……ナニをしていたのよ
冒険者であるウィルたちと行動を共にすることが多いとはいえ、一般人でしかないサリアが突如の襲撃に悲鳴を上げたのは当然の反応であり、同行しているリタにとってもまだありがたい対応であった。
ウィルやセラと同様、背負ったかごに山の幸を摘んでいたリタとサリアに襲いかかって来たのは、狼の群れやクマではなく、四匹のゴブリン。
あれだけ大きな被害を受けたゴブリンが、こうも短期間で人里の近くに引き返して来るなど、全くの予想外。元から気配を探る術にユリィやウィルほど長けていないこともあり、リタはゴブリンの存在と襲撃に気づくのに遅れてしまった。
ゴブリンたちの接近を許してしまったリタは、精霊魔法を使う暇などなく、短槍を手にしてゴブリンらと相対し、ウィルやユリィが駆けつけて来るまで、サリアを守りながらしのぐしかないはずであった。
陽の光を苦手とするゴブリンは、日中のその動きは鈍い。そもそも、ゴブリンは陽光の下での活動を避け、獲物を襲うのは夜間とするものなのだ。
しかも、リタとサリアを襲ったゴブリンらは、片腕がねじれていたり、片足を引きずっていたりと、何らかの負傷を負っていて、その動きや攻撃をさらに鈍いものとしている。
ひとしきり悲鳴を上げ、多少は冷静さを回復したサリアは、ゴブリンの振るう棍棒や石斧のあまりの鈍さに気づくと、素人同然の動きで充分に回避してのける。
サリアでさえかわせる攻撃なのだ。リタはむしろ精霊魔法を使うのさえバカバカしくなり、四匹のゴブリンを短槍一本で次々と仕留めていく。
「……いったい、どういうこと?」
四匹目のゴブリンを仕留めたリタは、首を盛んにひねる。
ゴブリンは弱い怪物であり、その知能も低い。だが、苦手な陽の光の下、負傷しているとなれば、マトモな襲撃と戦闘ができないことくらいは理解する程度の知恵はあるはずだ。
にも関わらず、ゴブリンらはリタたちに襲いかかった。娘二人と侮ったと考えられなくもないが、どうにも釈然としないからこそ、リタは盛んに首をひねっているのである。
そもそも不可解なのは、ゴブリンらがまた姿を現したことだ。
ウィルらとの激突で、ゴブリンの大群はその数を大きく減らした。ただ、生き残りは山奥に逃げ込み、ゴブリンは全滅したわけではない。
ゴブリンらが数を回復したのなら、再び人里の近くに進出して来ても不思議はない。しかし、いかに繁殖力の旺盛なゴブリンとはいえ、こんな短期間で子を成せるものではなく、何年かは山奥で大人しくしているしかないはずなのだ。
あるいは新たに流れて来たゴブリンかも知れないが、そうと判別する術はない。
「……あっ、ウィルたちが来たみたい」
考え込んでいたせいか、サリアが先に駆け寄って来るウィルとセラの存在に気づく。
サリアの発した悲鳴の声量を思えば、ウィルたちが気づいたのも当然のことだろう。ユリィにも届いているだろうから、いずれ姿を見せるはずだ。
独りで頭を悩ませていたリタとしても、ウィルの登場はありがたいはずであったが、
「……ナニをしていたのよ、あいつら」
前傾姿勢を取らず、慌てて走り寄って来るウィルの姿に、リタは大いに呆れ返る。
もう少し時間を、鎮まってから来てくれないかなー、と思いつつ。