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第 6 章

第 6 章



ある日の夜、晩餐会が開かれた。

アンも同席するよう公爵から言われ、出席することになった。

アンはアリスの横に座った。

皆が集まって着席きしたとき、

何故か一つだけ椅子が空いていた。


「皆様、今宵は公爵家恒例の定期晩餐会にご出席頂き誠にありがとうございます」


公爵が挨拶をし、晩餐会が始まろうとしていた。

その時、大広間の扉が開いたと同時に男の声がした。


「遅れて申し訳ありません」


アンはその声を聞いた途端、思わず立ち上がってしまった。


「ガタン!」


皆はアンを見た。

アンの視線は大広間に入ってきた男に向けられていた。

アリスがアンの様子が変なことに気がついた。


「カイン候、お久しぶりです」


アリスは皆の視線をそらすため、立ち上がって挨拶した。


「アリス嬢、お久しぶりです」


カインもアンの存在に気がついていたが、平静を装った。


「まぁ、皆かけたまえ」


エドワードも何か感づいて場を和ますために言った。

それぞれ着席し、晩餐会がはじまった。

アンは座ったものの、

うつむいたまま食べることさえできないでいた。

アリスが気にかけて小声でアンに言った。


「アン・・どうしたの?」


「・・・・・・・・」


アンは黙ったままだった。

皆が食事をする中、一人の男がアリスのに話しかけてきた。


「アリス様のご結婚パーティーはいつなのですか?」


アリスは冷静に答えた。


「私はまだ結婚しませんわ」


エドワードが驚いた顔でアリスを見た。


「え・・・しかし・・・・」


「婚約者のカイン候がここにおられるではありませんか」


その男性の言葉を聞いたアンは驚いてカインの顔を見た。

カインがチラリとアンを見たが、すぐ目をそらし言った。


「はは、あれは親同士が勝手に決めたものです

あって無いようなものですよ」


カインがサラリとかわすように話した。

アンが小刻みに震えてるのをエドワードが気がついた。

食事を終えた皆はサロンで談話していた。

アンはもうその場にいるのが苦しくて、苦しくて

今すぐにも逃げ出したかった。

アリスもエドワードも、アンのおかしい様子に気がついていたが

接待をしていたためアンの側に行ってあげることができなかった。

アンはもう我慢ができなくなりテラスに出た。


「ちょっと失礼します」


密かにアンの様子を見ていたカインがアンの後を追った。

その様子をずっと見ていたのが、エドワードだった。

テラスに出たアンは夜空を見上げ呆然としていた。

その時、後ろからカインがアンに近づいてきた。


「アンジェシカ・・・・・」


その声を聞いた瞬間アンの胸が締め付けられた。

アンがゆっくりと振り向くと・・・

そこには愛しいカインの姿があった。


「あ・・・・・・・・」


言葉が何も出てこないくらい、アンの胸がどんどん締め付けられた。


「アンジェシカ・・・・」


カインの甘く低い声が、愛しいくらいに耳に響く。

アンは何も言えず胸を締め付けられるのを耐えるしかなかった。


「すまない・・・君に何も言ってなかったな・・・」


カインがそっとアンの手を取った。

アンは黙り込んだままだった。

そんなアンの手を強く握締めカインが言った。


「聞いてくれアンジェシカ!

私は君にこの気持ちを打ち明けた時

親の決めた結婚など破棄すると決めていた

しかし・・すぐその後に君に会うことすらできなくって・・・

とても苦しかった・・・・・」


カインの真っ青なブルーの瞳が

アンの瞳を捕らえて離さなかった。


「何故だ!何故・・・・・・」


カインの顔が寂しそうにアンに訴えかけてきた。


「あ・・・ごめんなさい・・・」


アンは謝ることしかできなかった。


「それは君の意思なのか?」


カインはアンの心を見透かすかのように言った。

アンは静かにうつむき、首を横に振った。

その姿を見たカインはアンを抱き締めた。


「やっぱりそうか・・」


心の底から安心したカインを肌で感じた。

愛しく、愛しく、優しく抱き締められたアン。

アンはカインの胸の中で、こんなにも幸せな気持ちになれることを

改めて思いしらされた。


「カイン・・・さん・・」


アンが呟く。

しばらく沈黙した後、カインが口を開いた。


「アンジェシカ・・・公爵との結婚はやめて、俺と結婚してくれ」


その深く低い声は、アンの胸を押しつぶした。

アンは胸が一杯になり

何も言えずカインから逃げるように走りだしてしまった。


「アンジェシカ!!」


カインは走り去るアンを追いかけることができなかった。

それはアンの立場を重々に判っていたからであった。


「すまない・・アンジェシカ・・」


ポツリと呟いた。

アンは溢れ出る涙を押さえながらサロンに戻った。


「あ・・アリス・・・」


アンがアリスに声をかけた。


「私・・少し疲れたので先に部屋にもどりますね」


少し震える声を抑えながら言った。

アリスは黙ってうなずきアンを見送った。

アンは公爵にも挨拶をした。


「公爵様・・・少し疲れてしまったので

自室に戻ります申し訳ありません・・・」


エドワードは優しく微笑んでアンを見送った。

だが・・・・・・エドワードは

先ほどのアンとカインの話を密かに聞いていたのだった。

アンは部屋に戻りベットに倒れ込んだ。

アンがサロンを出た後、アリスがテラスにいるカインに近づいた。


「カイン候、お話があります

先ほど晩餐会の席でお話なさったことなのですが」


と、アリスが言った瞬間


「アリス嬢、申し訳ありません」


カインがいきなり謝ってきた。

アリスは目をキョトンとさせたが

カインとアンの様子に薄々気がついていたので


「何を謝るのですか?謝るべきは、私の方です」


カインも驚いた顔した。


「カイン候・・私、好きな人がおりますの。あなたもそうなんでしょう?」


アリスの問いにカインは一瞬沈黙した。


「フフ、私が何も分からないとでも?」


アリスは少しからかい気味に言った。


「カイン候、お互い同じ想いです。

親が決めた婚約など破棄をして、お互い幸せになりましょう」


アリスがニッコリと笑って言った。

カインは何か肩の荷が下りた感じがした。


「アリス嬢、あなたの察するとうりです

私も心の底から愛する人と出会ってしまいました」


その言葉を聞いてアリスは確信をもって言った。


「アンのことですね?」


カインは静かに頷いた。


「ええ、私はアンジェシカを愛しています。

しかし、公爵殿との結婚のお話を聞いて一時は身を引く覚悟でした

それがアンジェシカの意思ならば・・・だが・・・」


そう言ってカインは口を閉ざした。


「よくわかりましたわ。私はアンの味方ですから

できるだけのお力をお貸ししましょう」


アリスの言葉にカインは少し勇気づけられた。

夜も更けていき皆も帰った頃、

ただ一人、サロンに残って酒を静かに飲んでいる人物がいた。

それはエドワードだった。


「・・・・・・・」


エドワードは何かを考え込みながら酒を飲み、次第に理性を忘れるくらい酔っていった。


「コツコツコツ」


静かな屋敷に足音が響く。

その足音はアンの部屋の前で止まった。


「コンコン」


静かにドアをノックスする音。

アンはあれから眠れずにいたので誰かが来たことに気がついた。


「あ・・はい」


返事をして扉に向かった。

ゆっくりと扉を開けた瞬間、アンは血の気が引くのを感じだ。

そこにはいつも全然違う様子のエドワードが立っていた。


「こ・・公爵様・・・」


アンが思わず後ずさりした。

エドワードがアンに無言で近づいて来た。

と、同時に凄い酒の匂いもしてきた。


「公爵様・・どうされたのですか・・」


いつもと様子が違うエドワードにアンは困惑した。

いきなりエドワードに引き寄せられたアン。

エドワードはアンを壁に押さえつけるかの様にした。

少し恐怖を感じたアンは言葉がでなくなった。

あんなにも温厚で優しい公爵が違う人に思えた。

酔った目でエドワードがアンを見つめて言った。


「そういうことだったのか・・・・・・」


アンはその言葉の意味をすぐに悟った。


「あ・・・・・」


アンは公爵から目をそらした。


「アンジェシカ・・・何故、何も言ってくれなかったんだ・・・

私は・・私は・・・・父上の願いだけではなく、本当に君を愛しているのに・・・・」


そう言ったエドワードはアンに無理やり口づけしよとした。


「公爵様!」


アンは顔を横にそらした。

そんなアンの態度に公爵は嫉妬心で一杯になった。

完全に理性を失くした公爵は、

アンの顔を押さえつけるかの様に片手でアンの顔を押さえ、

自分の方に向けさせ無理矢理口づけをした。

逃れようとするアンをエドワードは逃がさなかった。

アンの心にカインの時とは違う衝撃が走った。


「ん〜!んん!!」


アンはありたっけの力でエドワードから逃れた。


「はぁ、はぁ、公爵様・・・酔ってますね」


アンがエドワードとの距離を取ってから言った。

エドワードは壁に手をあてたまま床を見つめていた。

そんなエドワードを残し、アンは逃げるように走り去った。


「クソッ!」


エドワードは壁を叩きつけた。

アンはもう何も考えられなかった。

屋敷から飛び出し、アンは無我夢中で走った。

これ以上走れなくなったアンがたどり着いていた場所が・・・

カインが連れてきてくれた蛍のいる森だった。

「はぁはぁはぁ」アンはその場に座り込んだ。

息が整う間もなくアンは泣き崩れた。

もう体中の水分がすべて出切るまで泣いた。

アンの心は、これ以上過酷な現実に耐え切れなかった。

フラっと立ち上がったアンは・・・・

魂が抜けるようにそのまま・・・・・川に身を投げた・・・・


「バシャーン!」


その川はまるで、アンを包むかの様にアンを流して行った。


「お兄様!!アンはどこですか!!」


アリスの声が屋敷中に響きわたった。

エドワードは椅子に座り、黙りこんだままうつむいていた。


「お兄様!!どうなさったのですか!」


アリスが兄のおかしい様子に嫌な予感を感じた。


「一体・・・何があったのですか?」


兄の足元にそっと座り囁いた。

静かに顔を上げたエドワードが口を開いた。


「アリス・・・私は・・・とんでもないことを・・・・」


まだ穂のかに酒の匂いがする兄にアリスは言った。


「お兄様・・・まさか・・・」


その言葉を聞いてエドワードは自分の顔を手で覆った。


「すまない・・アリス・・・私は・・・

アンジェシカを傷つけるつもりなどなかったのだ・・」


アリスはその言葉を聞き、慌てて立ち上がり部屋を去った。


「誰か!誰かおりませんか!!」


アリスは執事を呼んだ。


「アリス様、どうかされましたか?」


執事がアリスの慌てた様子に飛んできた。


「カイン候に・・カイン候に手紙を急いで届けて!!」


アリスは急いでカインに手紙を書き執事に持たせた。

手紙はすぐカインの元へ届いた。


「!!」


手紙を見たカインは慌てて馬に乗り走りだした。


「アンジェシカ・・・」


カインの心は今にも張り裂けそうだった。

日が暮れるまでカインはアンを探し続けた。

その頃、アリスも屋敷の者たちを使いアンを探し続けた。

そのことはギルにも話が届いた。

ギルもアリスと合流してアンを探し続けた。

皆が必死で探す中、

アンは夜が更けても見つけることができなかった。

外はもう暗闇で、これ以上探すことができなくなった一同は

一旦屋敷に戻るしかなかった。


「ギル・・・どうしましょう・・・」


アリスが涙ぐみながら言った。

ギルは優しくアリスを抱き締め言った。


「大丈夫だよ・・アンは必ず見つかる・・・」


エドワードもやっと自分を取り戻し

事の重大さをさらに認識した。


「カイン候・・・ちょっとこちらに来てくれ」


エドワードがカインを呼んだ。

カインは怒りをぐっと堪えてエドワードについていった。


「カイン候・・・申し訳ない!」


エドワードが頭を深く深く下げて言った。

カインは怒りを抑えきれなくなりエドワードの胸を掴んだ。


「いくら公爵様といえど・・・

何故アンジェシカを傷つけるようなことをしたんだ!」


カインがエドワードに怒鳴った。

エドワードはカインに抵抗することもせず黙りこんだ。


「貴方のアンジェシカへの気持ちはその程度ですか!!」


その言葉を聞いたエドワードの心に衝撃が走った。


「私は・・私は・・彼女のためなら身を引くつもりでした

それが彼女の意思ならば・・・彼女が幸せになれるのだったら・・・

私のこの身など八つ裂きにされてもいい!」


エドワードは愕然とした。

カインはこれ以上何も言わず部屋を去った。

そしてまた暗闇の中、

必死に馬を走らせ、一人アンを探し続けた。


「アンジェシカ・・・・一体どこにいったんだ・・・」


やるせない気持ちを必死に抑え馬をひたすら走らせた。

しかし・・・夜が明けてもアンは見つかることはなかった・・・・



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