第三話 幻想世界の因果関係―3
ネーミングセンスのなさには目を瞑っていただけるとうれしいです。
魔本使いと名乗った男は奇妙な男だった。
間違いなく人間の形をしているのに、生き物のような気配が全くなかった。
現実味をまるで感じなかった。それはまるでこの世界の生物ではないと言われても信じられる位だった。ここにいるべき存在じゃない―そう思った。
彼は問いかけられても動かぬ僕たちに痺れを切らしたのか、自分の持つ本を読み始めた。
「……ふうん、成る程ね。そう言う事か。それじゃあ……」
「そこの君に助太刀するとしよう。僕と一緒にあいつを倒そうじゃないか。」
と「そこの君」で僕を指差し、「あいつ」で魔王を指差してそういった。
「おいおい、お前さんは知らんかもしれんが、こいつは魔王何だぜ。悪いことは言わないから俺達に任せてどこかに逃げたほうが良い。」
「大丈夫大丈夫、僕はそんなに弱くはないよ?」
「しかし、危険です。私たちには魔王を倒すと言う使命があります。私たちがするべき事なのです。」
「うん、知ってる。だから助太刀しようと言ったんだ。」
「私が見たこともない魔法を使えるみたいだから、戦えないってことはないんだろうけどねえ」
「何者か知らんが私の敵なら容赦はせんぞ!」
魔王は剣を抜き放ち勢いよく魔本使いに攻撃した!
「危ない!」「『不当の運命』」
魔王の攻撃が当たると思った瞬間、剣の軌道が曲がった。
まるで何か壁にでもぶつかったかのような、いやむしろ剣が自分から避けていくような?
「フハハハハ、随分面妖な技を使うようだな。」
魔王は剣を振るい続ける。
当たらない、剣は踊るように彼を避けていく。
剣を振る。
当たらない、まるで彼を傷つけるのを恐れるかのように。
「……ふむ、貴様には剣は当たらないようだな。ならば……」
また魔王に魔力が集まる。
「目の前全てを焼き払ってしまえば関係無いだろう?」
「メルス、結界を!」
「『煉獄』」「『聖域』!」
辺り一体が炎に包まれる。
「申し訳ございません……咄嗟の事だったのであの人までは……」
「『天気雨』」
突如として暗雲が立ち込め、大雨が降り始める。
炎が消えた時、全く傷を負った様子の無い魔本使いが現れた。
「……まさか炎も避けていったって言うのかい」
「むう……」
「こんなものかい?じゃあ反撃と行こうじゃないか」
「しかし、私たちの力では……」
「『翻す運命』っと、これで大丈夫だよ。防御はメルスさん?にお願いするよ」
「いや、でも……」
「俺達も戦うしかねえだろ!ぽっと出のこいつに全部持ってかれてたまるかよ。」
やはりケインが飛び出し、魔王に斬りかかる。何度か防御された後、鎧にかすると―
「……傷ついてる?」
「よっしゃあ!いける、いけるぞ!」
「もう一体何が何だかわからないねえ。」
そこからは激戦だった。
ケインと僕の二人で斬りかかるり、メルスが回復し、ベルキーが魔王の魔法を打ち落とす。
魔王を二人で代わる代わる斬りかかり、僕が代わっているときは魔法で追撃し、ベルキーの魔法を見舞う。驚いたことに、ベルキーと僕の魔法も魔王に効くようになっていた。
何故かメルスの拳はあまり威力が変わっていなかったが……
魔本使いも時々落雷の魔法で攻撃してくれていた。
そして魔王の動きも鈍くなり、鎧もぼろぼろになってきたことところで、魔本使いが口を開いた。
「そろそろ、かな。それじゃあ止めといこうか!」
「『不自然な一撃』」
彼がそう呟き、光が魔王に当たった瞬間―魔王は動きを止めた。
「やった……のか?」
魔王は微動だにしない。
「やったあ!魔王に勝ったんだ!」
「本当に終わったのですか……」
「もっと長い道のりになると思っていたけど、終わって見ればあっけなかったねえ」
「本当に、本当に俺達が魔王を……」
まだ実感がわかない。
カレンとの戦い、魔王との遭遇、魔本使いとの出会い、そして魔王に勝利……
立て続けにいろんな事が起きた。目まぐるしく状況が変わった。
魔王に歯が立たない事に絶望し、魔本使いのおかげで攻撃できるようになり……そうだ。
「ありがとう!魔本使いさん。助かったよ。」
「別に僕がいなくても君たちは魔王に勝利していたさ。」
「そんなことないよ!魔本使いさんのおかげだよ」
「そうだぜ!魔本使いさんの魔法で攻撃が効くようになったんだからな!」
「しかし「魔本使いさん」は言いづらいね。私たちの恩人何だ、名前ぐらい教えちゃくれないかい?」
「生憎と僕は名前がなくてね」
「……そうかい、あんたがそう言うんならしょうがないねえ」
「では一緒に来てもらえませんか?協力者には魔王討伐の報酬がありますし、お礼もしたいですし……」
「いや、まだやることがあるんだ。悪いね。」
「そうですか……」
ここで僕は思い出す。やること……やるべき事?
そうだ、僕たちの目的は魔王討伐だけじゃなく……
「そうだ、魔石だ!魔本使いさん、申し訳ないんだけど魔王の魔石を貰ってもいいかな?」
「別に構わないよ。君たちが勝ったんだからね」
強い上にここまで懐が広いなんて、なんて器の大きい人なんだ!
※そんなわけない