……魔獣神よ! この者の傷を癒したまえ!
倒すことはできなかったが、サイコ・ゴブリンを撃退することには成功したものの、戦いの後に残ったのは重傷を負ってうつ伏せに倒れるウィルの姿であった。
ウィルの容態はセラの顔を青くするのみならず、ユリィやリタですら顔を大いにしかめるほど酷い。
本来なら御使いのいる教会か医師の元に運び込むべき状態だが、ヘタに動かすのはヤバイと判断し、ユリィとリタはウィルの革の鎧と上着を脱がすと、
「リタはウィルを押さえてくれ。私が石をえぐり出す。セラは摘出した場所の傷を癒してくれ」
松明で短剣の刃をあぶりながらそう指示する。
受け取った松明で傷口を照らすリタがウィルの体を押さえると、
「ぐっ……」
ユリィに短剣で傷口をえぐられ、歯を噛み締めて激痛に耐えるウィル。
「地母神よ! この者の傷を癒したまえ!」
器用にユリィがつぶて、破片を取り出した瞬間、待ち構えていたセラは治癒の御業を行使し、
「地母神よ! この者の傷を癒したまえ!」
同じ場所に重ねがけを行う。
破片が思ったより深くめり込んでいたのもあるが、セラの地母神への祈りでは、二、三度、重ねがけをしないと、傷口ひとつを治すことができないのだ。
ウィルの背中にめり込んだ破片はざっと十以上。セラの精神力では、三つか、何とか四つを癒して尽きるだろう。
「くっ」
その残酷な計算に気づき、ユリィは呻きつつも、さらに二個の破片を取り出すが、それも癒したセラは精神力が疲弊し、意識がもうろうとしているのか、その体を小刻みに揺れている。
おそらく、あと一度、治癒の御業を使えば、セラは気絶してしまうだろう。
それでもユリィが四つ目の傷口に短剣を振るうのを、もうろうとした意識で眺めるセラは、途切れかけている意識の中でこのままではウィルが助からぬという、残酷で受け入れ難い現実が、絶対にどうにかしたい、どうにかしなければと彼女の心を追い詰めたか、
「……魔獣神よ! この者の傷を癒したまえ!」
「なっ!」
残りの精神力を用いて気を失って倒れ込むセラの御業、正確には祈りを捧げた神に、ユリィとリタは大いに驚き、二人の目は大いに見開かれる。
ユリィとリタの大いに見開かれた目は、背中一面の傷がふさがれていくと同時に、そこから押し出されるように摘出されていく破片を捕らえていた。