実力しかない。


 特殊能力を除いて、初仕事の行動を一つ一つ思い起こしても、ウィルたちと比べて自分が見劣りしているのは明白だ。


 まったく同じではない新米冒険者らと組み、彼らに頼るだけの関係でいいのか。この先、自分が仲間の役に立てるのか。


 初仕事の収入は、この祝宴の費用を差し引いてから、公平に四等分することになっているが、仲間に劣等感や気後れを覚えているセラは、自分に仲間と同じ報酬を受ける資格があるのか、疑問を覚えずにいられず、


「……あの皆さん。考えたのですが、私に皆さんと同じ額を受け取る資格はないように思います。ゴブリン退治は実質、皆さんだけで成し遂げたのですから」


 ついに自らの内に抱え切れなくなったものを吐露する。


 突然のセラの申し出、真剣で何より思い詰めた様子に、ウィル、ユリィ、リタは杯を置き、互いに顔を見合わせ、


「そんなことを言いだしたら、私たちもゴブリンを殺した数が違う。そもそも、各々の役割も違う。私は三匹しか仕留めていない。が、追跡と偵察をした。そのような主張をし出したら収拾がつかなくなる。神官は回復がその主な役割で、仕事中に負傷せねば出番がない。それくらいは私たちは理解している。気にすることではない」


「そういうことではありません。皆さんと私では実力が違いすぎると言っているのです」


「それも言い出したら、私たち三人にも実力差はある。だが、パーティを組むに当たり、重要なのは得手不得手を補う合う役割分担と思うが?」


 水精族の少女の言わんとすることは、セラにもわからないわけではない。


 負傷してもそれを瞬く間に治す神官の御業は、戦闘の明暗を分かつこともある。回復役の重要視するのは、冒険者にとっては当然の見方だ。


 だが、ゴブリンの群れを一方的に倒したリタの実力を思えば、自分の出番が回って来るのか、セラは疑問を覚えずにいられない。初仕事でも、彼女が癒したのは村のおっさんだけだ。


 何より、仮にウィルたちが回復が必要とするほどの敵に出会った場合、果たして自分程度の御業で間に合うのかも、セラが疑問を覚えるところである。その時に備え、自分より徳の高い神官を仲間にした方が良いのではないか。


 だから、ウィルたちの今後のためにも、セラは身を引いた方が良いという結論に至ったのだ。



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