序章―見えぬ崩壊―
世界はふたつあった。ひとつは青い星メーリーン。ひとつは赤い星アファーティクト。
さる有名な天文学者は言った。
「ふたつの星は互いに引き合いながら巨大な空間。宇宙を漂っている」
そのときから、ふたつの星は干渉しあいながら広大な宇宙を旅しはじめたのだ。
「タマ有りっ丈持って来い!」
迷彩の服を着崩した男が倉庫に飛び込むと同時。
倉庫が四散した。
正確には原型を留めないほど凶悪な暴風でバラバラに薙ぎ払われていた。
「軽ぃよ、軽すぎんだよ」
自分の身の丈の五倍はあろうかという刀身の大剣を肩に掛け、女はさぞつまらなそうにぼやいた。
その大剣は斬るための刃はない。まるで鉄板に取っ手をつけただけの鉄材だ。その重量で押し潰すためのものだった。
だが、女は上から下にではなく真横に倉庫を凪ぎ払っていた。
武器の重さを無視できる程度の腕力。女自身が兵器と言っても過言ではなかった。
その凶烈な腕力から放たれる一撃と風圧で、一瞬にしてハリボテの城同然に分厚い壁で覆われた倉庫を吹き飛ばしてしまったのだ。
「化け物めぇぇぇ!!!」
瓦礫の下から飛び出した男は短銃を連射しながら猛然と突っ込む。
「足掻くなっ、服が破けんだろうがぁ!」
ひょいひょいと跳び跳ねて銃弾を避けつつ大剣を降り下ろし袈裟切る。男の下半身が地面と上半身が空と一体化する。
「はぁ。せぇあつ完了ぉっと」
やはり女はつまらなそうに、地面にめり込んだ大剣に寄りかかった。
人とそれ以外の者の戦闘は圧倒的な人ならざるものによって、壊滅的なまでに叩き潰されて終結した。
世界には人間と、それ以外の言語を解する種族で成り立つ文明があった。
「この世界で最も栄華を極めた種は、我ら龍族であることに何ら疑いは無い」
荘厳な声が回廊まで響く。扉の向こうでは時の権力者達が集い龍族主権誕生1000年を祝う式典を執り行っていた。
龍族には分類がある。
4足を持ち翼のある原始的な種、ドラゴン。原始的な特性である火吹き、飛翔、超硬度のうろこ状の皮膚を特徴とした祖龍族、その特性を持ちながら人に近い祖龍人族、龍人族。原始的な特性を持たず角や尾のみの特徴を残した、またその外見的特徴さえも失った龍族を竜族、竜人族と呼んだ。尤も、これは最も簡単な分類に過ぎず龍の種族は既に数万という数に及んでいる。
扉の外側の、白亜の回廊中腹辺りにふたつの影があった。
龍人族の貴族であるヴリオールが唸る。長い金髪を窓から入り込んだ風でなびいた。男の後頭部には枝分かれした琥珀色の2本の角がはえている。龍属のそれであった。
「奴らは力を過信しすぎている。我々の目前に迫る危機を察する事すら出来ていまい」
その声を受けて王族の血筋を引く祖龍人、サルファーが赤髪をかき上げ扉を見やる。
サルファーの額には牙のような形の2本の角が天に向かって生えていた。背中には髪と同じ色の大きな翼、硬いうろこで覆われた尻尾は太く二股になって龍族としての"力"を見せ付けているようでもある。
「甚だ同感だな。上流貴族でさえ安心して外も歩けねぇ」
小さく嘆息を漏らした。
「自分たちの地位すら怪しいなどと、誰も疑っていないことに笑いすら湧いてくるぜ」
ヴリオールはどこかもどかしそうにつぶやいた。
城下では不穏なうわさが飛び交っている。
反乱軍が半年で10倍に膨れ上がっただの、龍を一撃で殺す兵器が完成しただの。全ては噂の域を出ないものであったが反乱軍がいることは紛れもない事実であるし、科学、特に機械工学に関する技術は人間という種族は他の種に比べて飛びぬけて長けていた。あまりにも技術の差がありすぎて、実は未来から智恵を得ているのでは、と思う者も少なからずいる。
それはともかくとしても、二人は自らの立場に苦い思いを持っていた。
「あまり大きな声で話すべきことではないのではないかな? ヴリオール殿」
その咎める声にヴリオールとサルファーは驚いたように視線を飛ばし、その姿をみとがめると二人は即座に片膝を回廊の床につけ、頭を垂れた。
その姿は二人が追い求め、常に目標としていた人物であった。
主人公全然出てきません。いつ出てくるのか、正直考えてません。
それと、かなり盛り上がらない展開が続きます。