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支払いをどうすればいいことやら

「これはうちの部族が破産しかねんぞ。さてさて、支払いをどうすればいいことやら」


 嬉しい悲鳴と言うべきか。つぶやくガヴェの目の前には、昨夜の二戦目の戦果、十四匹のゴブリンと、何よりオーガーの骸が一つ、転がっている。


 オーガーは二メートル半にも及ぶ筋骨たくましい体躯と、ゴブリンのような醜い容姿を持つ亜人だ。特にこれといった特殊能力はないが、飛び抜けた怪力を有しており、その一撃を受ければ完全武装の騎士とて耐えられぬだろう。


 一度目のゴブリンとコボルトの混声部隊より数こそ上回るが、オーガー単体はゴブリンの十や二十に勝る。その手強いオーガーを一匹とはいえ討てたことは、この地に暮らすウルフマン、獣人の一人として、ガヴェは喜びを禁じ得ない。


 ただ、その大きな喜びには少なくない支出が伴う。昨夜だけでウルフマンには銀貨三十枚近い支払いが課せられたのだ。


 ウルフマンに限らず、この地の獣人族は基本的に自給自足の生活を送っている。ただ、人間と交流する上で生じた売買で、ウルフマンに限らず、獣人族の手元にはいくらかの貨幣がある。


 その貨幣は人間との交流が途絶えた今では、死に金となっているので、ガヴェはそれを冒険者の報酬に当てるつもりであったのだが、ウィルたちがこのペースで戦果を挙げれば、ウルフマンの手持ちは早晩、足りなくなるだろう。


 ガヴェの口にした破産という言葉は、あながち冗談ではないのだ。


「現金がなければ現物でもいいぞ。もちろん、現物は適正価格で引き取らせてもらう」


 支払いの心配をするガヴェに、ウィルはそんな提案する。


 この地の獣人らは獲物の毛皮、角、牙、爪など、食べられない部分は、人間に売り払っている。毛皮は言わずもがなだが、角、牙、爪も装飾品などの材料にするらしく、獣人からすれば要らない物を買ってくれる人間はありがたい存在であった。


「何なら、報酬分以上のそちらの要らない物をオレたちが引き取るが?」


 伊達に人の町で暮らしていたわけではないガヴェは、それでウィルの意図を察した。


 現在、人間との売買が途絶えているが、それは戦争が起きたからであり、獣人の要らない物の需要はあることはあるのだ。


 そして、需要のある物が途絶えているのだから、人の側で獣人の要らない物は高騰している。それを手に入れれば高値で売れるのは間違いなく、確実に大儲けできるだろう。


 もちろん、ウィルらが大儲けすることに、ガヴェは否はない。要らない物を引き取ってくれるのだからありがたいぐらいだ。


「では、オレたちは少し離れた場所にいる。さっきの話と、この死体の確認をしてもらってくれ」


 ウィルの言わんとすることを察し、ガヴェはこの提案にもうなずく。


 昨夜の戦果はあまりに大きすぎる。ガヴェが報告しただけでは他のウルフマンは信じないかも知れない。現物による支払いも視野に入れるという話をするならば、ウィルたちの戦果を確認させてその実力を把握させるという工程は不可欠なはずだ。


 五人は手早く荷物をまとめると、四人は新たな休息場所を求めてこの場より離れ、ガヴェは急ぎ足で集落に向かう。


 ガヴェの気持ちと足が逸るのも無理はないというもの。


 昨夜の戦果は大きい。これだけ戦力が減り、今夜以降の戦いははだいぶ楽になる、だけではない。


 そうはうまくいかないだろうが、この戦果を毎晩、積み重ねていけば、自分たちの危機のみならず、この地の獣人族全体の劣勢がくつがえるだろう。


 苦しい戦いに耐えてきたガヴェは、この光明を同胞に少しでも早く伝えるべく、自然と同胞の元に向かう足が早くなっていった。



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