③
あれから二カ月が経過した。
「絶対命中!天気予報」は最初は疑問の目を向けられたが、異常ともいえる的中率と今の時代では珍しい程の旧時代的な魔法少女キャラによって注目を集めた。
特に外したらバッシングをしてやろうという一部の層からの注目が逆に話題を呼び、現在では深夜三十分枠に広げられている。
それに伴い、より詳しい内容の天気予報をすることになった。
同居人の男はそれまでエーディーという仕事だったようだが、現在では過去の天気に対する調査に時間を割いている。
はっきり言ってこの男の調査の正確さが、この番組の未来を支えていると言っても過言ではない。
『きゅーてぃくるうぃっち☆ルミルミだよ!良い子の皆ぁー元気だった?
ルミたん今日は甘ーいもの食べたんだ!美味しい美味しいお星さま!あまぁーいカリカリのお星さま!』
自分の出ている番組の録画を見ている。
この国の人間には、外国の小さな女の子に見えるようだ。
しかしルミルミ星から来た魔法少女は無いだろう。
まぁ、楽しんでいる人間は大体大人の事情ってのが分かっている人間だ。これはこれでいいらしい。
にしてもお腹空いたな。確か今Lチキが二十円引きだったか。ちょっと行って来よう。
あ、今日はこの安いハンバーガーあるんだ。
ついでに1リットルの緑茶も買っておこう。
「すいません、これ下さい」
「はーい」
「あ、あとLチキ。普通のとチーズ一個ずつで。あとストロー下さい」
「少々お待ちくださーい」
店員が用意している間に小銭を用意する。
あ、そうだ。一昨日作ったカードも出さないと。
■ ■ ■ ■ ■
「あ、あの……」
「はい? 」
店を出ると、私と同じぐらいの身長の女の子が話しかけてきた。何だろう。
「ルミたん……さんですか? 」
バレてるー。否定しても仕方ないので肯定しておこう。
「そうですよー。番組見てくれてるんですか?ありがとうございます!」
営業スマイルで対応。ファンかー何か嬉しい気分になる。
「すいません、サインもらえますか?ノートになっちゃうんですけど」
「いいですよー」
せっかくのファンだ。ちょっとサービスしてあげよう。
「あ、あのこれ……」
「番組ではまだ内緒の天気予報です。ちょっとしたサービスですよ」
「あ、ありがとうございます!」
再来週の天気予報を書いてあげた。
こんなことで喜んでもらえるなら安いものだ。
■ ■ ■ ■ ■
帰宅後、買ったばかりのノートパソコンを立ち上げる。
タイピングに苦労するが、情報収集には欠かせないものだ。
番組は深夜帯にも関わらず視聴率が十パーセントを超え、スポンサーもかなり大手のものがついた。
そのおかげで、まだギャラを貰ってないが前借りを許された。
しかしインターネットを使ってもまだ部下に関する情報を得られてはいない。
インターネットというものは非常に良く出来ている。
特にこの国のものは匿名なだけに、人間の本性というのがよく現れている。
天気予報が間違っていたというデマや、トリックがあると言った何の根拠もないものが大半だ。
彼らはいわゆるアンチと呼ばれている。
しかし、番組にとってはこのアンチこそが根幹だと同居人は言っていた。
彼らが目を光らせていつ間違えるかとチェックし続けるからこそ、この番組は成立する。
人間という生物は何て醜いものだろうか。しかし、結果としてこの国では大きな殺し合いが無いと考えると元の世界の方が圧倒的に劣っているともいえる。
あ、あんの変態。まーた小さい女の子の画像を検索してる。
多分この辺りに……やっぱり隠しフォルダがあった。
これは誰のパソコンだと思っているんだ。履歴も画像も全部消去してやる。
電話がかかってきた。
同居人の上司ことプロデューサーからだ。
ルミルミの産みの親でもある。
明日の雑誌撮影の件だろうか。
「はいもしもし、皆のアイドル!きゅーてぃくるうぃっち☆ルミルミです」
『私だ。こんな夜分に申し訳ない』
「いえいえ、おじさんはまだ帰れそうにないですか? 」
たまに忘れる事があるが、設定上は姪っ子だ。
『あぁ、まだ仕事が残っているみたいだ。それより、君にお願いがある』
「お願い、ですか?」
『グッズの売り上げが良くてな。思い切ってCDデビューをさせようと思うんだ』
しーでぃー?
初めて聞いた言葉だ。