ハルバ伯爵様々だな
「ハルバ伯爵様々だな。まさか、自ら王と名乗れるまで勝つとは思わなかった。ハルバ陛下万歳と叫ぶべきか」
王によって処刑台の露と消えると思われたハルバ伯爵が、玉座
の一歩手前にまで至った事態に、ウィルが心から称賛を送るのも当然だろう。
半魔族の魔王の内政干渉とその支援を受ける獣人らの謝罪要求により、詰め腹を切らされるはずであったハルバ伯爵は、信じ難いほどの逆転劇を演じてのけた。
ウィルらのみならず、ハルバ伯爵は本拠地たるハルバ市に籠城をして、悪あがきの挙げ句に王に討たれるという大方の予想を裏切り、ハルバ市から出撃したハルバ伯爵は、今や自らが王を名乗り、王を、かつての主君を討たんとするところにまで至ったのだ。
無論、ハルバ市に在住しているとはいえ、ハルバ伯爵の内乱がこのままうまくいこうがいくまいが、ここまでくればウィルたちにはどうでも良い。傭兵や冒険者の多くが、ハルバ伯爵の勝勢に便乗し、立身出世を目論んで王城の包囲に加わっていようが、ウィルたちには関係ない話だ。
ウィルたちに重要な点は、ハルバ伯爵の勝利によってその本拠地たるハルバ市が無事であることだ。ハルバ伯爵の勝利で充分な時が得られ、安全性があると思われている間に、ウィルたちは購入した一軒家を売却することができた。
ハルバ伯爵の家臣や領民は自軍の勝利を単純に喜び、ハルバ伯爵がこの国の新たな王となるかも、という期待に湧いているが、ウィルたちの見解は大きく異なる。
ハルバ伯爵の軍才は予想外のものであり、その軍は確かに勢いを得ている。今の勢いで押し切れれば、ハルバ伯爵は王を討ち、自らが王となれるだろう。
今回の内乱がこの国のみのことなら、ウィルたちも勝ち馬に乗る方法を考えただろう。しかし、ウィルたちは家を処分して逃げ支度の真っ最中だ。
ハルバ伯爵が反乱に踏み切ったのは、半魔族の魔王からの内政干渉があったからだ。ハルバ伯爵が半魔族の魔王の内政干渉に動かされた王の処罰を拒んだからこそ、発生した内乱という点がウィルたちにハルバ伯爵に未来なしと判断させたのである。
仮に、ハルバ伯爵が内乱を征して王となっても、半魔族の魔王との対立関係は変わらない。ハルバ伯爵にいくらかの軍才があったところで、実質的に十一国を従える大勢力に勝てるわけがないのは明白だ。
いずれハルバ伯爵の優勢は劣勢に転じ、破滅する。腰を落ち着けたばかりのハルバ市だが、ハルバ伯爵の破滅に巻き込まれないためにも、ウィルたちは引っ越しの準備をしている。
だが、ハルバ伯爵へと迫る破滅の足音はわりと早足なものだったらしく、
「キダンの村がゴブリンに滅ぼされたぞ」
ハルバ伯爵の領内にある村が滅びたという凶報がハルバ市に駆け巡り、荷物をまとめていたウィルたちの耳にもそれが届いた。