プロローグ
第四次人魔大戦が始まって二年。人間どもより放たれた勇者一行は、魔王の城まで迫っていた。
最後の抵抗として幹部たちが集結し魔王を守っているが、突破されるのも時間の問題であった。
恐らく余が唯一残っている最後の幹部であろう。
「ルミエール様、お逃げ下さい! 間もなく勇者一味がこの部屋まで攻め込んで来ます! 」
「分かっておる! 」
余は戦闘する力が無い代わりに未来が見えた。
その力は人類連合の侵攻をことごとく破る成果を挙げ、二百年前に余が幹部に就任してからは連戦連勝。
しかしあの忌々しい勇者一行は神の加護とかで予知を全て奇跡の力で打ち破ってきた。
余は最後の足掻きとして、禁術による罠を仕掛けている。
遥か昔に禁止されて以来一度も使われなかった魔術。
書物には何が起きるかも記載されてはいなかった。
しかし余にはこれしか手が思いつかない。
「魔王の腹心 ルミエール! 引導を渡しに来た! 」
「くっ来おったか。仕方あるまい。未完成だが起動させる! 」
「させません! 」
女魔法使いが術式に介入してくる。
術式にかけた結界がそれを防ぐが、時間の問題だ。
奴の魔力は余とは比べものにならないほど高い。
「じゅ、術が暴走している!」
「ええい、余計な事をするからじゃ! 」
「クミン! 危ない! 」
「ダメ、私が逃げたら皆巻き込まれちゃう! 私はいいから逃げて! 」
暴走した禁術は、強い光を放ちながら部屋を包みこんで行った……。
■ ■ ■ ■ ■
「……うっ、どこじゃここは」
目が覚めると、見知らぬ場所だった。
言語が読めんな……翻訳魔法を使って解析する。
ホドガヤ……ここの地名であろうか。
周囲の様子からして、別次元に飛ばされたか。
「魔力は……ほとんど残っておらんか。さて、どうするか……」
元の世界に戻る為の魔力はほとんど残っていない。
この世界についても何も知らない。
困った。まさかこんなことになるとは。
「あの、大丈夫ですか?」
「ほぇ?」
変な声が出てしまった。
見れば人間の男だ。人類軍の兵士と比べても貧弱な男に見える。
しかし今の余はほとんど力を残してはいない。
「こんなところに座りこんで、何か困ったことでも?」
「……実は、余にも分からないのじゃ。何故ここにいるのかも……」
「記憶喪失か……」
嘘は一切言っていない。記憶喪失とも言っていないが。
言っちゃ何だが、余の外見は幼い女の子に見える。
普段は子供扱いされて面倒じゃが、今はそうも言っていられない。
この男の未来を見た。非常に軟弱で手を出してくる程の勇気は無さそう。
利用出来るだけしてやる。
男よ、余にはお主のベッドの下にある幼な子の写真集も見抜けるのだぞ。
「うーん分かった。女の子をこのままにしては置けない。ウチに来なよ」
「助かる」
よしよしまんまと乗っかった。
余は何をしても元の世界へと帰る。
そして魔王様をお助けするのだ。