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単なる皿洗いのバイトだしね

「つまりは、一件落着したってわけ?」


 知らず知らずに『弟』が呼び出したエンシェント・ドラゴンを撃退したルウが、ブランムの町で弟や妹らと再会するのに大した日数を必要としなかった。


 メイリィを先行させたルウがスケルツの町に到着した時、カサードの町が滅びたことは伝わっていたが、滅びたばかりのスウェアの町のことは伝わっていなかった。


 ただ、距離的に朝早くスケルツの町を出れば、夕方までにはスウェアの町に着くので、滅びたカサードの町を素通りするつもりで進発すれば、エンシェント・ドラゴンと戦うことになり、それに勝利を収めて進み続ければ、今度はスウェアの町でゾンビの大群と出くわすこととなる。



 孤児院でも最速を誇る彼女はゾンビの群れをあっさりと振り切ると、予想外の野宿の後、ブランムの町に向かった。


 地理的にスウェアの町と街道でつながっているのは、カサードとブランムの町のみ。カサードの町が滅びた後、スウェアの町が滅びたなら、ウィルたちが生きている場合、ブランムの町に身を寄せていると判断したからだ。


 かくして、住所不明となった弟と妹たちを探しにブランムの町へと至ったルウは、すぐにウィルらと合流することができた。


 ブランムの町に押し寄せたアンデッド・ナイトやゾンビらを撃破した際、活躍したウィルらのことは少し聞き込みすれば知ることができ、到着した日の昼飯時には、ウィルらが泊まっている宿屋の側にある飯屋で、ルウは弟と妹三人、その他三名と同じテーブルで顔を合わせていた。


 ウィルは昼食を取りながらセラやサリア、ベルリナを紹介し、ここ数日であったことを説明している最中、ルウが軽い口調でエンシェント・ドラゴンを追い払ったことを告げ、彼女は一件落着と判断したのだ。


 たしかにサイコ・ゴブリンは死に、エンシェント・ドラゴンは去った。スウェアの町を滅ぼしたアンデッド・ナイトやゾンビの群れがいるが、これはその気になればウィル、ユリィ、リタだけで倒せる。


「これでアンタらは河岸は変えるけど、また冒険者稼業に戻るってわけね。で、うちもメイリィを教会に連れて帰れば、お役ごめんってわけだ」


「えっ、もう帰る気なんですか、ルウ姉」


「さすがに今日は宿で一泊するけど、明日の朝には出るよ。うちもいつまでも仕事を休んでいるわけにもいかないんだ。アンタがもう少し残りたいなら、ウィルらに頼みな」


 久々に会った主にウィル、ついでにユリィやリタともう少し一緒に居たいという、メイリィの気持ちもわからないではない。


 だが、ルウとて仕事があるから、長々と油を売っているわけにはいかない。


 だから、ウィルらに頼むよう、つまり孤児院まで送ってもらうように言ったのだ。


 いかにメイリィが強くとも、未成年に独り旅をさせるわけにはいかない。なので、メイリィの要望を叶えるなら、ルウが滞在を伸ばすか、予定どおりに帰るルウの代わりにウィルらがメイリィを送るしかない。


 ルウとしては、久しぶりに孤児院の皆に顔を見せな、という意味も込めて提案したのだが、


「なあ、ルウ姉。引き続き迷惑をかけて悪いが、もう少しつき合ってもらうわけにはいかないか? それとも、どうしても外せない仕事があるのか? たしか、ルウ姉って起業したって聞いているけど……」


 弟のお願いにルウは目に見えて不機嫌になる。


「あっ、やっぱり、どうしても外せない仕事が……」


「ないよ。とっくに廃業しているから。今、やっているのは、単なる皿洗いのバイトだしね」


 孤児院出身者の就職難は今も少し前も変わらない。


 ウィルの兄や姉の中には就職を諦めて起業した者もいる。ウィル、ユリィ、リタが仕方なく選んだ冒険者稼業とて、個人事業主のようなものだ。


 起業した兄や姉の中には、事業がうまくいった者もいるが、失敗している者も当然いる。後者の一人であるルウは、現在、前者の一人である店で世話になっている。


「そう言えば、仕事がうまくいかなかったってのは聞いたけど、結局、ルウ姉って何の仕事を始めていたんですか?」 


 小首を傾げながらのメイリィのぶしつけな質問に、


「殺し屋」


 憮然と前職を告げた。


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