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抗戦

本能寺を囲む明智光秀はじめ、その軍…に加えて信長と

契約していた魔族ヘレス…終結後、直ぐに戦闘の火蓋は

切られた。

 

「ウオォォォォッ!」ガシャガシャガシャッ!


 欄丸の指示のもと、正門裏手の両サイドには信長の手

勢である小姓達、十名ほどが長槍を持って待機していた。

 門扉の一部、破損した部分から複数本の槍の穂先が飛

び出す。侵入を図る光秀軍を一心不乱に突き捲り、意気

上がる光秀の軍勢を侵入させまいと鬩ぎ合いが始まった。

 が、侵入経路は門扉ばかりではない。外壁のいたる場

所から縄梯子をよじ登り、続々と手に槍、松明、太刀を

携え、鎧・甲冑を着込んだフル装備の者達が討ち入って

いった。各所から敷地内にに入ると蜘蛛の子を散らすよ

うに挌散していき、信長勢の小姓達も一人一殺とばかり

に七十名ほどが迎え撃つ格好で飛び出していった。


 ドカァンッ!バリバリッ!ドカァンッ!バリバリッ!


 撃ち破られた門扉の破損個所が更に広げられていくと

侵入を阻むのも難儀となり、門扉からの突入を許さざる

得なくなり、踏み込んで来る兵の数も一層、増えていく。

 視点を変えて上空から現場を見ると本能寺の外壁の形

はほぼ円形だとよく分かる。

 それに沿って火の付いた松明を持った光秀の兵が狭い

間隔で包囲しているからである。その居並ぶ松明の火よ

り一回り小さい火の子の様なモノが…


 ポツリポツリ…ポツポツポツポツ…


 と、増えていき、その火の輪が厚みを増していった。

 火矢が弓兵同士で回しながら点火されていく為である

が、疎らにこまごまと外壁に沿って包囲している火の子

も火矢、数千本で出来たモノとなると圧巻である。 

 そして、その金冠日食の様な火の輪がサァッ!と、一

斉に中央へ集まった。

 火矢が本堂に向けて撃ち込まれたのだが、継続的に点

火され撃ち込まれていく光景は線香花火をスチール・カ

メラに収めて逆再生でもしているかの様である。

 視点を敷地内に戻してみると光秀軍がなだれ込んで、

本堂まで直ぐそこ…という所まで接近した者も居る。

 が、そこは待ち構えて臨戦態勢に入っていた信長勢も

直ぐに反撃を加える。


 ビシュビシュビシュゥンッ!


 と、駆け込んできたばかりの光秀の軍勢に矢が射ち込

まれていった。縁側に沿って畳や羽目板、茶部台等で設

けられたバリケードの影から欄丸の


「撃てぇぇっ!」


 という号例の元、矢継ぎ早の文字通り弓を担当した小

姓達は射ったら次、射ったら次と物陰に隠れ、出ては射

つを繰り返した。これに対して接近に成功した光秀軍の

兵士達も身を顰める場所も無いので射ち返すしかない。

 ある弓兵は矢を放とうと構え、誰が信長か見回す。


「ぬぅぅ…どれが信長かっ!…ん?…アレかっ!!」


 その弓兵は直ぐに気付いた。三十人ほどが矢継ぎ早に

矢を射っては物陰に隠れるを繰り返している中、一人だ

け微動だにせず、弓をギリリ…と、目一杯に絞り切り、

こちらに狙いを定めている男が信長だと。

 互いの距離は十五メートル程…弓兵は慌てて矢を射掛

けた。ビュビュンッ!と、信長の放つ矢と交差する。


 ドスッ!


《チッ…外したかっ!…次っ!》


 と、次の矢を取ろうとしたが武器一色と鎧・甲冑が何

時の間にか無くなっているので、その弓兵は辺りを見回

した。すると…自分の遺体が後方で矢を咥えた格好で倒

れている事に気付いた。

 

《何故!そっ其れがしが何故ソコに倒れているのだ!》

 

 その弓兵は信長に口から後頭部を射抜かれ、即死して

いたのだが同じ様な光景は続く。


 ドスッ!ドスッ!ドスッ!


 信長は矢を射っても物影に隠れる事は無く、射っては

次、射っては次と弓を一杯に引き絞り、的確に狙いを定

めては射ち込んでいった。

 皮肉な事に、何所か生存の可能性を期待している光秀

の兵を死を覚悟している信長が次々と射抜いていく。

 加えて彼らは正門・門扉付近の鬩ぎ合いを掻い潜って

駆け込んで来たこともあって息を乱していた為、矢を射

掛ける正確さに欠けていた。


 カキィンッ!ガシャァッ!キキィンッ!


 と、剣、槍、刺す又等を交えられる音も夥しさを増し

ていく。光秀軍の兵数が更に増えたためだが、持てる矢

を射ち尽くした欄丸を含む小姓達も我先に飛び出して斬

り合いに及んだ為である。

 尽きる事無く正門からは続々と光秀の兵が入り込んで

来ているが正門の裏手に控えていた小姓達が長槍で突い

て押し返しを図って侵入を最小限に抑えてられていた為、

現時点では人員的にはそれほどの差は無い。

 バリケードの奥からは手持ちのの矢を残す信長や小姓

達が射掛け、敵兵に命中させて行く。

 矢の撃ち合いで言えば信長勢は鎧・甲冑を着込んでい

ないものの息を乱していないことと、物陰に居る分、有

利であった。が、本堂及び境内には直も外から打ち込ま

れる火矢の雨が降り続ける。

 その為、建物自体も直ぐに出火して境内は思いのほか

明るくなっていった。


 タタッ!ドスゥッ!ザッ!タタタッ!


 早々、白兵戦に踏み出していた欄丸はその中を槍を持

って掛け周り踏み込んでは突き、抜いては即離脱を繰り

返し、一際目立ついた動きを見せている。 

 弥助と言う黒人小姓は巨体と怪力にモノを言わせ大木

を振り回して誰も寄せ付けず、信長も矢が尽きると縁側

から大槍を持って応戦し、敵兵を階段に上がらせない。

 

「お命頂戴ぃっ!ウッ!」

「貴様ぁっ!何所を見ておるぅぅっ!」

 

 ドシュゥッ! 


 と、駆け上がる者も居るが火の子を顔で受けて怯もう

ものなら、信長は見逃す事無く、すぐさま突き込む。

 炎を見る側に居る光秀の兵達は動物的本能を刺激され

踏み込みが鈍り、熱や煙を顔で受ける為に思いの外、視

界を制限されていた。



「命の要らぬ者は前へ出でよぉっ!」


 カキィンッ!ブサッ!ガシャァ!ドスンッ!


 と、それ以上に気迫で敵兵を圧倒する信長は次々と飛

んで来るの槍や刀を大槍で打ち払っては突いて殴り付け

ていた。が、敵兵の放つ矢の数も時を追って増していく

中、ブツッ!と、信長自身が左肩に矢を受けてしまう。

 ヘレスとの契約期間の間は合戦などで白兵戦に及んで

も槍で突かれ、太刀で斬り付けられ、 矢や鉄砲を撃ち

込まれ、馬に蹴られても無傷であった。

 と、言うのも、その瞬間は黒いバリヤーの様なモノが

現れ彼の体を保護していたのである。

 幾度と無く合戦を繰り返し、白兵戦に自ら進んで参加

しては生還を果たしてこれたのもその為であった。

 が、 その契約期間を過ぎた今、彼を加護しているモ

ノは無い。応急処置の為に一先ず奥の間に引き込んだ。 

 変わって御濃が応戦する事になる。

 縁側の階段から境内に降りて薙刀を振るい始めた。


「御方様っ!…貴様らぁぁぁっ!御方様に指一本触れる

なよぉぉっ!それ以上、寄らば、この欄丸が許さんっ!

生きて帰れると思うなぁぁぁっ!」

 

 それに気付いた欄丸が戻る。(槍は折れてしまった)

彼は敵兵を引きつけようと御濃の近くで刀を振るい負

担を減らす。その格好は警護している様に見えた。

 光秀軍勢は「光秀から婦人には手を出すべからず。」

と言い付けられていた事と、これは(謀反)という意識

からか百パーセントの戦闘モードとは言い難い状況にあ

った。圧倒的な人員に関わらず手をこまねいている様子

である。とは言え、応戦していた小姓達も次々に討ち死

にしていく。兵達は御濃の方には全力で手を出せないで

いるものの、御濃の方は薙刀で手当たり次第に斬り付け

ていたが兵達もフル装備なので中々、致命傷は与えられ

ない。一方、奥の間に引き込み小姓に左肩の手当てをさ

せる信長。アルコールを幹部に吹き付け、矢尻を断ちバ

サミで切り落とし矢を抜いて布を宛がい包帯で巻いて行

く。


「フゥ…コレまでか…。」


 信長はアルコールを口に含んで一息つき、畳をジッと

見つめていた。外からは乱戦で金属のぶつかり合う音や

怒号が舞い込んでくる。

 その時、襖の僅かな隙間から一陣の風が吹き込むと僧

侶の姿をした男の霊が薄ぼんやりと現れ信長に語り掛け

て来た。他に手当にあたる小姓が二名ほど居るが、その

姿は信長にしか見えない。


《思い起こせば感慨深い…この寺も大分、老朽化も進ん

でおりましたが、どうやら今宵が貴方ともども最後の様

ですな。》


この一言の後、僧侶は眼を見開く…。




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