第六話 幻想世界の勇者召喚―2
文章量が安定しなくてすみません
荘厳華麗な王の間に魔本使いは案内されていた。
(うーん、確かに趣味の悪い金のかけ方じゃ無いけど、微妙にバランス悪いな)
「よく来てくれた、異世界からの勇者よ。」
(大方初期の設計と今の流行の違いとかだろうけど)
「私は第11代フレサキナ王国国王、ジフア・フレサだ。」
辺りはたくさんの貴族らしき人と、それを守るように騎士が回りを囲んでいた。
「 今、我がフレサキナ王国は大変な危機に直面しておる。」
フレサキナ王は王国を脅かす脅威について説明した。
この世界には魔物と呼ばれる存在がいること。
それを操る魔人と呼ばれる勢力が居ること。
更にそれを束ねる魔王という存在がいること。
今この国は王子の一人を人質に取られており、魔王に逆らう術がないことを説明した。
「まさにこの国始まって最大の危機と言ってもよかろう。そこで伝説の勇者様に力を借りようとした訳になる」
魔本使いは胡散臭そうな顔をした。
「いや……そうは言っても王子が人質に捕られているんだろ?勇者様とやらがどんな力を持ってるか知らないけど、僕に出来ることは何もないと思うけど。」
「貴様!無礼であるぞ!」
「いや、よい。当然の疑問じゃろう。勇者様は我が国の出身ではない。つまり我が国の国民ではないとゆうことじゃ。なれば我らの国が攻撃したことにはなるまい。」
「それは詭弁だと思うんだが。人質がいるなら君達がどう思っているかより、相手がどう思うかじゃないか?」
「それは無論承知しておる。そんな手段しか使えないくらい追い詰められていると言うことじゃ、情けない事ではあるがの……」
「王子が殺されるのを絶対に止めろとは言えん。騒ぎになる前に魔王を殺害するのが理想じゃが、王子が処刑と言うことになっても覚悟はできているじゃろう。」
「なら、君が軍を率いて戦った方が勝率は高いんじゃないか?」
「ここまで追い詰められては、そうするのが正しいんじゃろうが……我は駄目な王じゃ。王子が助かるという希望を捨てきれんのじゃ。」
「勇者様、少人数を率いて魔王を暗殺してきてくれないじゃろうか……」
王は頭を深く下げる。
「ふむ……」
「断る」
「キサマァ!言うに事欠いて断るとは何だあ!王が頭を下げておられるのだぞ!」
魔本使いは思った。
言いたいことはたくさんある。
たくさんあるが―――
「残念だけど、僕の知った事ではないんだよね。」
「お前には人の心がないのか!だいたい、おかれている状況がわかっているのか!」
その言葉と同時にまわりにいる騎士が距離を詰めてくる。
「人の心ねぇ……それはちょっと的外れかな。」
「もういい、何も言うまい。はいと言うまで牢にぶちこんでやる!」
まわりを囲む騎士たちが一斉に攻撃を仕掛ける―――
「沈め。」
魔本使いのその一言で、騎士達は膝をつく!
「だいたい、おかれている状況がわかっているのか?」
魔本使いは皮肉げに返す。
「さっきから勇者様勇者様と五月蝿いが……君達の前にいるのが何かわかっているのか?」
魔本使いの高圧的な態度に貴族達の怒号が飛び交う。
「神の一柱に何様だよ。ちょっと頭が高いと思わないか?」
王の間にいる人間が一人残らず這いつくばる。
「自己紹介が遅れたね。僕は魔本使い。神の末席を汚す邪神の一柱だ。」
「こんな……事をして……どうなるか……わかっているのか?」
「いい加減状況を理解してくれないかな……君たちの命は僕の気分次第なんだよ?」
フレサキナ王の頭に足を乗せる。
「きさっ「君達の王を踏み潰されたくないなら、まず黙れ。」
そこでやっと騎士達は理解したのか沈黙する。
王の間が静まりかえったころ、魔本使いは口にする。
「だが僕も悪鬼羅刹の類いじゃない。ちょっとした報酬さえ用意してしてくれれば魔王を倒してやってもいい。」
王は希望と悲壮が入り交じった表情で見上げてくる。
「安心してよ。本当に大したものじゃない。雨風が凌げる人里離れた家を一つ準備してくれればそれでいい。別に今すぐ用意しろとは言わないし、豪華じゃなくていい。」
王は不審そうな顔をしている。
「だから安心してよ。僕は基本的にはいろいろな場所を旅しているけど、たまには人のいないところで落ち着きたいこともあるんだよ。」
「……まあ、この提案を蹴るって言うなら別にそれでもいいけど……」
「わ、わかった。人のいないところに家が有ればいいんだな?手配しよう。」
「うん、それでいい。それ以上は要求しないさ。」
魔本使いは魔法を解除し、全員開放された。
誰もが顔を青ざめていたが、そんなことはお構い無しに話を続ける。
「それじゃあちょっと魔王を殺して来るよ。すぐに戻って来ると思う。」
何はともあれ魔本使いがこの国を離れることに貴族達は胸を撫で下ろす。
魔本使いが王の間を出ようとしたとき、
「あ、後ついでにここであった事は喋らないでくれると助かるかな。」
と一言だけ言い残した。
安堵していた貴族達は一瞬で心臓を鷲づかみにされたような恐怖を覚える事になる。
そして今度こそ魔本使いは本当に城から姿を消した。
魔族領
魔王城の会議室は重苦しい雰囲気に包まれていた。
当代魔王のガルバは声を張り上げている。
「もう人間達をのさばらせてはおれん。殲滅しかない!」
しかしそれに追従する魔族は誰もいない。
「魔王様、よくお考えくだされ。いかに人間と言えどあの数を相手にはできませぬ。」
執事風の男が宥めている。
「しかし、これ以上人間達の蛮行は許せんぞ!誇り高き魔人族が嘗められる訳にはいかんのだ。」
そんな中、静かに重厚な扉が開き、フードを被った人物が入ってくる。
「すみませんが、今は会議中ですので入室は……」
「いや、そんなこと気にしないから大丈夫だよ。」
そう言って顔を上げたとき、室内の雰囲気が変わった。
「貴様、人間だな!どうやってここまで来た!」
髪が、魔族の誇りたる銀髪ではなかったからだ。
「人間の送り込んだ刺客でしょうか?何はともあれお引き取り願います。」
魔族達は一斉に戦闘体制をとる。
「あ、ごめん。今回はもうそういうのいいんだ。」
フードを被った人物―――いや、魔本使いは魔王のもとへ一直線に進む。
「君達はただ、魔王の首を捧げればそれだけでいい。」
魔本使いは魔王の前まで行くと、ゆっくりと剣を振り上げる。
「貴様等のような卑怯ものに俺が屈すると―――」
音もなく、魔王の首は身体から離れた。
その日の内に、魔本使いは王の間に戻って来た。
魔王の首を持ちかえり、更にフレサキナ王国の人間に畏怖を植え付けた。
王は人間族を救った英雄として宴を開くと言ったが、魔本使いはこれを拒否した。
王も内心ではこれ以上関わりたくなかったのだろう。
素直にこれを受け止め、 山奥の別荘の一つを準備し始めた。
魔本使いは別荘の準備が終わるまで城に逗留し、別荘でしばらく隠棲する事になる。