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……どうして?

 夜明けと共にスウェアの町から去ったサイコ・ゴブリンは、手足のない身ながら宙に浮かんでゆっくりと移動して、この日の夜

に再び姿を現した。


 高く飛べないわけではないのだが、スウェアぐらいの町の外壁などさしたる障害ではないのか、サイコ・ゴブリンは見えざる手足で外壁の一部を砕き、スウェアの町に再び侵入を果たす。


 昨晩で戦力がほぼ壊滅したスウェアの町に易々と侵入を果たしたサイコ・ゴブリンは、見えざる手足を振るい、建物を破壊しながら飛び回り、逃げ惑う住民を見つけたら確実に殺していった。


 そうしてスウェアの町の人口がさらに三十何人と減った頃合、ようやくウィル、ユリィ、リタ、セラがサイコ・ゴブリンが前に立ちふさがった。


 領主も主だった騎士も失った今のスウェアの町は、残っている兵が見張りに立っていないくらい混乱している。だから、サイコ・ゴブリンが暴れ出すまでその存在に気づかず、その騒ぎがウィルたちに伝わるまで三十人以上の犠牲が出る時間を必要とした。


 昨晩、サイコ・ゴブリンに立ち向かった冒険者らは、トゥカーン男爵の要請に応じてのものだ。だが、その依頼主は死に、領主の亡き今、報酬が支払われるか不確かではある。ヘタすればウィルたちはタダ働きになりかねないが、サイコ・ゴブリンの脅威と振り撒く破壊は放置できるものではない。


 それに依頼や報酬という縛りを受ければ、ウィルたちは自分の命を優先し難くなる。たかだかゴブリン一匹。しかし、それにウィルたち四人が勝てるかどうかわからないのだから。


 人であるリタやセラはもちろん、亜人であるウィルとユリィも暗視の能力はなく、灯りを必要とする。昼間ならば、物陰に隠れてサイコ・ゴブリンを待ち伏せもできたが、夜闇の中ではそうもいかない。セラの手にする松明がサイコ・ゴブリンにウィルたちの接近を気づかせるのは承知していても、それなくしては行動に色々と支障をきたすのだから仕方ない。


 一応、ウィルを先頭にリタとセラがサイコ・ゴブリンの目につくように近づく一方、ユリィはセラの掲げる松明を頼りに物陰に隠れながら接近し、夜空に浮かぶ標的に矢を放つが、見えざる手足にあっさりと叩き落とされてしまう。


「槍先に宿れ、破軍の力!」


「風の精霊シルフよ! 我が召喚に応じよ!」


 ユリィの不意打ちに合わせ、ウィルは槍を投じ、リタは八体の風の精霊を召喚する。


「……うそ……」


 仲間が攻勢に出ると同時に、戦う術のないゆえに少し後ろに下がったセラが愕然となるのも無理はないだろう。

 ユリィの放った矢と同様、ウィルの投じた槍、数十匹というゴブリンを蹴散らした力を宿した槍もあっさりと叩き落とされる。


 さらにリタの命令で向かったシルフたちも、サイコ・ゴブリンが振るう見えざる手足によって、次々と四散していく。


「クリソー」


 ユリィも偽りの魔剣を生み出し、それを弓で射ち出すが、再び叩き落とされて届かない。


「……どうして?」


 セラからすれば、ウィルとユリィがあの能力を使わないのか理解できないので、これも無理からぬ反応であろう。


 リタの短槍を借りれば、ウィルは他の力を付与して戦えるように思える。特に、ザインを倒した力ならサイコ・ゴブリンを確実に倒せはする。


 ただし、それにはサイコ・ゴブリンに接敵、槍の間合いにまで近づかねばならないが、標的は上空に浮いているのだ。


 同じく、ユリィのスキルの一斉射も射程はそれほど長くなく、サイコ・ゴブリンがもっと降下してくれねば届かない。


 ユリィが一本一本と射ても、カンタンに叩き落とされる。これも同じく、ウィルが槍先に火や風の力を与えた短槍を投じても、見えざる手足に阻まれるだけだ。


 打つ手、射落とす手立てがないまま、最後のシルフが見えざる手足で打たれて消えると、サイコ・ゴブリンは当たり前ながら反撃に転じる。


 砕かれた家屋の一部、大きな瓦礫が不意に宙に浮くと、それがユリィに向かって飛ぶ。


 見えなくとも、何が起きたかは明白で、サイコ・ゴブリンが見えざる手で瓦礫をつかみ、ユリィへと投げたのだろう。


 機敏なユリィである。飛んで来た瓦礫をあっさりとかわす。


 飛来する瓦礫の回避はそう難しいものでなく、ユリィやウィルはもちろん、リタどころか、セラすらも何とかかわせる程度のものだ。


 無論、見えざる手足で直に攻撃すれば、ウィルやユリィとてかわすことは難しいが、ウィルたちはうまく倒す手段も間合いを詰める方法もないと判断するや、じわじわと後退して見えざる手足の届かぬと思われる距離を維持している。


 勝てぬのが判明した以上、ウィルたちは一時撤退といきたいところだが、絶えず瓦礫などを投じられているため、踵を返してこの場から走り去るタイミングがつかめない。


 逃げる機会をうかがっていたウィルらは、結果的に言えば危険をおかしても一気に逃げ去るべきであった。


 何個めか、見えざる手につかまれた瓦礫が宙に浮き、しかしこれまでと違って四人の前でそれが砕ける。


「……しまった!」


 遅まきながらそれに気づき、側にいたリタを押し倒して覆い被さったウィルの体を、握り砕かれた瓦礫、数多のつぶてが見えざる手から投げ放たれる。


 散弾のように放たれたつぶては、リタでもかわすことはできず、彼女を庇ったウィルの判断は間違っていないのは、二人が生きている点からも明白であり、


「風よ! 飛び来る危難を払いのけよ! エア・プロテクション!」


 再び見えざる手から投げ放たれた数多のつぶてを、風の精霊の力で全てそらす。


 もっとも、リタの術で石つぶては防げるが、それなりの質量、大きな瓦礫まではそらすことができない。そして、革の鎧を突き破り、つぶてがいくつも背中に食い込んだウィルは、投げられた瓦礫をかわすどころではない。


「取るに足らぬ偽りよ! 数多の刃を成せ!」


 二度目のつぶてが防がれたサイコ・ゴブリンが瓦礫を投げていれば、少なくともウィルは死んでいただろう。しかし、見えざる手足で直にトドメを刺さんとして、降下をしたサイコ・ゴブリンに、ユリィは数十本の偽りの魔剣を放つ。


 見えざる手足がどこまで長いかわからず、またウィルがかなりヤバイこともあり、遠い射程から攻撃の大半は見えざる手足に叩き落とされたが、辛うじて二本だけがサイコ・ゴブリンの身に届く。


「ギエッギエッ」


 二本の偽剣はサイコ・ゴブリンを軽く傷つけただけであったが、ダメージを受けたサイコ・ゴブリンは降下から一転、急上昇を始め、そのままスウェアの町から飛び去って行った。


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