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CD、一世代前に流行した音楽を入れる為の媒体。
現在では音楽の媒体としては微妙なラインまで来てしまっているようだが、グッズとしてはまだ現役のようだ。
実物をパソコンで検索すると分かった。男の引き出しに大量に入っていたアレか。
ちなみに男が持っていたのはきゃらそんというらしい。また新しい言葉か。
しかしCDか。何かインパクトがある事をやりたい。
それにはちょっと骨が折れるが、かなり先の事の予知をしなければならなそうだ。
「プロデューサーさん、おはようございます!」
「わざわざ悪いね、キューティクルウィッチさん」
「いーえ!ルミたんは皆のアイドルですから!」
「そのテンションも大変だと思うから普通でいいよ、まぁ座って。」
「あ、はい」
CDについてはかなりの量が初版されるようだ。
そこで、昨日一生懸命書いたものをプロデューサーに渡す。
「これは……?」
「夏までの天気予報です。三か月後の天気予報をバラバラにして、初回限定盤に収録ってどうでしょう」
「……!」
実は予知はたまに変化することがある。
一つは自分で行動を変化させた場合、そしてもう一つが何か大きな魔力によって予知以上の出来事が起きた場合だ。
しかしこの世界では現状まだ自分以外の魔力は発見されていない。
よって好き放題できるという事だ。
「これ、台風の情報まで乗ってるぞ?大丈夫なのか??」
「だいじょーぶです。ルミルミの辞書に不可能はないんです」
三か月後というとまさに夏休み。
台風アリ梅雨アリ突発的な豪雨アリと天気予報泣かせの季節だ。
それをまだ春である今やってしまおうという算段だ。
番組好きはもちろん、アンチの人もチェックの為に買うのではないかという読みである。
それにしても、自分のキャラを自分で分からなくなってきた。
■ ■ ■ ■ ■
CDデビューが決まったと同時に、番組の枠が変更になった。
深夜から夕方へと変更になったのだ。枠は相変わらずの三十分だったが。
問題はゲストが来るという事だった。
今まではほぼ一人での演技か、マスコットであるインジュー君とのコントがメインだった。
しかし、このキャラで他の人と絡むというのはかなりつらいものがあった。
精神年齢は三百歳なのだ。夢見る乙女じゃいられない。
それと、ライブも決定した。単独ライブではないが、収容人数が数万人というかなり大規模なものだ。
当初の目的のテレビを使った宣伝とお金を貯めるというのは大体達成できているので、やらなくていいと言えばいい。
しかしここまで突っ切ってしまった以上、後には引けないのである。
翌日からダンスと歌の練習が始まった。
来週にはPVの撮影だ。新規の衣装を見る度に死にたくなる。
しかしセンスはいいんだよなぁ。着てみると凄い可愛い。
こうしてきゅーてぃくるうぃっち☆ルミルミのアイドルとしての道が始まったのだった。
■ ■ ■ ■ ■
一か月後、ルミルミはステージ裏でドキドキしていた。
これから一生懸命練習したライブが始まるのだ。
ファーストシングル「キショウチョウなんかに負けない!」はオリコンチャートで三位になる高順位だった。
流石にマイナー局から出ただけあって初回生産が少なかったのが大きい。
しかし、その初回生産分は即売り切れになり、プレミアがつくようになっていた。
印税が大量に入ってくる。そう思うと元の世界に戻らなくてもいんじゃないの?という気分になってくる。
「ルミルミさん、スタンバイお願いしまーす」
「はーい☆」
セリに乗って待機する。
入場用BGMが流れ、セリが動き出す。
目の前には何万人という客。「ルミたーん」という声も聞こえてくる。
大丈夫だ。人という字は何度も書いて飲んだ。人間じゃないんだけどね。
マイクを握りしめ、一言目を発する。
『皆ぁー!こーんにーちはー! 』
「「「「こーんにーちはー! 」」」」「ルミルミィイイイイ」
『初めてのライブで、こんなに多くの人に聞いて貰えるなんて。ルミたん、大大、だぁーい感激!』
「ルミたぁーん」「ルミルミー」
『でもでもぉ、ほんとは皆明日の予報知りたいんじゃないの?』
「「「「教えて教えてー!」」」」
『このスタジアムの明日の天気はぁー! 二時三十五分から小ぶりの雨!』
「「「「「「ぅぉおおおおおおおおおおおっっ!」」」」」」
『皆ぁー!合言葉は分かるよねー! せーのっ』
「「「「「キュートっ! 」」」」」
『スィート?』
「「「「「「チャーミングぅっ! 」」」」」」
『ありがとーう、では聞いてください☆キショウチョウなんかに負けない! 』
「「「「「ぅぉおおおおおおおおっっ! 」」」」」
こうして、初のライブは終了した。
三百年積み重ねた自分の中の大切なものが、また一つ無くなった気がした。