平均の半分といったところか
小さな森の奥にある洞穴の前に、眩しそうに立つ二匹のゴブリンを、ウィルたち四人は少し離れた木陰からうかがっていた。
夜行性のゴブリンは、陽の光を苦手とする。ちょうど、人が夜闇では物が見えないのとは、逆だ。だから、ゴブリンというより、闇に生きる生物と戦う際は、陽の光の下に引っ張り出すのが最善とされる。
「もっとも、向こうからすれば、人間を洞穴の中、暗闇に引っ張り込むのが最善と理解しているから、そうカンタンに出て来ないだろうがな。洞穴の中で待ち伏せした方が有利なのも理解しているだろうし」
ウィルの言葉にセラはうなずきつつ、
「どうするのですか?」
「まずは見張りを倒す。というわけで、リタ、よろしく」
「風よ! 刃となりて敵を切り裂け! ウィンド・エッジ!」
リタの呼びかけに応じ、風の精霊が二匹のゴブリンの喉をざっくりと裂く。
喉を裂かれたゴブリンたちは、声にならない悲鳴をもらしながらその場に倒れ伏し、しばし痙攣した後に動かなくなる。
あっさりと見張りが片づけられ、セラは目を丸くするが、
「ユリィ。あの洞穴は、他に出入口はないんだよな?」
「ああ、私が調べた限りでは、なかった」
仲間は木陰から出ながら次のアクションに出ようとしているので、慌ててそれに続く。
リタが術で見張りを仕留めたとはいえ、それは二匹のこと。昨夜に射倒したゴブリンと合わせれば五匹となるが、ゴブリンは十かそれ以上はまだ残っている。しかも、残りのゴブリンと戦うのは洞穴の中、
ゴブリンの得意とする暗がりだ。
そのゴブリンのねぐらに仲間と共に踏み込むと考えたセラは、気を引き締め直したが、
「逃げ場がないなら、良いな。というわけで、リタ、またよろしく」
「大地の精霊ノームよ! 我が召喚に応じよ!」
「なっ!」
リタの行使する精霊魔法に、セラが再び驚くのも無理はないだろう。
ノームは精霊でも下位の存在となるが、それでも熟練の精霊使いにしか召喚して使役することはできない。精霊の力を一時的に借り受けるのと、精霊そのものを呼び出して使役するのとでは、それほどに難度が異なるのだ。
その高度な術によって、盛り上った土石はずんぐりとした、子供ほどのサイズの人に近い形を成し、
「なっ! なっ! なっ! なっ! なっ! なっ!」
セラが滅茶苦茶に驚きまくるのも無理はないだろう。
精霊使いが召喚できる精霊は一体のみ。上位精霊を召喚すれば、召喚した上位精霊が複数の下位精霊を呼び出すが、それは精霊使いではなく、精霊使いが召喚した上位精霊が召喚したにすぎない。
なのに、盛り上った土石が人に近い形を成したのは、七体。常識では考えられぬ召喚数に対して、
「七体か。少ないな」
「平均の半分といったところか。まっ、ゴブリンが相手なんだ。新記録を呼び出せなくても充分だろう」
エネルギー生命体である精霊は、基本的に銀などの一部の、あるいは魔力を帯びた武器、魔法か、超常的な攻撃手段でしかダメージを与えることはできない。人に近い形を成した土石はノームの仮初の体であり、これをどれだけ壊してもノーム自体には何の痛手とはならない、。
ゴブリンの能力と武装を思えば、一体でもお釣りが出るノームが、
「ノームたちよ。洞穴に入り、ゴブリンを殺せ」
召喚者の命令に従い、七体も洞穴の中へと進んで行った。