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エンシェント・ドラゴン二頭分の強さといったところか

「つまり、顔見知りのアオカンを見て、初めて自分の想いに気づいたわけか」


「……あの~、その言い方、止めてくれません」


「何か事実と異なるところがあるのか?」


「…………」


 ユリィの言葉を否定できぬセラは、黙して指摘された内容と自分の想いを認めるしかなかった。


 ゴブリンとの遭遇と戦闘から一夜、明けた翌日の早朝。セラ、ユリィ、リタ、サリアは自宅の食堂で朝食を取っているが、その場にウィルの姿はない。


 ゴブリンという危険があるものの、五人はこの日もというか、当面は山の幸を採集する予定である。そのためにサリアは仕事を請けていないのだから、多少のことで変更するわけにはいかないのだ。


 無論、危険が予想される以上、手分けしての行動は避け、効率は落ちるが五人一緒に採集をするつもりである。


 本来ならウィルもこの場でいてもおかしくないのだが、彼がここにいないのは、


「女同士で話がある。適当にそこらをぶらついてくれ」


 そう言われたので、一足先に朝食をすませ、家から出ているからだ。


 ウィルをわざわざ外し、女四人がこの場で論じ合う議題は、彼女たちがこの場にいない異性をどう想っているか。実際には、セラがウィルをどう想っているかの追及の場となっているが。


 昨日、五人が山中で遭遇したのは、ゴブリンだけではない。正確には、ウィルとセラのみだが、二人は顔見知りの衝撃的なシーンを目撃している。


 その後、ゴブリンの出現とそれからのバタバタもあり、セラは

そのまま夜を迎え、しかし寝所でその情事を思い出してしまい、体が火照った彼女はウィルのことを想いながら指を動かした。


 五人の借家は個室があるような上等なものではない。大部屋とはいえ、側で寝ている面々からすれば、何をしているのか、何をオカズにしているのか、筒抜けというもの。


「セラがウィルを好きなら好きで、それは個人の問題だ。外野がとやかく言うことではないな」


 デリケートなことなので、ユリィはそう流そうとするが、


「あれ? ユリィはウィルと結婚の約束をしているんじゃなかったっけ?」


「一応、そうなるんだろうな」


 茶々を入れたサリアとしては、ザインとのゴタゴタの際に出た出任せと思っていただけに、思わぬ肯定に軽く驚く。


「あの、ユリィもウィルが好きということですか?」


 目を見開いて問うセラに対して、ユリィは淡々とした口調で、


「好きか嫌いかで問われたら、好きということになるのか。仕方なく結婚してもいいくらいの好意はあるということか」


「仕方なく……って、何か二人は結婚しなければならない理由でもあるのですか?」


「理由というほどのものではないな。たしか二年くらい前か。互いの失恋を話題にした際、じゃあ、互いに二十歳までに結婚の見込みがなさそうなら、一緒になるかという話の流れになっただけだ」


 実に微妙な婚約である。セラにしても、サリアにしても、反応に大いに困るというもの。


「しかし、今の状況なら、律儀にその約束を守る必要はなさそうだな。ウィルが誰とくっつこうが祝福するから安心してくれ」


 そう語るユリィはもちろん、リタにしてもウィルに仲間以上の感情を抱いているように見えないので、


「二人がウィルを異性として見えないのって、やっぱり長いこと一緒に暮らしていたから?」


「私からすれば、ウィルごときを好きになるという感覚が、どうにもわからんのだが」


 サリアの問いに、ユリィは歯牙にもかけていないといった風に答える。


「うちもそう。たしかにウィルは悪いヤツじゃないけど、マイケル兄さんとか比べると、どうにもって感じだし」


「同感だが、マイケル兄さんと比べてやるのは可哀相だろう」


「もしかして、ウィルも二人をそんな感じで見ているの?」


「うん? ああ、ウィルはギン姉のことが好きだったから、そうなるのか。言われてみると、うちの孤児院はそういう傾向があるな。メイリィもウィルのことを慕っていたようだし」


 サリアに言われて、ユリィは自分たちが育った場所の傾向に気づく。


 ウィル、ユリィ、リタの初恋の相手は、共に同じ孤児院の年長者だ。その初恋の相手らにしても、より年長な兄や姉が初恋の相手だったりする。一方で弟や妹の中には、ウィルらが初恋の相手な者もいる。


 もっとも、これは別に不思議な傾向というわけではなく、ウィルたちの孤児院ではすぐ下の弟や妹の面倒を見ていている。だから、ウィルやリタはすぐ上の姉や兄と接する機会が多く、自然とそういう感情を抱き易い環境とシステムにあるのだ。


「そういう感覚は私にもわかります。ところで、ウィルの初恋の相手というのは、どんな人だったのですか?」


 ウィルの好みが大いに気になるセラの問いに、ユリィはリタと顔を見合せ、しばし考え込んでから、


「……ふむ。そうだな。あくまで単純計算だが、ギン姉はエンシェント・ドラゴン二頭分の強さといったところか」


「ぶっ!」


 予想を斜め上にぶっ飛んだ答えに、盛大に吹くセラとサリア。


「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください。エンシェント・ドラゴン……しかも二頭分って……」


「驚くのも無理はないか。ただ、ギン姉はうちの孤児院でも四天王の一角を占めるのだ。私たちとは強さの次元がそもそも違う」


「っていうか、エンシェント・ドラゴンに匹敵するようなのが四人もいるって……」


 サリアというより、その孤児院で育った者以外は誰でも愕然となるしかないだろう。


 ただでさえ強いドラゴンの中でも、エンシェント・ドラゴンとなれば、神をも傷つけることができる域にある。大国や強国で精鋭を動員して討てるかどうかなのだ。小国では対抗するのはほぼ不可能であろう。


 小さな国なら滅ぼせるような者が最低四人もいる。その孤児院の有する戦力は、もはや驚く驚かないのレベルではない。


 だが、その恐るべき力を持った相手は恋敵ではないので、


「まあ、それより、セラ。一つ聞きたいというか、確認したいことがあるんだけど、いいかな?」


「何でしょうか」


 サリアの想いは自分と同じであるのは察している。


 しかし、サリアの求める答えはセラの予想と異なり、


「うん。気になるから聞かせてもらうけど、アオカンを見たのってどの辺り?」


「ああ、私もそれには非常に興味がある。詳しい場所をぜひ、知りたい」


「うちも内容を含めて詳細にお願い」


 ユリィとリタが目を輝かせるものであった。

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