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先達の二の舞いになりたくないんでね

 ウルフマン。


 直立した狼のような姿をした、獣人族の一種と、今、ウィル、セラ、ユリィ、リタの四人は相対していた。


 ガヴェという名の、灰色、スタンダードな毛並みをしたそのウルフマンは、革の鎧を身に着け、腰に半月刀を下げている。中背のウィルより頭ひとつ分ほど背が高いので、ウルフマンの中では体格が立派な方だろう。


 最近、代替わりしたばかりのハルバ伯爵の本拠地たるハルバ市の冒険者ギルド、そのテーブルの一つで、ウィルたちは今回の依頼主であるウルフマンのガヴェと仕事について打ち合わせを行っている。


 ガヴェというより、ウルフマンの集落からの依頼内容は至ってシンプル。集落の近くに棲み着いたオーガーやゴブリンなどの退治というもの。


 ただ、このシンプルな依頼を複雑にしているのは、この国と獣人たちが少し前まで戦争していた背景だ。


 獣人族は部族によって、光の陣営に属している集団もあれば、闇の陣営に属している集団もある。中立、コウモリというスタンスというわけではなく、光と闇という区別に頓着せず、部族単位で親しい勢力を味方と考えているのが、獣人族全体に見られる傾向だ。


 ガヴェらウルフマンだけではなく、この一帯の獣人族は古くからオーガーやゴブリンなどと敵対関係にあり、一方でこの国とは友好関係にあった。


 その友好関係が一変したきっかけは、少し前まで最大の勢力を誇っていた太陽神の教団の方針であった。


 当初、太陽神の教団は闇勢力の根絶をうたい、光の陣営に闇の陣営の全面攻勢を促すだけであった。それが光の陣営にも闇の陣営にも味方する獣人族のような者たちはけしからんと言い出し、これが人族と獣人族の対立の端初になる。


 正確なところ、この国では獣人族を支配下に置くことで軍事力の強化と豊かな森を手に入れることを計ったハルバ伯爵が、太陽神の教団の方針に便乗する形で、獣人族と戦するように仕向けたのだが。


 ハルバ伯爵の率いる人の軍隊とオーガーやゴブリンらと同時に戦うことになった獣人族は、苦しい状況に置かれて多くの犠牲を出した。


 しかし、敵を作りすぎる太陽神の教団の方針が仇となり、光の陣営が敗北すると、ハルバ伯爵は優位な戦いから退くしかない政治状況になり、獣人族はこの国の、そしてハルバ伯爵の奴隷となる事態を回避できたが、戦争による後遺症としこりは回避することはできず、今も苦しい状況にある。


 まったく非のない獣人族は現在も、人間との戦いで弱った状態でオーガーやゴブリンらと戦い続けている。しかも、この国と戦う以前に有していた、人間との友好関係で得ていた優位を失った状態で、だ。


 そして、自らの非を認めないこの国との関係改善の見込みがなく、さりとて苦しくともオーガーやゴブリンらとの戦いを止めるわけにはいかない獣人族の中でウルフマンらは、冒険者を雇っての事態の打開を計った。


 そのウルフマンの代表として苦境の原因の本拠地に足を運び、冒険者ギルドの依頼を出したのがガヴェであり、その依頼票を手にしたのが、ホームグラウンドを壊滅したスウェアの町からハルバ市に移したウィルたちであった。


 かくして、ハルバ市で三人の仲間と共に冒険者としての活動を再開したウィルは、依頼主であるガヴェに依頼票を差し出しながら、


「基本的にはこの依頼を受けさせてもらうが、そちらの指示で戦うつもりはないし、報酬についてもゴブリンとかを倒した数でもらえる額が変わる出来高制にしてもらいたい。あんたらの前に立って、後ろから打たれた先達の二の舞いになりたくないんでね」




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