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それも少しでも早く、早馬を雇って、だ

 サイコ・ゴブリンとの一戦で、ウィルが肉体的な、セラが精神的な痛手を被った結果に、ユリィとリタは嘆息するしかなかった。


 とはいえ、嘆息しつつも仲間をフォローするために動かねばならない。


 気を失ったセラはもちろん、一見、傷が全て癒えたように見えるウィルだったが、動こうとすると鈍痛が走るとのこと。


それゆえ、ユリィはその場に残り、リタは借家に走った。


 サリアに、正確にはその荷馬車で二人を運ぶ方が良いと判断したからだ。


 サイコ・ゴブリンの来襲による騒ぎで起きていたサリアは、リタからウィルとセラの容態を聞くと荷馬を叩き起こして、ウィルらの元に走って二人を荷台に寝かせると、近所の医者の元へと駆け込んだ。


 サリアと同様というより、今夜のスウェアの町の住人はサイコ・ゴブリンの来襲で寝ていられる状態ではなく、その医者も当然のように起きていて、夜間診療に応じてくれた。


 もっとも、体に食い込んだ破片はセラの御業で摘出され、傷口もふさがっていて見た目には異常も損傷もない。医者にはセラが邪神に祈ったことを除いて事のあらましは話したのだが、


「破片で体の奥が傷ついて、そこまで御業で癒されていないのではないのかな?」


 背中を何ヵ所か触診して、痛がるウィルの反応からそう診断をくだしたのだが、どうにも自信なさげで断定を避ける。


 そうして半ばさじを投げたその医者は、


「仲間に神官がいるんだから、御業で癒してもらうのが一番と思うぞ」


 ウィルの状態から万が一を考えて医者に見せたユリィとリタだったが、これで医者は頼りならないと判断したユリィらは、二人を家に運んでベッドに寝かせ、翌朝、セラが頼りにならないことが判明した。


 気を失う直前、自分が何をしたか、何に祈ったか。それは否定することもごまかすこともできない。ゆえに、自らの信仰に大きな迷いを抱いたセラは、ウィルが完治していないことを告げられても、すまなさそうに謝罪を繰り返すばかりで、地母神に祈ることはなかった。


 ウィルに加えてセラにも問題が生じたが、ユリィやリタが取り組まねばならない問題はそれのみではない。

 ウィルは寝ていれば、動かなければ鈍痛は走らないし、セラの方は心の、自らの信仰のことというのもあり、ユリィは手紙を書くこと優先した。


 昨夜の一戦でうまく立ち回ればサイコ・ゴブリンに勝てる可能性は見出だしたものの、それはうまく立ち回れねば勝てない、勝算の低さを痛感もした。今のウィルとセラの状態を思えば尚更だ。


「恥を忍んで神父様に助けを求める。それも少しでも早く、早馬を雇って、だ」


 この世界の郵送手段は主に二つ。手紙を送る方向に向かう隊商などに預けてついでに届けてもらうのと、人を雇って手紙を届けてもらう方法だ。当然、後者の方がはるかに高く、人だけではなく馬つきとなればさらに高くなる。


 今までウィルたちは前者の方法を取っているが、今回は事態が事態である。高いだ何だとは言っていられない。


 ユリィの判断にリタも異は唱えなかったが、


「マイケル兄さんと言わないけど、神父様の元ではなく、ギン姉を頼った方が良くない?」


 個人的な理由を除けば、実力的にマイケルは問題はなくとも、勤め先がかなり遠い。それに比べて、孤児院とギンカは隣国におり、しかも位置的にスウェアの町からギンカの嫁ぎ先の方が近い。


 他にも神父様を頼ると、距離以外の難点がある。


 孤児院にいる弟や妹の中には、サイコ・ゴブリンより強い者は何人もいる。だが、強弱に関係なく、成人したばかりのウィルたちの弟や妹らは皆、等しく未成年だ。


 もし、孤児院に神父様が不在だった場合、弟や妹らはウィルたちをすぐにでも助けに行きたくとも、誰か同行してくれる大人を見つけてからでしか動けない。


 ウィルたちより年上のギンカは当たり前ながら成人しており、独り旅も可能だ。また、単身でサイコ・ゴブリンくらいものともしない。加えて、孤児院より近くに住んでいるだけではなく、馬より早い移動手段も有している。さらに御使いではないが、回復手段も有しており、ウィルの負傷にも対処できるだろう。


 この最適な人選に対して、


「それは私も考えた。ギン姉が身重でなかったら、無理を言っただろう」


「あっ……」


 ユリィの指摘に、近況報告を思い出すリタ。


 頻繁に手紙をやり取りしているわけではないが、この妊娠報告は孤児院経由で伝えられていたのは、ある意味で幸いした。でなければ、ユリィは確実に無理な頼み事をしていただろう。


「とにかく、やる事は多い。手紙を届けてもらう人と馬の手配だけではなく、ウィルを御使いのいる教会に運ぶべきだろう。今の混乱しているこの町で、これらを迅速にすまさねばならないのだから」



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