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うははは、マ〇オブ〇ザーズ3のTASどうなってるんだ。面白すぎるだろう。
えーっと、今日の毎時ランキングは……お、このアニメの新しい話やっと配信か。どれどれ……。
そんなことをやっていると、ふと体調に異変を感じた。
これは……元の世界でたまにあった出来事だ。
「……マズい!」
「どうした?」
後ろで同居人がPSPで遊んでいる。
おっぱいが大きな忍者が戦うゲームだそうだ。
ダメージを受けると服が脱げるシステムらしい。いや、今はそんなものどうだっていい。
この感覚、未来が変化するものだ。
今みたら明日以降の天気が一気に変化してしまっている。
CDに付属している予報が全て外れてしまい、番組を降板させられる未来が見える。
原因は何だ?どうして未来が書き換わった。
気象庁のホームページへ行って雲の動きを見てそれを更に未来予知する。
一応気象についての勉強はしてきた。これを見れば、大まかな未来が分かるはずだ。
えーっと……ここか。香川県。ここで大きな雲の流れの異常が見られる。
とにかく行ってみるしかない。
「申し訳ない、ちょっと二日ぐらい留守にする! 」
「えっ、雑誌取材はどうするの!? 」
「キャンセルで。それどころじゃないの! 」
同居人の静止も聞かず飛び出す。
新幹線には何度か乗った事がある。今の時期なら多少の空きはあるだろう。
■ ■ ■ ■ ■
三時間以上新幹線に揺られ、バスに乗り換えて二時間。
香川に到着すると、異変は分かりやすく起こっていた。雲が不自然に出現しているのだ。
そして魔力を感じる。これは……。
「ザメール!何をしてるんじゃ!」
「ル、ルミエール様!?ご無事でしたか!」
かつての部下、ザメールだった。
「今すぐその魔術を止めい! そもそもこの世界は魔力を供給する手段がないんじゃ! ムダ使いするな! 」
「は、はい! 」
話を聞くと、この地域が水不足に悩んでいるという相談を受けてやってしまったらしい。
全く馬鹿な話だ。
「いいか?この地域はどうせこんな魔法使わなくても、三日後に低気圧の影響で雨は降るんだ。普段は降りにくい地域だがな。」
「は、はぁ……。」
「しかしおぬしのその行動のせいで、未来は書き換わり三日後振る予定の豪雨は降らなくなってしまう。分かるか? 」
「御見それしました。言葉もございません」
「まぁ分かればよい」
ザメールの話によると、こちらの世界に来たのはつい先日だそうだ。
時空が歪んだ影響だろうか、こちらの世界へ来る時間に誤差が出ているようだ。
それにしても懐かしい顔と会ったせいか、語彙がつい昔の口調に戻ってしまった。
ということは、他の部下も間もなくこちらの世界へ来る可能性があるということだ。
嬉しいような、ルミルミを見られるのが嫌なような。
とにかく、ようやく一歩前進した。
■ ■ ■ ■ ■
それから二カ月。残り二人の部下も発見した。
そのうち一人は「きゅーてぃくるうぃっち☆ルミルミ」を見て飲んでいたコーラを吹きだしたそうだ。
気持ちは分かる。そしてその話を聞いた時は穴に埋まりたい気持ちでいっぱいだった。
彼らと計画を練ると同時にやらなければならないことがある。
ルミルミの引退だ。自分がこの世界に居れない以上、きっぱりと引退しなければならない。
プロデューサーと同居人に話を切り出す。
元の世界の話に関して、すべての事を。
困惑を隠せないようだったが、決まった事だ。
最後にライブを行って引退することになった。
ライブは派手に、盛大に。今まで以上に練習に身が入った。
部下の一人からの冷やかな目がかなりしんどかった。
部下の一人が尋常じゃないファンになって更にしんどかった。
ライブ当日、ワンマンライブなのに十万人以上のファンが集まった。
嵐のようにやってきて、嵐のように去る。ルミルミという人物に、日本中が注目していた。
『みんなぁー!こーんばーんはー!』
「「「「「「こーんばーんはー」」」」」」「ルミちゃ~ん! 」
『ルミたんの最後のライブ、楽しんで行ってね☆』
「「「うぉおおおおおっ」」」「「いやああああ」」「やめないでー」
『皆ぁー! 未来の天気を知りたくないー? 』
「「「「「知りたーい」」」」」「うわぁーーん」
『その前に皆、合言葉を教えてくれる?』
「「「「「「「キュート!」」」」」」」
『スイート?』
「「「「「「「チャーミング!」」」」」」」
『ラブで世界をー? 包んじゃえー! 』
同時に会場中に大量の紙吹雪が飛び交う。
その紙吹雪は、しかし紙吹雪とも思えぬ大きさ。A3用紙であった。
ファンはそれを疑問に思いながら手に取る。
そこに書いてあったのは、主な放送拠点であった神奈川全域の、今後一年間の天気予報であった。
その時コンサート会場から放たれたファンの驚愕の声は、県外にまで広がったという。