表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/168

金のためにゴブリンを殺しに来た

 疑問というより、同じ新米冒険者として、あまりに違いすぎるスタートラインに、納得いかないことが多々あるセラだったが、冒険者としての初仕事がまだ終わったわけではない。


 ノームとゴブリンでは勝負になるわけがないが、仕事である以上、確認を怠るわけにはいかない。


 リタが掲げる短槍の光を頼り、四人はウィルを先頭に洞穴に入って奥へと進んだが、目にするのはゴブリンの死体ばかりであった。


 ノームにボコられて死んだゴブリンの死体は、頭や体が歪にひしゃげているものが多く、中には小さな体の半分が原形を留めていないものもあった。


 それでも念のためと、ウィルはその一つ一つを槍で突き、死んだフリをしていないか確かめたが、洞穴の奥に至っても転がっている十と少しのゴブリンは、何の反応も示すことはなかったが、


「……この先に気配がある」


「ああ。何かいるようだ」


 ウィルが気づき、ユリィが肯定したのは、洞穴の奥の一角、木の板が立てかけられている前のことであった。


 洞穴の奥はわりと広く、ゴブリンたちはここを生活の場としていたのだろう。寝床代わりに敷かれた枯草や、食べ物を食い散らかした後が、あちらこちらで見受けられた。


 その洞穴の奥にある、どこからか拾って来た板で小さな横穴との仕切りに使っていたのだろうが、


「精霊の知覚は魔法的なもの。暗闇とかは関係ない。ただ、大雑把に感じるぐらいだから、こんな板一枚でも隠れられると知覚しない」


「……けっこう、数がいるぞ。小さな横穴だが、ゴブリンなら何体か隠れられるだろう」


 リタが精霊の知覚について説明し、四人の中で最も知覚か鋭敏な野伏のユリィが、気配を探った結果を口にする。


「よし。セラ、たしかホーリー・ライトが使えたな?」


「はい、使えますが……」


「オレが板をどける。その時、横穴にホーリー・ライトを叩き込んでくれ」


「えっ、ですが、あの術は……」


「目眩ましになる」


 この説明で、ようやくセラはウィルの意図を理解した。


 ホーリー・ライトは聖なる光を放ち、悪魔やアンデットのような邪悪な存在にダメージを与える御業だ。ただ、ゴブリンのような普通の魔物に放っても、ダメージを与えられるわけではない。


 しかし、聖なる力が通じなくとも、放たれた光を直視させれば、一時的な目潰しになる。


 実際、ウィルが板を蹴飛ばした直後、


「地母神よ! 邪を滅する光をここに! ホーリー・ライト!」


 セラの放った光によって、横穴の中からいくつもの苦しげな鳴き声が響く。


 そして、すぐに聖なる光が消え去った後、リタが短槍の先に灯る光で、高さは子供の背丈ほどだが、奥行きが思いの他ある横穴の中を照らし出すと、たしかにそこには十近いゴブリンがいた。


 ただし、低い天井に頭がまるで届かない、ゴブリンの幼体が。


 聖なる光というより、単純に光を直視したゴブリンの幼体たちは、目を押さえて苦しげにうずくまっていたが、


「ギャア……」


 地面に膝を突く窮屈な姿勢で繰り出したウィルの槍を受け、一匹がこれ以上、苦しむことがなくなる。


 さらにウィルは槍を横穴の中へと何度も繰り出し、


「ウィル! 何をしているんですかっ! ゴブリンとはいえ、まだ子供なのですよ!」


 セラが抗議の声を上げるが、ウィルの槍もゴブリンの悲鳴も止まることはなかった。


 セラはウィルに歩み寄ろうとし、


「セラ。何をするつもりだ」


 それをさえぎるユリィ。


「何をって、相手は子供なのですよ」


「ああ。だが、ゴブリンの子供だ。大きくなれば、人を襲う。それがわかっていて見逃す方が問題があると思うが?」


 そう反論されては、セラに抗弁の言葉はなく、救いを求めるようにリタに視線を転じる。


 が、リタは無言で首を左右に振るのみ。


「どんなお題目を言おうが、オレたちは金のためにゴブリンを殺しに来た。それを割り切るのも仕事の内だ」


 短い口論の間に、淡々と作業をこなし、虐殺を終えたウィルは、槍先がゴブリンの青黒い血でべったりと染まった槍を引きながら、横穴から出て来る。


 抗弁する言葉だけではなく、理由もなくなり、絶句するセラは、


「全部、仕留めたと思うが、無理な姿勢だったから、自信はない。たしか、大地の精霊に働きかければ、これくらいの穴ならふさげたと思うが?」


「うん。ふさげる」


「なら、頼む」


「うん。わかった」


 事なげもなく徹底した非情な処置が定まり、地母神に仕える少女はゴブリンの冥福を祈った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ