いくらでも頼ってもらっていいのに
年の頃は、メイリィと同じくらいだろう。
ダーク・ブラウンの髪と瞳のその少年は、ありきたりな平服を着ており、教会のもっと近くで出会っていれば、フォケナスが買い集めた供物、新顔の一人と思っただろう。
ただ、少しよく観察すれば顔立ちに平民のそれとは違う気品もあれば、服や靴がこの教会で暮らす子供の物にしては、良い布地や革でできている。
何より、ウィルたち四人の疲労を回復させた点から、この少年が足跡の主であるのだろう。
「まさか、ボク以外に歩いてここに来るヤツがいるとは思わなかったよ。君たちは運がいい」
魔獣の棲息地を踏破する困難さは想像以上だったので、ウィルたちはこのカミサマと名乗る子供がいなければ、ここにたどり着けなかった公算が高い。
だが、相手の正体がわからねば、その幸運を素直に喜ぶのは早計だ。
「何か警戒しているね。無用なのに、って言っても無駄そうだ。まっ、怪しい相手と関わりたくないというなら、仕方がない。けど、ボクの方が先に来たから、ボクの方の用事を先にさせてもらうよ。なに、そんなにかからないから」
少年は言いながら視線を動かす。
体毛が体毛なので気づくのに少しかかったが、ほどなくウィルたちも少年の視線の方から駆け寄って来る黒い小犬、魔獣神の存在を察知する。
「ウーッ、ワンワン」
少年の傍らに駆け寄った魔獣神は牙を剥いて唸り、吠えて、来客にノーサンキューの意を伝える。
魔獣神よりいくらか遅れて、神官服にアフロ頭のフォケナスも姿を見せ、
「どうされました、我が神よ。そちらの神と何かありましたか?」
ウィルたちに軽く会釈をしてから、神と神の対立に介入する。
「いや、何もないよ。いきなり吠えられて困っているんだ」
「我が神が意味もなく吠える神格をしているとは思えませんが」
世間のイメージと違い、魔獣神は好戦的とはほど遠い、子供と戯れるのを好む、穏やかな邪神だ。それを知るフォケナスは、カミサマに対して、大きな警戒感を示す。
「それは同感だけど、なぜか、こんな歓迎を受けている。酷いよね。ボクは先の大戦でここのことを聞いて、困っていることがないかと思って来たのに」
「寄付をしてくれるなら、ありがたくちょうだいさせてもらいます。ただ、我が神がこの様子なので、お礼に茶の一杯も振る舞えませんが」
「お金に困っているなら、それを含めて解決してあげるよ。君なら、ボクに祈れば、それでノープロブレムだ」
「あいにく、我が神に祈れば、大抵のことは解決します。それで解決しないことは、私の頑張りと、あの子たちの頑張りが足りないだけでしょう。しかし、自力で何とかならないからといい、他力本願に走ることが良いとは思えません。うまくいかなくとも、何とかなるまで自分で頑張ることが何より大切と考えています」
「何だ、つまらないな。ボクとしては、いくらでも頼ってもらっていいのに」
「仮に、何の代償もないし、それでうまくいったとしても、堕落を招くだけですよ」
「どうやら、本当に面白味のないヤツみたいだ。何か願いを叶えてやりたかったけど、そちらが望まないなら仕方ない。これ以上、長居すると噛まれそうだし、ボクはこれで退散するよ。まっ、気が変わったら、いつでも祈ってもらってもいいよ。そちらのお嬢ちゃんも含めてね」
そう言い残して、招かれざる客は来た道を引き返して行った。
魔獣の棲息地を軽い足取りで。




