ちょっとした隠し芸みたいなものだ
精霊使いは精霊を召喚中、精神を集中させて乱してはならない。
それゆえ、精神集中に没頭するリタの側では、ウィル、ユリィ、セラが地面に◯Ⅹを書いて暇潰しをしていた。
もっとも、セラはリタに対する後ろめたさと、時折、洞穴の中から響くゴブリンのカン高い悲鳴に気を取られ、連戦連敗だったが。
「片づいたか」
ユリィに二勝、勝ち越しを決めた直後、リタが精神集中を解いたのに気づいたウィルが、手にしていた棒切れを放り捨てる。
「くぅぅぅ。仕方ない。行くか」
悔しげに唸りながら、ユリィも手にする棒切れを捨てる。
槍と弓矢を手にする二人と共に、セラはリタの側に歩み寄り、
「大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないのはゴブリンの方。だいたい、片づいたと思う。けど、確かめた方がいい。当然だけど」
セラに答えながら、リタは短槍をウィルの方へと向ける。
「槍先に宿れ、光よ」
ウィルがつぶやくと、リタの短槍の先が淡く輝き出す。
「……なっ……」
「便利だな、相変わらず」
「松明を使わず、温存できるとは、我ながら素晴らしい能力だ」
恒例のように驚くセラの前で、軽口を叩き合うユリィとウィル。
無論、セラからすれば軽く流せるわけがなく、
「魔術師……いえ、魔法戦士だったのですか?」
「ははっ、オレのこれは槍先限定の付与っていう、まあ、ちょっとした隠し芸みたいなものだ。これで魔法戦士なんて名乗ったら、本職に申し訳ない。ましてや、本当の魔術師などと比べるべくもない」
「……槍先限定……その特殊能力があるから、皆さん、槍を武器にしているんですね」
「それもある。最大の理由は安いからだが」
ユリィの言う通り、槍は剣や斧よりリーズナブルな武器だ。しかも、安いだけではなく、剣や斧よりも扱い易い。
「リタの先ほどの召喚も、特殊能力によるものなのですか?」
「そう。下位精霊限定だけど。でも、うまくすれば、二十体以上召喚できる。うまくいかないと、あれっぽっちだけど」
下位精霊でも、二体以上召喚できる時点で、大したことである。
「……どうやって、あのような特殊能力を身に着けたのですか?」
「神父樣いわく、誰にも秘められた力があるそうだ。しかし、ほとんどの者がそれに気づかない。だが、幸い、うちの教会には聖杯があってな」
「聖杯! まさか、そんな……」
「もちろん、うちの教会でそう言われているだけだ。教団から正式に認定されていない」
ウィルが苦笑しながら言うのも当然のことだろう。
聖遺物。聖人の遺骸や遺品というのは、どこの神殿、教会でも祭られている。セラの育った教会でも、ある聖人の遺骨の一部があった。
聖杯は聖遺物の中でも最高峰のものだ。その聖杯は現在、教団から認定された物だけで十三を数え、認定されていない物は百や二百ではきかない。
高名な聖遺物を保持しているとなれば、それだけその神殿や教会の権威が高まる。だから、偽物と承知で祭っている教会も少なくない。セラとて、自分の育った教会の聖遺物が本物かと問われれば、絶対の自信はなかった。
「……もしかして、ユリィも聖杯から力を授かっているのですか?」
「ああ。大した隠し芸ではないがな」
「いったい、皆さんはどうやって聖杯から力を授かったのですか?」
「別に難しいことをやったわけじゃないぞ。聖杯を水で満たし、そこに木の葉を一枚、浮かべる。それに触れた際の変化で、力のあるなしとどのような力なのか、神父樣にはわかるそうだ」