お姉さんが教えて、ア・ゲ・ル
さほど大きい町ではないとはいえ、スウェアの町は外壁と衛兵を有する町であるのだ。しかも、冒険者ギルドもあり、何組もの冒険者もいる。
だから、村の生き残りを殺した怪物がスウェアの町に向かったとしても、外壁と衛兵に防がれるか、冒険者に撃退されると考えたウィルたちの判断は、結果的に間違いとなった。
遠目に崩れた外壁に気づいたウィル、セラ、ユリィ、リタ、そして荷馬車を御するサリアは、自然と急ぎスウェアの町に向かい、いつもと異なり、衛兵の姿の無い門をくぐると、五人は愕然となった。
外壁の一部のみならず、何軒かの家屋も崩れているが、五人の目を何より引いたのは、つい昨日、わずかな生き残りが絶えた村で見たのと同じ状態と死因の死体がいくつも転がっている光景であった。
「……いったい、何があったのでしょうか」
セラがそうつぶやくが、スウェアの町を件の怪物が襲ったのは明白というもの。
だが、どのような怪物に襲われ、昨晩のスウェアの町で何があり、どれだけの被害が出たかなどはわからない。ゆえに、ウィルたちは荷馬車に積んだ山の幸を商店に売りに行くことはさすがにせず、冒険者ギルドに急いで向かった。
冒険者ギルドに向かう間にも、崩れた家屋や潰れた死体をいくつも見たが、不幸中の幸いと言うべきか、冒険者ギルドは健在であり、その受付にはベルリナの姿もあった。
「っ! 良かった! ウィル君、無事だったのですね!」
その姿に気づくや、ベルリナは受付から飛び出し、そのままウィルに抱きついて無事を喜ぶ光景に、他のギルド職員らや十数人の冒険者の視線が、当然、集中するが、
「少ないな」
セラやサリアや野次馬らと違い、ウィルに抱きつくベルリナなど眼中にないといった感じで、ユリィは冒険者ギルドのその違いに気づき、眉をしかめてそうつぶやく。
冒険者ギルドにいる職員や冒険者の数はいつもとさして変わらない。時間帯などによっては、冒険者の数が十人に満たないこともある。
だが、今のスウェアの町はかなりの異常事態だ。武装を整えた冒険者が臨戦態勢でギルドに勢揃いしている方が自然なはず。
「そう言えば、ここに来るまで騎士や兵士の姿も見なかったな」
今度は口に出さず、気づいたことを自分の心中のみでつぶやくユリィは、現状をかなり悪く推測する。
「ユリィ。これはマズくない」
同じ想像にたどり着いたのだろう。リタも苦い表情となる。
苦い顔をしているのはセラとサリアも同じだが、二人の場合はベルリナの行動が原因であるのは言うまでもない。
セラとサリアに睨まれているのに気づいているウィルも、ユリィやリタと同じ予想をしているので、自分の無事を喜ぶベルリナを必死になだめ、
「そうですね。名残惜しいですが、ウィル君の無事を喜ぶのはこれくらいにすべきですね」
「そうしてくれると助かる。で、昨夜、何があったかを教えてくれると、もっと助かる」
「はい、わかりました。では、詳しい話となると少し長くなるので、奥の方で説明させてもらいますね」
一同をギルドの奥、応接室へと招くベルリナは、たしかに一端はウィルから離れる。
が、すぐにイタズラっぽい笑みを浮かべて、
「それとも、こちらの方がいいですかね。お姉さんが教えて、ア・ゲ・ル」
耳元でそうつぶやくや、赤面するウィルの腕に自分の腕を絡めた。
豊かな胸を押しつけるようにして。