信仰は御業の行使の有無や強弱に関係ないのか?
「いやいやいや。別にオレたちはそんな話で来たわけじゃないら」
「何と。温泉まんじゅうは気に入ってもらえなかったのですか。これはサブレの方にするべきでしたか」
「そもそも、温泉まんじゅうってなに?」
ウィルに否定され、フォケナスは目に見えて、お土産のチョイスに後悔の色を見せる。
同時に、温泉まんじゅうを食べたことも聞いたこともないルウが、いぶかしそうに首をひねる。
ルウにはユリィが「後で説明するから」と話がややこやしくならないようにし、
「しかし、サブレや羊羮であっても、温泉まんじゅうと同じく……」
「いや、そんな話じゃなく、ここにいるセラが、魔獣神に祈ったら、御業が使えたんだ」
「それがどうかしましたか?」
ウィルが軌道修正した途端、今度はいぶかしそうに首をひねるフォケナス。
「彼女は御使いで、我が神に祈った。なら、当然のことですよ。勝手に御業が発動したわけではないんでしょ?」
「いや、セラは地母神を信仰している。なのに、信仰していない魔獣神に祈りが届くのは、明らかにおかしいだろうが」
「信仰なんて関係ありませんよ。御使いはいかなる神に祈ろうが、御業は使えますよ。理論上はですが」
大前提をくつがえす発言に、
「何を言っているんですか! 信仰、神への祈りとは、そんな適当なものではありません! 強い信仰心、真摯な祈りだからこそ、神は応えてくれるのではありませんかっ! 私は地母神に祈り続け、その祈りがある日、届き、御使いとなりました。これこそ、信仰が、神への祈りこそが、何よりも重要である証拠でなくて何のですかっ!」
セラは顔を真っ赤にして声を張り上げ、フォケナスをきつく睨みつける。
フォケナスの言葉は、自らの、いや、全てを信仰を否定するものだ。セラとしては、全てを賭して認めるわけにはいかない。
が、そんな未熟な女神官の勘違いを前に、
「祈りとは、神への感謝の表れにすぎません。神に強く祈ろうが軽く祈ろうが、それは個人の問題でしかなく、強く祈れば良い、軽く祈るのは悪いということになりませんよ」
祈るという行為の根幹、当たり前な点を口にするフォケナス。
「そう言われては、その通りかも知れません。ですが、現実に神への祈りが届く者がいます。それは祈りが、その者の信仰が神に認められたということであるはずです」
「つまり、神が強い信仰心を認め、弱い信仰心を軽視していると言われるわけですか?」
「それは……」
そのように問われては、セラも言葉に詰まるしかない。
「質問だ。信仰心が関係ないなら、セラは太陽神に祈っても、御業が使えるのか?」
「理屈の上では可能です。ですが、実際に発現することと同義ではありません」
黙したセラに代わり、口を開いたウィルの問いに、フォケナスはそう答える。
「それは、セラが太陽神を信仰していないから、行使できないのか?」
「そうとも言えます。おそらく、太陽神に改宗すれば、素質はあるのだから、まず使えるでしょう。もちろん、今と同等の信仰による認識度と、地母神と同じくらいの相性が太陽神との間にあることが条件となりますが」
「では、ズバリと聞くが、信仰は御業の行使の有無や強弱に関係ないのか?」
「なくはないですが、御使いにとって信仰はさほど重要なものではありません。御使いの優劣を決める要素は、素質、認識、相性の三つです。当然ですが、精神力にも優れているに越したことはありませんが」