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オレたちにはそんな習慣も余裕もない

「人間ならば銅像の一つも建てるところなのだろうが、生憎、オレたちにはそんな習慣も余裕もない。すまんが、今日の宴でこれまでの労いとさせてくれ」


 接待役のガヴェは、五人のホスト、ウィル、セラ、ユリィ、リタ、そしてサリアに軽く頭を下げながらそんな言葉をかける。


 ウルフマンの集落、建ち並ぶ二十軒ほどの木造の簡素な家々の中心にある広場では、ガヴェの言うとおり宴が、それも集落の規模に比して大がかりな宴が開かれていた。


 味はともあれ、量だけはかなり用意されたその宴は、ウルフマンらと、三人の人間、黒羽人に水精族の各一名では明らかに消費できないだけの酒と料理が置かれているが、それも当然だろう。


 なぜなら、ウルフマンの集落でのその宴には、ウルフマン以外の獣人の姿も、セラ、リタ、サリア以外の人間の姿もあるのだから。


 これだけの規模の宴が開き、参加できるほど、ウルフマンの、何よりこの地の獣人族の状況は好転している。さらに、ウィルたち以外の冒険者や、傭兵、商人が宴の輪に加わるほど、人間との関係も改善されてきている。


 ガヴェが口にしたとおり、獣人族の状況が、人間との関係が良くなったきっかけを作ったのは、ウィルたちの行動があったればこそだ。


 フォケナス、サイコ・ゴブリン、エンシェント・ドラゴンに敵わなかったウィルたちだが、それは相手が強すぎただけで、その実力は決して低いものではない。オークやゴブリンくらいの雑魚を蹴散らすくらいわけもない。


 ウィルたちはウルフマンの集落に押し寄せていたオーガーやゴブリンなどを蹴散らし、その危機を救った。余力のできたウルフマンらは、他の獣人を手助けに回ったが、この時点ではこの地の獣人族全体の劣勢、大勢に大きな影響はなかった。


 この地の獣人族の転機は、サリアが来て以降のことになる。


 ウィルたちは現金より現物での支払いを求めたので、ウルフマンに余力が生じた時点で、一度、ハルバ市に戻った。


 現金よりもかさばる現物を運ぶとなれば、サリアに声をかけて荷馬車を出してもらった方がいい。一方で、ウルフマンらも他の獣人にウィルらの強さを説くのに時間がいる。


 ウィルたちの活躍と荒稼ぎで、ウルフマンらは当面の脅威を撃退できたが、他の獣人らは苦しい状況が続いている。ウルフマンらは彼らを助けると同時に、ウィルらの雇用も勧めるつもりだ。


 そして、サリアを伴い、ウルフマンの集落にやって来たウィルらは、そのまま別の獣人に雇われ、再びオーガーやゴブリンを相手に遊撃戦を行い、新たな雇い主の部族の戦況も好転させた。


 この地の獣人族の戦況が全体的に好転していくのはこれからである。


 まずは冒険者、次いで傭兵を伴った商人が何組も営業に訪れたのだ。


 ウィルらはウルフマンから報酬を受け取ると、自分たちはそのまま新たな仕事についたが、サリアは報酬を積んだ荷馬車をハルバ市に走らせ、それを冒険者ギルドでベルリナと協力して、現金化、いや、大金に変えた。


 スウェアの町と現象的には同じで、市場への供給が少ない品は高騰して高値となる。サリアが持ち込んだ品々も同様で、市場で枯渇していて高騰していた物は、サリア、いや、ウィルたちを大儲けさせた。


 儲け話というのは、すぐに人から人に知れ渡る。冒険者、傭兵、商人が二匹目のドジョウを狙い、獣人族の元に向かい、大儲けするために戦い、あるいは支援して、オーガーやゴブリンらをどんどん撃退していった。


 もっとも、スウェアの町であった食料不足と同様、足りない物が市場にある程度、出回ると、市場価格は自然と下がり、落ち着く。後発の冒険者、傭兵、商人は儲け損なったが、獣人側はこれで苦しい状況から脱することができた上、人間との交易が再開できた。


 まだビジネスのみの関係だとしても、いずれ以前のように人間との交流が復活する。


 その時はその場にいた者たちはそう考えていただろう。


 互いに思うところやわだかまりがあり、獣人にも人間にもぎこちないところはあるが、それでもこの場にいる者らは宴を共に楽しんでいる。


 ウィルたちも獣人に対する警戒を解いただけではない。元々の好みもあり、行動を共にするうちにリタはガヴェと良い感じにもなっている。


 その明るく楽しい宴がたけなわになった頃合、


「オーガーやゴブリン共の大群だ! しかも、先頭には魔族の姿があるぞ!」




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