それで異存はないか?
ゴブリンの襲撃自体は、ユリィが第二射を当てた時点で退いていた。
もっとも、視界の効かない夜のこと。ウィルたちは確証を得るまで様子見に徹したので、セラと村人たちは不毛で無駄な時をそれなりに過ごすことになり、それは安全宣言の後もしばし続いた。
「状況を説明する。代表者は来て欲しい」
リタが精霊魔法でその点も伝えたからだ。
村の代表は当然、村長である。が、モーグの村長は及び腰になり、誰かに代わりをやらそうと粘り、それが無理と悟ってからようやく覚悟を決める始末。
さらに村人たちも同様で、モーグの村長が何人かについてきてほしいと言うと、勇んで同行するどころか、全員が危険な役目を押しつけ合い、たった数人が中々に決まらない。
それでも半時に及ぶ見苦しい言い合いの末、セラはくわや棒切れをを持った村長と四人の村人と共に、松明の灯りを頼りに仲間の元に向かい、何事もなく合流して森の中へと入った。
森に入ってすぐに、一同は矢が刺さって死んでいる三匹のゴブリンと、ゴブリンのものであろう無数の足跡を目にすることになった。
「正確な数はわからないが、仲間の見立てじゃあ、今夜のゴブリンは最低十五の団体さんだったみたいだ。これは推測にすぎんが、ここ何日か見張りさえ立ててなかったから、ゴブリンたちはカンタンに襲えると判断したのだろう。だから、団体さんで来たが今夜は見張りがいた。その見張り、つまりオレたちを矢で殺そうとしたが、こちらの反撃を受けたので退いた。そんなところだと思うよ」
ウィルの推測にセラも村長らも異を唱えることはなかったが、
「それでわしらはどうすればいい?」
「もう襲撃はないと思うが、大事を取るなら、オレたちは村の中で見張りに立った方がいい。その方が次の襲撃に対応し易い。村の人たちは念のため、武器を傍らに置いて寝てもらいたい。後は夕方に話したとおり、朝一にゴブリン退治に向かう」
「それで大丈夫なのか? 万が一を考え、今夜は村の男は皆、このまま襲撃に備えた方がいいのではないか?」
「その方が安全ではあるから、そうするべきと思ったなら、そうすればいい。それはそちらで判断してくれ」
ウィルが村長と話している間にも、ユリィとリタは荷物と薪を運ぶ準備を整えているので、セラは二人を手伝う。
「では、オレたちは見張りの場を村の中に移す。村長にはそれで異存はないか?」
「……ああ。村を守るのにその方がいいなら、そうしてくれ」
ゴブリンの襲撃、畑荒らしですまなくなった事態と状況に、どうすればいいかわからぬモーグの村の村長は、ただ雇われ冒険者、それも自分の三分の一ほどしか生きていない若造の考えを、ただ追認するしかできなかった。