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引力

姿と真意を露わにした魔物・ヘレス…信長に憑り付いていた残留思念は

このまま飲み込まれてしまうのか?

 本堂では…。

 

「先の日隆との問答を聞いておったか?…悪い事は言

わん…一時で良い…ワシが愚行を忘れろ…その先、貴

様は天へ上がり、幾らでも、この兄を笑えば良い。」


《・・・・・・。》

 

「信勝よ…今、楽にして遣わす…。」 

 

 信長は大刀を逆手に持って自らの腹部に突き込もう

としていた。炎が魔界の障気を遮るのか浄化してしま

うのか信長だけは全身が麻痺してる様子は無い。

 そこへ左手の姿をしたヘレスが正門からスゥゥゥッ

と、進み出て信長の眼前に現れる。大刀を突き込もう

と振り被っていた信長の視線は腹部の矢や左側であっ

たがヘレスに気付くと右手を制止させ、ゆっくりと視

線を上げつつ眉間に皺を寄せ、睨みつける。


『よぉ…信長ぁ…今日でめでたく年貢の納め時だな…

家来に殺られるってどんな気分だ?』


《ヒッ!ヒィィィッ!バ、バケモノォォォッ!》


 ヘレスの姿を見た信勝(白骨の霊体)はサッと、信

長の背後に隠れた。


「ン?…おぉ…来たか…化け物めぇ…姉川にて負った

顔の傷は今宵は疼いておらんのか?ククク…。」


『…ケッヘッヘッヘェ…ウルセェ…収穫の時に不機嫌

な百姓も居ねぇだろぉ…今までお前に…費やしたモノ

が…膨大な利得になって戻ってくる訳からな…ホラァ

…さっさと死ねよっ…。』。


 と、言う左手{ヘレス}は人差指で信長を指してか

ら掌を上空に向けてクイックイッと軽く上下し拳を作

ってから親指だけを下に向けて立ててスゥッと地面を

指した。


「フンッ!」


 と、目線だけでソッポを向くと再び険しい表情に戻

り、 一息吸って振り被ると自らの腹部のやや左側に

大刀を右手のみで深々と突き込んだ。ドシュゥゥッ!

そこから更に力を加えて押し込むと、その右手を柄か

ら刀身に握りを替えた。


《ウシッ!》《逝ったぁぁっ!》《コレじゃ生温いん

じゃないかいっ!》《早く引けぇっ!》《コレが悪党

の最期じゃぁっ!》《ザ、ザマァッ!》《深く入れた

なぁっ!》《苦しめ!》《かぁ…痛そぉ…。》

《まだまだぁ…。》《手前の苦しみに比べればっ!》

《ヘヘヘッ…抉れ!》《兄上を笑うなぁぁぁぁっ!》


《ウワァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!》


 すると霊達が歓声を上げると共に無数の顔がシャボ

ン玉を吹く様に炎から吹き上がり宙に浮遊し始めた。

 信長の心身に根を張るように憑依していた残留思念

なので彼が死に近付く事で思いが遂げられ、大気中に

飛び出すのだ。信長が炎に包まれ、割腹する姿を食い

入る様に見入る。が、その喚声は直ぐに悲鳴へと変わ

っていった。

 左手{ヘレス}がギュゥゥゥン!と強力な吸引力を

掌に有る巨大な口(鋭い歯が奥の方まで生え揃う。)

から発動させて犠牲者達の霊を吸い込み始めたのであ

る。霊達に耐える術は無く、掃除機が塵埃を吸い込ん

でいくのと変わらない光景であった。


《お、おいぃ!何だぁコリャァッ!》《ど、何処に連

れてかれるんだぁっ!》《苦しぃ…》《凄い力じゃね

ぇか…》《グハァッ!逆らえんっ!》《やだぁっ!行

きたくなぃぃっ!》《な、何だ!あの黒い手は!》

《オ、オイ!中心に口が開いてるぞ!歯も鋭い!》

《いっ何処へっ!?》《あっ兄上ぇぇぇぇぇぇぇっ!》


《ウギャァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!》


『グハハハハッ!何時までも負の感情を抱いていたん

だ!行きつく先は負の極み…そう!魔界以外には無い

ぃっ!負の源力を俺に渡した後は永遠の闇へ行け!極

寒か灼熱に晒され!乾き!汚れ!恐怖!痛み!苦しみ

!絶望に苛まれ!死ぬ事も許されず!未来永劫、魔族

の慰みモノに成る以外は何も無いぃぃっ!責め苦の全

てが地獄すら生温いとも思える世界が貴様達を待ち受

けていると思えっ!終わりは無いぃぃっ!ゲェハハハ

ハハァァッ!』


 左手{ヘレス}の吸引力は更に勢いを増し、ザザァ

ァァァッ!と、霊達を引き込み続けた。

 燃え盛る本堂の炎の中、或いは信長の肩の辺りから

は次から次へと義牲者達の霊が浮き上がるが左手{ヘ

レス}の中心部に有る口に吸い込まれていく。

 不思議な事に霊体同士であるにも拘らず左手{ヘレ

ス}の歯にぶつかると傷を負い、血の様なものを噴き

出しつつ苦悶の表情を浮かべ、その奥の闇へ引き込ま

れていった。

 そして霊を吸い込んでいくに従って左手{ヘレス}

自体も巨大化していく。その様を見て皆、恐怖に表情

を強張らす。が、その時、突如、本堂内の霊達を吸い

込む動きがピタリと停止する。


『ゲハハハァッ!…アン?…ゲフゥッ!…アレェェェ

ェェ?…ハァレェェェェッ!?』


 当の左手{ヘレス}が口を開いたまま事態を飲み込

めないでいる様子である。信長は刀身を握ったまま、

ゆっくり顔を上げると大口を開いたままのヘレスを見、


「ククク…クク…クハハハ…ガァッハッハッハッハァ

ハッハッハッハァァッ!」


 と、笑い出した。左手{ヘレス}はピクピクと痙攣

し、『ハァッ!』と、更に大口を開けるとそこから…


『オォ…オフッオフッ…オエェェェェゲハァァァァァ

ァァァッ!オップッ!ゲホォエァァァッ!』


 左手{ヘレス}はやにわに嘔吐し始める。吸い込ま

れたはずの霊達がビデオを逆再生するかのように吐き

戻されていった。本堂内に浮いていたり投げ出された

霊達は交互に信長と左手{ヘレス}に視線を送り、遣

り取りに見入る。


『オッオゲェッ!コ、コリャ一体どういうこったぁぁ

っ?ゲホォッ!オグッ!オグッ!ゲハァァァッ!!ン

!?アッ…アレはぁぁっ!』


 左手{ヘレス}が本堂に視線を移すと怨霊でしかな

かった霊達の傷が修復されていき、信勝もシャレコウ

ベから以前の傷一つ無い顔に戻っていく。


《あ、兄上…コレは!…》


「ククク…信勝よ…元の男前に戻ったようだのう…之

よりワシは地獄…貴様は天上…血を分けた兄弟…名残

惜しいが之にて誠にさらばだ…早々に上がれ…。」 


《兄上…。》


 そして光の玉に包まれ、信勝を始めとして霊達は天

井の先へと昇り始めたのだ。

 最初は一人、二人、三人、と、いった緩やかなペー

スであったが見る間に上がり、炎から絶え間無く浮き

上がっては何の滞りも無く光の玉に包まれると天井に

昇って行く者が多数を占めたのである。


「ククク…ヘレスよ…天井の羽目板に梵字で彫り込ま

れているマンダラなるモノは見えるかっ!天・宇宙・

真理を纏めて表したモノとのこと…聞けばこの寺を健

立した日隆の施しだとか…その日隆…人の魂だけを体

から分離させて天界・菩薩・修羅・餓鬼・畜生・地獄

と自由に送り込み、呼び戻す力を持っていたそうだが、

この神仏の連なるマンダラの霊験と日隆の力は貴様を

も超えるようだのぉっ!そして、ここに居合す貴様も

所詮は霊体!抗う術は有るかぁっ!其処に居れば貴様

も天に吸い上げられるという事ぞぉっ!」


 更に本能寺周辺を漂う障気とソレ吸い込み意識を失

ったり悶絶していた信長家臣の小姓や明智軍兵士達の

体内に侵入した瘴気をも本堂のマンダラは吸引し始め、

空からは常時ヘレスの肩に止まっているカラスが螺旋

状に下降して来て、バサッ!と本堂内天上のマンダラ

に吸い込まれてしまった。瞬間、無数の黒い羽根が飛

び散る。が、


「カッカァァッ!カァァァッ!ヘレス様ッ!オ、オタ

スケェェッ!…カッ!」


 と、カラスは吸引力に抗いながら姿を覗かせたもの

の直ぐに引き戻される。しかし…


「へ、ヘレ、ヘレス様ァァッ!カカカッカァァッ!」


 と、再度、脱出し掛けたが再び引き戻され、もう戻

って来る気配は無い…。








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