他所でやってくんない?
年の頃はベルリナと同じくらい。背丈はユリィと同じくらいであろう。
黒い髪をショートヘアにし、浅黒い肌でスレンダーな体つきの、中性的ながら美しい容姿の娘だが、エンシェント・ドラゴンやアンデッド・ナイトからすれば、人間の外見、個体差なぞはどうでもよいこと。
エンシェント・ドラゴンは抜け目なく娘の武装をチェックしたが、革の服に護身用のナイフという軽装。肩から下げる荷物にも、武器を隠しているようには見えない。
「ドラゴンさん、ドラゴンさん。この辺りにうちの弟や妹が住んでいるから、暴れるにしろ、棲みつくにしろ、他所でやってくんない?」
エンシェント・ドラゴンに引っ越しを求める。あまりに不遜なその態度を受容すべき理由などなく、
「その矮小なる存在をか……っ!」
アンデッド・ナイトに始末を命じようとした途中、娘の姿が消えると、死体に戻って力なく倒れていくアンデッド・ナイトの傍らに、ナイフを手にする娘の姿が出現する。
「……小手先の技の使い手が他にもいたか」
メイリィの『小手先の技』を思い起こし、怒気を震わせながら吠える。
だが、エンシェント・ドラゴンの怒気にも咆哮にも臆することなく、
「さて、ドラゴンさん。引っ越しをしてくれるかしら?」
「矮小なる存在がっ!」
あくまで留まる意思と攻撃の意思を見せたため、娘の姿が再びかき消える。
同時に、エンシェント・ドラゴンは激しく長い首を振り出す。
メイリィの業ならば、エンシェント・ドラゴンの対応で不発に終わっただろう。どれだけ迅く動こうが、足場であり、また振動波を叩き込む頭部がこうも激しく動いていては、どうにもならない。
だが、三つどころか、八つの残像を生み出したその娘は、エンシェント・ドラゴンの四肢のつけ根にナイフを突き立て、九つの傷を与える。
「グアッ」
ちんけなナイフに黒き鱗を砕かれ、けっこうな深手を負ったエンシェント・ドラゴンは、痛みに耐え、四肢を踏ん張らねば立っていられぬほどの状態になる。
「さて、ドラゴンさん。引っ越ししてくれるかな? でないと、葬式を出させてもらうけど、次は」
「……認めよう、矮小なる存在が我を上回っていることを」
その高い知能を以て、矜持よりも生存本能を選ぶ。
「従おう、矮小なる存在の意に。そして、感謝しよう、我が命を奪わなかったことを」
四肢を傷つけた攻撃が急所にくればどうなるか、考えるまでもない。手加減して自分を追い詰めた矮小なる存在に頭をわずかに下げると、その翼を羽ばたかせてエンシェント・ドラゴンは本来の棲み処へと帰って行く。
「さて、急ぐか。何とか、スウェアの町に今日中に着けるといいけど」
そして、弟と妹ら、さらに先行した妹もいると思い、娘は滅びたばかりの町へと向かった。