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夢を見た。
内容は思い出せない。ただなんとなく、懐かしい気はしたけれど、それだけで、起きてしまえばすぐに現実に塗りつぶされてしまう。僕が自分の部屋を出て、階段を降りてリビングへいくと、いつも通り両親はもう仕事へいっているようだったので、僕も普段通り準備をして家を出た。
通学路を歩きながら思う。今更。どうして。そして身代金の要求がないのなら、やはり妹は地力でどこかへいったのだろうか。まさか。ゲームがクリアーされればみんな起きる。そんな話は一年半前にでていたが、結果どうだ。一年半、誰も出てこない。今日日オンラインゲームはプレイヤーによる踏破なんて当たり前で、新実装エリアを繰り出しては数日でトップランカーに到達されるものなのだ。だって云うのにこの一年半誰一人帰ってこないというのなら、それはもうクリアーなど関係なく、妹たちはあのゲームから出てくることなど出来ないか、もしくは誰も帰りたくなんてなかったのだ、こんな現実なんかに。
いや、それすら希望的観測、そうあってほしいと願っているだけに過ぎない。ゲームの世界に閉じ込められて人々が、妹が、せめて意識だけは確かに存在し、十全の幸せではないにせよそれなりに楽しくやっていてくれてほしいと、そんな天国を信じるみたいな、おとぎ話。
どうして、逆にしなかったのか。先行のβテストを妹にゆずり、僕が本稼働に参加するようにしなかったのか。
『だってお兄ちゃん、どうせすぐ飽きちゃうんでしょ?』
優奈の声を思い出す。そうだ。僕は飽き性で薄情だ。たった一年半で、妹の不在を嘆くことさえ飽きてしまうような、ひとでなしだ。ああ、だからこそ、あの世界は天国なのかもしれないと信じるしかなかった。だから僕は選ばれなかったのだと、天国に行く資格は得られず、こうしてまだ現実という煉獄にいるのだと、そう思いたかった。
徒然な思考はポケットの中で震えるスマホに遮られて、僕は半ば反射的にそれを手にした。メール着信一件。誰だろうか、と思いながらメールを開き、息を呑んだ。差出人『御堂優奈』妹からの、メール?
『おにいちゃん』
変換も絵文字も何もない、一言だけ。
「なんなんだよ……」
思わず口したと気づいたが、どうでもよかった。聞きたいことが山ほどある。お前は本当に優奈なのか、どうして行方をくらましたのか、どうやってめざめたのか、いや、どこにいるのか、何を書いていいかわらず、まとまらないまま、僕も一言だけかえした。
『どうした?』
そっけのないメール。本物かどうかもわからない、意味不明のメール。今更、今更、今更今更今更今更今更今更今更今更今更今更今更今更今更今更今更……、
「いたっ」
「きゃっ」
そんなことをスマホ眺めっぱなしでかんがえていたせいで、誰かにぶつかって、考え事でいっぱいだった僕はよろめいたまま倒れ込んでしまった。
「いたた……すいませ……あ!」
僕が起き上がろうとする間、先に立ちなおっていたらしい少女が何か声を上げている。
「あ、あなたが……御堂悠司?」
「うん?」
起き上がりながら答える。少女の姿を眺めていたが、心当たりはない、そう思ってから彼女が僕の名前を確認したことを思い出す。つまり彼女も確証がない程度の情報だと云うことで、じゃあそんな人がどうして僕を知っていたのかというのは気になった。見たところ警察とかではなく、同じ年くらい――というかよく見たらうちの制服だった。じゃあ学年が同じで見かけたことがるとかそのくらいの関係の相手かな、とまでかんがえたところで、彼女は言葉を続けた。
「みつけた……御堂悠司。あなたに、聞きたいことがあるの」