プロローグ 「卒業旅行」
皆一生に一度不思議に思ったことはないだろうか。
流れる時間、存在する空間、そして自分自身がなんなのか。
――ある人達はこう言う
「これは神の仕業である!」と、
――またある人達はこう言う
「全て偶然にできた自然の産物に過ぎない」と。
彼らにはそれを知るよしもなく、俺にも分からない。
あの門をくぐってしまうまでは…………
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何も見えない……
汗もかいてくる……
「何処なんだここ」
その質問に対する答えを試行錯誤したが、一向に見つからない。
「キ――――ッ」
急に、耳の中に圧迫感が現れた。目の前は暗闇だし、耳は痛いし、とても不可解だ。
小さい頃、隠れんぼをして、井戸に落ち、ずっと助けを待っていた時の事を思い出す。
結局あの時は一日誰にも見つかんなかったんだっけ……
すると不意に声が聞こえた。
「異世界へようこそ」
……!?いせかい?まさかこんなことが?
いや、まてよ……この声は何処かで聞いたような。
「って修斗じゃねーか!」
アイマスクを外すと、目の前には何か悪巧みを考えてるような表情が歪んで見えた。光が急に差し込み、視力が多少落ちているので断定は出来ないが、恐らくビンゴだろう。
「わりぃーわりぃー。つい魔が差しちまったぜ。いやーでも、クロっち唸されてるし、もう直ぐ着陸するからおこしてやったんだぞ!」
ようやく思い出した、今はヨーロッパへの修学旅行中であることに。
大学受験が無事終わり、高校最後で最高のイベントである。高校が私立で金持ちの高校なので、これくらいのことができてしまうのだ。
――それにしても、一瞬とはいえ異世界を信じてしまった自分が恥ずかしい。
先程の暗闇はアイマスクをしてたためで、耳の痛さは飛行機の降下による気圧の変化によるものだろう。それにしても嫌な夢を見た…………
気分を変え窓から外を見やる。長く伸びる積乱雲を抜けた先に見えた光景に目を奪われる。
そこにはコバルトブルーの海と、陸地にのる城や塔などの多くのモニュメントが広がっていた。
――実のところ、俺は大のラノベ好き。しかも異世界関連の本は即買いしてしまう程の生粋のファンタジーloveなのである。
その為、このヨーロッパ旅行は人生の頂点と行っても過言ではない。
そんなことを考えていると、思わず笑みをこぼしてしまった。
「おっ、クロっち中二病全開?」
「お前もじゃねーか!!」
因みに先程から話しているこいつは俺の唯一のヲタク仲間である。蛇足だが、学園モノ&清楚系が好みであるらしい。
「まぁ否定はしないけど、クロっち程じゃねーよ(笑)」
この先にどんな楽しみが待っているのだろうか……そんな期待でいっぱいの七日間に妄想を膨らませていた。
――いきなり終わってしまうとも、露知らず……