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大きさからして、子供

「アンタら。こんな所を踏破しようなんて、無茶もいいトコよ」


「ルウ姉がいなければ、やろう何て考えない無茶だよ」


 バンパイア・ツリーから伸びてきたツルを、見えにも見えない動きとナイフさばきで全てズタズタにしながらのルウの悪態に、ウィルとしてはそう答えるしかなかった。


 ウィル、ユリィ、セラ、ルウの四人は、現在、フォケナスの教会へと赴こうとしていたが、言うまでもなくその目的地は魔獣の棲息地のど真ん中にある。 


 そんな場所に足を踏み込めば、ウィルやユリィといえども、ひっきり無しに襲いかかって来る魔獣のエサとなっていただろう。しかし、ルウがいるおかげで、ひっきり無しに襲いかかって来る魔獣らは、ことごとく痛めつけられて追い払われている。


 これほどの危険をおかしてまでフォケナスを訪ねようとする理由は明白。突如、魔獣神に祈って御業が使えるようになった、セラの信仰を揺るがす問題を解決するためである。


 物心ついた時より地母神に祈り続けてきた御使いにとって、信仰の根幹に関わる大問題。その答えを得ずして、これまでのように地母神に祈ることなどできようはずがない。


 だが、その答えを知るであろうフォケナスの住所は、聞きたくとも気軽に聞きに行ける場所ではない。本来なら諦め、可哀相だがセラに一生、その苦悩を背負ってもらうしかないはずであった。


 しかし、それではセラの、地母神に仕える神官の人生としては終わったも同然だ。だから、危険を承知で、無理も承知でルウに頼んだのである。


 もっとも、エンシェント・ドラゴンをも上回るルウの実力ならば、魔獣の棲息地をも歩き回ること自体はそれほどの危険でも無理でもない。だが、魔獣から身を守る術があることと、魔獣の棲息地を踏破できることは同義ではない。


 セラが答えを得るには、フォケナスの元にたどり着くには、ある意味でルウよりもユリィの能力如何で決まる。


 ウィルたちは連れて来られた際も、帰される際も、空路を用いられており、魔獣の棲息地を歩くのはこれが始めてなのだ。


 フォケナスの教会のある位置や方角がだいたいわかるとしても、それでうっそうと繁る魔獣の棲息地を進めるというものではない。


 野外活動に長けるレンジャーとして、一行の先頭に立つユリィだが、方角の確認と位置の把握に四苦八苦しており、


「……確実に近づいてはいると思うけど、正直、私の手に余るは、ここは。セラに悪いけど、迷ったらすぐに引き返すからね」


「はい。その時は覚悟します」


 ここまでしてくれる仲間にこれ以上の無理を求めることなどできようはずもなく、セラは硬い表情で最悪の結果、神官を辞めることすらも念頭に置いて、そう答える。


 できればセラの問題を何とかしたいユリィの、苦労しながら歩みが不意に止まり、


「……足跡……靴跡がある。大きさからして、子供。数は一人分なんだけど……」


 第一発見者の苦悩は、たちまち他の三人も共有するところとなる。


 獣の、魔獣の足跡など珍しくない場所だが、人の、子供の足跡となると、まずあり得ない場所だ。


 フォケナスの元にいる子供の誰かのものとは思えない。子供が踏み込んで無事ですむ場所ではない。周りに大人の靴跡、フォケナスのものか、小さな獣の足跡、魔獣神のものがあればまだ納得できるのだが、それも見当たらないだけではなく、


「……この靴跡は外から内にまっすぐ、しかも迷いなく伸びている」


 フォケナスの元にいる子供の誰かの靴跡なら、このような場所で迷わぬはずがないし、そもそも外から内にまっすぐに伸びているのもおかしい。


 ただの獣ではなく、魔獣なら子供に変身できる能力があってもおかしくないが、そうだとしてもこの靴跡は不自然だ。


「方向的には間違っていないから、いい目印ではある。もちろん、帰り道を覚えはする」


 ウィルもルウもユリィとは長いつき合いだ。言外に、これを当てにしないと自分ではたどり着けないと言っているのだ。


 根拠はないが、ウィルもルウも直感的に避けて通るべきと思っているのだが、それでは正解に至れないのであれば仕方ないというもの。


 ほどなく、その靴跡は四人分の靴跡に上書きされていった。



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