①
「どうぞ、ここが俺の家だ。狭くてごめんね」
「いや、ありがたい」
男の家は古い集合住宅の一室であった。
一部屋しかない故プライバシーが無く、身の危険を感じないでもない。
しかしこの男、ヘタれである。未来を見通してもうじうじして余に手を出さないのも分かっておる。
さて、余がすべきことは三つ。
お金を貯める事。
術に巻き込まれた部下を見つけ出す事。
そして元の世界に戻る事。
最後に関しては厳しい。
あの術を起こした時にいた部下は三人。
この三人を見つけ出せれば、あるいは。
そしてそれまでの間、余も食いつなぐ必要がある。
この世界のお金は無論持っていない。男も恐らく貧乏である。
何か手は無いものか……。
ん、何だこの四角いものは。ちょっと男に聞いてみるか。
「この四角いのは何だ。」と質問するイメージを持つ。
未来予知によると、男は怪訝そうな顔をしながらテレビというこの物体について説明をしてくれる。
庶民でも使える情報媒介。映像が見れる。内容は様々。その他色々な説明を得る。
このようにイメージで質問するだけで、余は本当に質問しなくても答えを知る事が出来る。便利なものだ。
しかしテレビか。これを利用すれば部下を見つけ出す事も出来るのではないか?
作戦を練ってみるか。
■ ■ ■ ■ ■
男にいくらかの質問をした中で、興味深い事が発覚した。
男はこのテレビというもの、正確に言うと番組というものを制作する立場にいるようだ。
こやつを利用すれば、部下を探し出す事も可能かもしれん。
更に上手くいけば、余も資金を得ることが出来る。
テレビというものについては分かったので、番組というものについて勉強せねばなるまい。
この国の番組は様々な種類のものがあるようだが、余が注目したのは天気予報なるものだった。
天候を予測し、それを放送するのだそうだ。
元の世界には無い概念。非常に興味があった。
その日は一晩中天気について学んだ。
天より高いところよりて映像を撮り続け、雲の様子で天候を判断する。
なるほど、この世界はかなり高度な技術を持っているようだ。
しかし、これでは完全な予報は不可能だろう。事実誤差があるようだ。
余なら未来予知を使って知ることができる……。
「なぁ、ヌシよ。昨日までの天気を三日分でいいから判明することは可能か?」
「あぁ、それなら」
男は端末を弄り始めてすぐに答えを出した。
そしてその質問を三日後にする。
……よし、今日や明日の正確な天気が判明する。
これを武器に、この男の上司に掛け合ってみよう……!
■ ■ ■ ■ ■
翌日、男の仕事場へと向かった。
無理だと言われたが、膝枕してやると言ったらOKを出した。
男というのはつくづく愚かなものだ。
「お主がここの責任者か?」
「はぁ、君は誰だい?」
「余はこの男の姪じゃ。ちょっと話がある」
かなり無茶苦茶な交渉だが、この放送局なる場所は相当マイナーなようで、この中年の男も暇そうだった。
この放送局の未来を見ると、壁に書かれている視聴率なるものがみるみる下がっているのが分かる。
「これを見て欲しい、一週間後までの天気じゃ」
「何だい、お嬢ちゃん。天気予報のマネかい?」
「真似事と思ってもらって結構。だがな、今日の予報は晴れじゃが、本当は四時二十五分からにわか雨が降るぞ?」
「はいはい」
「もし興味があるなら、この男の元に連絡をするが良い。このテレビ局を救ってやるぞ」
「ハハッ。それは頼もしいな」
とか言いながら、余の幼い美貌を何かに使えないかと後で相談しているのもお見通しだ。
男とは何と愚かなものか。
その二日後、連絡が来た。
正確な最高気温、最低気温。湿度に降雨量まで正確に当てたのだ。
当然と言えば当然であろう。