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それ以上の関係になりたいんですけど

「太陽神よ! その全てを癒したまえ!」


 メイリィの祈りは太陽神に届き、ウィルは完全回復を果たす。


 エンシェント・ドラゴンを辛うじて撃退した後、ウィルはサリアやベルリナと共に、荷馬車の荷台に積んだ荷物の大半を捨て、最低限を残して破棄すると、空いたスペースにまず気を失っているメイリィを乗せてその上に毛布をかけ、それからエンシェント・ドラゴンの折れた角の先端を積んだ。


 ドラゴンの肉体はどの部分でも高値で取引される。それがエンシェント・ドラゴンのものとなると、どれだけの額となるか想像もつかない。荷物の大半を捨てても、たっぷりとお釣りが出るはずだ。


 エンシェント・ドラゴンの巨躯が降り立ち、または倒れた際、住む所が押し潰されたウィル、サリア、ベルリナは、メイリィと角の先端と荷物を積んだ荷馬車を走らせ、スウェアの町から夜逃げした。


 ウィルたちが向かう先は当然、ブランムの町。そこでユリィとリタを探してとにかく合流を計った。


 ユリィとリタはこの地の災厄がサイコ・ゴブリンからエンシェント・ドラゴンに悪化したことを知らない。ウィルを狙って、再びスウェアの町に来襲すると思われるが、ブランムの町を襲う可能性が皆無な以上、二人に悪化した状況を少しでも速く伝えた方がいい。


 ただ、隣町とはいえ、ブランムの町はノンストップで行けるほど近くなく、一行は夜明け前に一度、街道の側にある林の中、正確にはそこに流れる小川の前で休息を取り、そこで尽きた精神力が回復したメイリィが目を覚ました。


 意識を取り戻したメイリィは、再会のあいさつや自己紹介をするより先に、


「ウィル兄さん。体の方は良くなったんですか?」


 ユリィが送った手紙にはウィルが負傷したことも記してあったので、まずその点を確認する。


 そして、ケガが治っていないとの返答を得ると、メイリィは全快の御業をウィルに行使したのである。


「さて、ウィル兄さん。ユリィ姉やリタ姉がいないとか、この人たちは誰とか、サイコ・ゴブリンって聞いていたのに、何でエンシェント・ドラゴンに襲われているのとか、色々と聞きたいことがあるんだけど……」


「まあ、それらは一つ一つ話す。こちらも聞きたいことがあるしな。とにかく、思いの他、早く来てくれて、さっきは本当に助かったよ」


 同じ孤児院の者同士で旧交を暖めていも何なので、


「冒険者仲間で地母神の神官のセラ。縁があって一緒に暮らしているサリア。冒険者ギルドの職員で何かと世話になっているベルリナさんだ」


 ウィルに紹介された三人はメイリィに軽く会釈する。


「セラさんにサリアさんにベルリナさんですね。私はメイリィっていいます。ウィル兄さんたちの、まあ、妹の一人みたいなものです。個人的にはウィル兄さんとそれ以上の関係になりたいんですけど」


 頭を下げながらの自己紹介に、三人の顔がいくらか強張る反応を確認して、メイリィは三人が味方ではなく、むしろ『敵』と認定する。


「太陽神の神官見習い以前の立場だが、御使いとしては高司祭クラスだ。護身術の腕もユリィやリタ以上なんだが……」


「まっ、エンシェント・ドラゴンには勝てませんね。うちの四天王クラスでも、マイケル兄さんみたいに勝てない人がいるんですから、私なんか話になりませんよ」


 軽く肩をすくめ、自らの未熟さを明言すると、


「え? でも、さっき、エンシェント・ドラゴンを倒しかねましたよね?」


「そもそも、さっきは何をしたの?」


 ベルリナとサリアが相次いで疑問を呈する。


 さて、どう説明したものかとウィルは少し考え込んでから、


「……メイリィはわずかな間なら、人間離れした動きが可能なんだ。その技の一つとして、拳を信じられないほど早く震わせることができる。その状態の拳は殴らなくても、当てるだけで相手の体内に高速の振動波を送れる。内部をシェイク、特に頭部に食らえば、脳を揺らされてエンシェント・ドラゴンすらあんな感じになる」


「正直、よくわかりませんが、その技とウィルが連携すれば、倒せるのではありませんか?」


 セラの疑問は先程の戦い、メイリィの技が決まってエンシェント・ドラゴンが倒れた直後、体調不良でウィルのモーションが遅れたが、いつも通りに槍を投擲できていれば仕留められたと考えるゆえだ。


 その考察はたしかに正しいが、しかし根本的に間違っている。

「ドラゴンの知能は人より高い。エンシェント・ドラゴンとなれば、尚更だ。致命打になるオレとメイリィの連携を許すとは思えん」


「エンシェント・ドラゴンとなれば、当然、魔法も使えるはずです。空を飛ばれ、上から魔法を使われたら、もうどうしようもありません」


 軽く肩をすくめながら、メイリィもウィルの見解を肯定すると、


「あの光の翼なら、空を飛ばれても何とかなるんじゃない?」


「あの飛行速度でエンシェント・ドラゴンの懐に入れませんよ」


 サリアの見解は否定する。


 天使は機動力と飛行速度はかなり早く、エンシェント・ドラゴンを上回ってはいる。しかし、スキルを用いたメイリィの動き、残像を生み出すほどのスピードにはかなり劣る。


 メイリィの最高速度を捕らえることはできずとも、天使の動きならばエンシェント・ドラゴンなら対応してのけ、懐を入らせはしないだろう。


 そして、どれだけ人間離れした動きであろうが、あくまで人間でしかないメイリィは当然ながら空を飛ぶことはできず、羽ばたいたエンシェント・ドラゴンの懐に入ることはできない。


「そもそも、エンシェント・ドラゴンが暴れているなら、ファンやベルクとか、何人かで来ましたよ。いや、この場合、知らなくて良かったことになるのか」


 向かう先にいるのがサイコ・ゴブリン程度だからこそ、メイリィは天使の羽で先行した。さすがにエンシェント・ドラゴンがいるとなれば、警戒して慎重な行動を取り、先程の場面、メイリィが駆けつけることなく、ウィルたちは全滅していた。


「ああ、だから、オマエが誰に連れて来てもらったかが、重要になる」


 メイリィがいかに強いと言えど、十歳の女の子の独り旅が許可されるわけがない。必ず大人が同行しているはずだ。


 実際、メイリィは近くまで二人旅であり、目的地まで一っ飛びの距離になったので、ウィルたちに早く会いたいと無理を言い、天使の羽の御業で先行させてもらったのだ。


 近くまで味方が一人以上いるのは確実。それが孤児院出身の兄か姉である公算も高い。


 だが、それで何とかなったと考えるのは、早計だ。


 ウィルがメイリィより弱いように、弟や妹より弱い兄や姉はいくらでもいる。


 メイリィより強い兄と姉となると、だいぶ、限られる。エンシェント・ドラゴンに勝てる兄や姉となると、ウィルの知る限りは六人、七人に届くかどうか。


 例えば、マイケルはメイリィより強いが、エンシェント・ドラゴンにはいくらか及ばない。しかし、マイケルとメイリィがタッグを組めば、エンシェント・ドラゴンを倒すことは可能だ。


 メイリィの同行者が誰かによっては、もう一度、孤児院に増援を頼むしかなくなるのだが、


「安心してください、ウィル兄さん。たまたま訪ねて来たのもあって、ルウ姉についてきてもらってますから」


「よし、勝ったぞ」


 六人の中の一人の名を聞いた途端、勝利を確信したウィルは、安堵の息をやっとつくことができた。




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