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ある修道女の背徳  作者: ありくい
淑女計画
8/9

7.朝食



「おはようございます、スノウ様」


「おはようレディーコンスタンス、おはようシスターレオノワ」


「おはようございます」



蛇に睨まれたカエルの如く、レオノワの声が戦慄いた

スノウはすでにテーブルの一番奥に着席していて、レオノワとコンスタンスを待っているようだった

そして待ち構えた様に、レオノアに椅子を引く、レオノワはここにきて初めて、着席するには男の方に椅子を引いて貰わねばならない事、そして、起立する際は、男の方も共に立ち上がることを知った。

すべてテーブルマナーと、教えたのはもちろんコンスタンスだ。

レオノワはスノウに椅子を引かれ着席し、ふっと息を吐いた


スノウの屋敷はレオノワがいままで見たどの建物よ立派で、豪華で、ある日村で子供たちに読み聞かせた童話に出てくるそれとよく似ていた

もしかしたら村の人口より多い従業員がいるかもしれない

ここに住まわせてもらって、数日、今だにレオノワは建物の中で彷徨い、メイドに助けられることなどしばしば

けれどレオノワは、この屋敷をコンスタンス公認で見学し回ることを許されていないし、レオノワに宛がわれた部屋から臨む美しい草原を駆け回ることも許されていない

いまだレオノワは、背筋を伸ばし、小さなスプーンでスープを吸い、ごきげんようと相手を伺う事しか許されていないのだ


「レオノワ様、また少し猫背気味になっておられますよ」


「ご、ごめんなさい…」


「すみません」


「す…すみません」


「…レディーコンスタンス、朝食時くらよろしいでしょう、シスターレオノワ、あまり堅苦しくならず…」


「いいえ、これもマナーの授業の一環でございます!スノウ様が許してしまえばレオノワ様も甘ったれてしまいますよ」


くすくすと、控えたメイドが笑っている

惨めだ、実に。苦虫を食わされた気分に陥る


スノウはそう、と諦めた様に運ばれた朝食に手を付けた

レオノワとスノウがこうして顔を合わせるのは食事の時のみ、あとはスノウが何をしているかなど、レオノワは知りもしない

噂だと自室に籠り切りのようだ、とレオノワの部屋付きのメイド達が話しているのを聞いた

レオノワはなるほど合わないはずだ、と納得した。

帝国の騎士団長と言う肩書を持つ人なのだから、何かと忙しいのだろう

それは今だスノウとの接しかたをつかめないでいる、そんなレオノワには大変助かる話であった


「シスターレオノワの様子はどうでしょう、コンスタンス」


「まだまだ覚える事ばかりです、けれども最近やっと、廊下を走らない事を覚えたようですわ」


朝の報告会、コンスタンスの嫌味を聞き流しながら、レオノワはかしこまった様子で、運ばれたパンにバターを塗る

それすらも、横でコンスタンスが目を光らせている、正直息苦しい、堅苦しい、村に帰りたい

けれど


「ああシスターレオノワ、今朝、母君に同行している騎士から電報が届きました」


「母はいつこちらに来るって!?」


「レオノワ様!」


「お、お母様はいつこちらにいらっしゃるのですか?」


「ええ、今ちょうど荷物を纏めているとの事です、こちらに付くのは一か月という所でしょう。」


「一か月…」


「ちょうど誕生祭の後くらいになるでしょうね」


こうしてスノウは毎日、レオノワの母の様子をちらつかせるから、レオノワは帰れない

スノウは言う


「この任務が終われば、母君と共に安全を私が保証します。」


「はい」


「右大臣の人望を、悪しきものに利用されてはいけません、その為には…」


「ええ、心得ています。」


スノウはそうして退路を断つ

だからレオノワは逃げ出せない、投げ出せない、レオノワは知っている


「よろしくおねがいします、シスターレオノワ」


こうして機械的に語りかけるスノウは、凍えるほど美しいと。





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