一緒に冒険に行かないか?
冒険者。
未知の探索や遺跡の発掘など、リスクに挑んで不朽の名声や一攫千金を得ようとする者だった。
彼らの装備を商い、成果を買い取る者たちが集ったのが、冒険者ギルドの発端である。
危険な場所に飛び込んで生還を果たす、特殊技能を有する冒険者たちが、資金を稼ぐのに冒険の合間に怪物退治をするようになり、冒険者ギルドがそうした傭兵的な仲介斡旋も手がけるようになった。
今では、未開の地や遺跡に関する情報よりも、何でも屋的な業務が冒険者ギルドのメインとなっているほど、冒険者という職業は夢のない仕事になっている。
それでも一握りの先人が手にした富や名声に続かんと、冒険者となる者は絶えない。加えて、過去の栄光ではなく当面の生活費、手っ取り早くそれなりにまとまった金を得るため、冒険者を選択する者も少なくない。
典型的な辺境の町スウェアにある冒険者ギルドに、その日、訪れた少女は後者の典型的な一例であった。
冒険に関する情報交換の場、怪物退治などの何でも屋的な仲介斡旋所として機能する冒険者ギルドのロビーは、それらを目的とする武装した者たち、三十人以上の冒険者がたむろできるほど広く、宿屋や酒場が併設されていることもあり、スウェアの町でこの規模の建物は他に領主の館ぐらいなほどだ。
くすんだ長い金髪と透き通った青い瞳、細身で整った細面の、十五歳くらいとおぼしき少女セラも、今日より冒険と仕事を求めて冒険者ギルドのロビーに訪れる者の一人であった。
首より地母神の聖印を下げる女神官である彼女だが、身にまとう神官服が古着をつなぎ合わせた手製であるのは、セラの出自が大きく起因する。
珍しくもない話だが、十五年ほど前、地母神の教会に赤子が捨てられていた。孤児院も兼ねていた教会で育ち、十五、成人すると同時に生まれ育った場所を巣立ったが、今後の当てはなかった。
セラの後にも親のいない弟や妹が何人も増え、小さな教会に居残るには居心地が悪く、明確なビジョンもないまま卒院したのだ。
幸い、彼女は崇める神に祈れば、御業、神の奇跡を二つほどだが起こすことができる。また、最低限の読み書きもでき、セラ一身のことなら、もっと大きく余裕のある教会の門を叩き、そこで修業を続けられただろう。
だが、彼女は熟慮の末、冒険者になることを選んだ。セラの取り得る進路の中でそれが最も稼げそうであるからだ。
常に余裕のなかった生まれ育った場所に、恩返しも兼ねて寄付、もしくは仕送りするため、彼女は最も危険な進路を選んだ。
かくして、自らの足で歩き出したセラだが、生来、気弱で社交性にやや欠ける彼女は、冒険者ギルドのロビーに充満する活気と熱気に当てられ、しばし立ち尽くすほど。受付に向かって歩き出したのも、そこに座る職員が男性から女性、少し年上とおぼしき長い亜麻色の髪の優しげな相手に変わってからだった。
どもりながら用件を告げ、中身の乏しい財布から登録料を払い、穏和な笑みを浮かべる女性職員の基本的な説明が終わるのを見計らっていたのだろう、
「なあ、アンタ。オレらと一緒に冒険に行かないか?」