何かしらの答えを出したいと思います
ウィル、セラ、ユリィ、リタが冒険者稼業を再び始めたのは春の初めであったが、別に秋の終わりに訪ねたフォケナスの教会で冬眠していたわけではない。
フォケナスの口からしょっぱい真実を聞いたウィル、セラ、ユリィが一冬どころか、一泊しただけで下山したのは同行したルウがこれ以上の長期休暇を嫌ったからである。
言うまでもなく、そのしょっぱい真実に最も心に痛手を負ったセラは茫然自失となったままであったが、それはフォケナスの教会に留まったからと癒えるものではないので、ルウの意向を汲んで訪れずた翌日にはブランムの町の近くまで一同は送ってもらったのだ。
ブランムの町でリタ、メイリィ、サリア、ベルリナと合流したウィルたちだったが、セラの心の問題はすぐにどうこうできるものではないので、一同は別の問題に着手することにした。
エンシェント・ドラゴンの角の破片の売却。
物が物なので、それなりに大きな町、どこかの都市に持ち込まねば、鑑定も買い取りもできるものではない。そして、ブランムの町から最も近い都市は、ハルバ伯爵の本拠地であるハルバ市であった。
ちょうどハルバ伯爵を暗殺するという野暮用もあり、一行はルウが先行する形でハルバ市に向かった。
正確には、先行したルウがハルバ伯爵を殺してハルバ市を出て、近くの村に留まっていたウィルたちに別れのあいさつをし、渋るメイリィを連れてルウは職場復帰に向かったのだ。
それから領主暗殺の騒ぎが落ち着くのを待ってから、ウィル、セラ、ユリィ、リタ、サリア、ベルリナはハルバ市に行き、冒険者ギルドにエンシェント・ドラゴンの角の破片を持ち込んだ。
物が物である。ハルバ市の冒険者ギルドはちょっとした騒ぎになった。また物が物なので、真贋をだいぶ疑われたが慎重な鑑定の末、かなりの高額で引き取ってもらえた。
売却金を八等分して、二人分はルウやメイリィの元に送金すると、ウィルたちはお金を出し合い、ハルバ市で一軒家を購入し、六人はそこに腰を落ち着けた。
住所不定を解消すると、ベルリナがハルバ市の冒険者ギルドに再就職し、サリアが運送業を、ウィル、ユリィ、セラ、リタが冒険者稼業を再開した頃には、いつもの間にか冬も終わろうとしていた。
一冬という日数を経ても、セラの心の傷、信仰への疑念はまだ解決していない。塞ぎ混むその様子に、売却金の配当した後、ウィルやユリィはどこかで静かに暮らすことを提案したが、彼女は首を左右に振り、
「皆さんに迷惑をかけて申し訳ありませんが、目を背けずに何かしらの答えを出したいと思います」
一冬という日数の間に多少は割り切ることができたか、地母神の神官、そして御使いとして復帰したので、今、ウィルらと共にガヴェの前にいる。
ただ、心の整理は完全についていないらしく、昔と違い、今のセラの表情は常にかげりが見られるが。
一軒家を購入しても手元にそれなりの金が残っているが、いつまでも遊んでいるわくにはいかず、冒険者稼業を再開したウィルたち四人がハルバ市の冒険者ギルドで初仕事で選んだのがスタンダードなゴブリン退治。
もっとも、このゴブリン退治は獣人からの依頼であるので、いつも通りというわけにはいかない。
戦争で不足した戦力を冒険者などで補おうと考えた獣人は、実のところウルフマンが初めてではない。ウルフマンのこの行動は三番煎じぐらいなのだが、問題は前二例で獣人族が強い不信感を持たれた点だ。
冒険者を雇い、共にオーガーやゴブリンらを倒した後、戦争での恨みを引きずっていた獣人が後ろから刺したり、毒を盛ったりし、雇った冒険者を殺してしまい、その話はこのハルバ市にも伝わっており、ハルバ市の冒険者ギルドの新人職員であるベルリナを通じて、ウィルたちも耳にしている。
獣人による凶行はその部族の総意というわけではない。人間に強い恨みを抱いていたその獣人個人の暴発だ。同胞の不始末に獣人らは慌てふためき、刺された冒険者の手当てをしたり、冒険者らに毒消しを飲ませたりもしている。
だが、個人の暴発とはいえ、こうして戦争の遺恨が表面化すると、冒険者たちは当たり前ながら獣人からの依頼に二の足を踏むようになり、ウィルらの提案らは妥当なものと認めるしかない。
ウルフマンと行動を別にして、ウルフマンが直に戦っているオーガーやゴブリンでなくとも、戦果に応じて冒険者に報酬を支払う。
直接的に害になっているオーガーやゴブリン以外の討伐も、間接的、将来的な害の軽減につながったと見なして報酬が発生するのは、余裕のあるわけではないウルフマンにとっては苦しい提案だが、同胞が犯した失態を思えば冒険者がウルフマンに従い、行動を共にするのを避けようとしても仕方のないことなので、
「……わかった。そちらの言う内容に依頼票を書き変えよう」