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第 5 章

第 5 章



「バシン!」


屋敷中に響き渡る音。


「アン!あなたは何を考えているの!!」


怒鳴り声と共にアンは左の頬を激しく叩かれた。


「お母様・・・・」


アンは頬を押さえながら呟いた。


「一体何をしていたの!公爵様に知られたらどうするの!!」


母はアンを叱り続けた。


「いつまでお返事を待たせる気なの!!

もう、あなたを待ってなんていられないわ!!

お部屋に戻って私が許可するまで部屋から出てはいけません!」


怒鳴りつけたあげく、母はアンを部屋に閉じ込めた。

アンは反抗することすら許されず、

泣きながらベットに倒れ込んだ。

母はその日のうちに公爵家に手紙を出した。

その手紙はもちろん・・・・結婚承諾の返事だった。

そんなことをされてるのも知らず

アンは部屋の中で、ただ泣くだけだった。



「公爵様、お手紙が届いております」


執事がエドワードに手紙を渡した。

エドワードは書斎に行き

シルバーでできたペーパナイフで手紙を開けた。

その手紙を見て驚いたエドワードは

急いで父アンドリューの元へ向かった。


「父上!アンジェシカが結婚を承諾してくれました!!」


嬉しそうに父に報告するエドワード。

アンドリューは嬉しそうに目を細め、そのまま眠りについた。

それからの公爵家は式の準備のため慌しく動きだした。

噂はすぐ町中に広がった。

その噂はもちろんカインの耳にも届いた。


「ガタン!!」


執事から話を聞いたカインが勢いよく立ち上がった。

その顔はいつものカインの顔ではなかった。


「なんだって!!」


執事もそんなカインの姿を初めてみて驚いた。


「カイン様・・・どうされたのですか?」


「馬を大至急用意してくれ!!」


カインは無我夢中で外に飛び出した。

馬に飛び乗るなり、ものすごい勢いで走りだした。


「ハッ!」


カインは激しく馬に鞭を入れた。

カインは馬を走らせながら

一生懸命自分の気持ちを抑え、理性を取り戻そうとしていた。


「アンジェシカ!アンジェシカ!!」


カインはアンの屋敷へ入るなり叫んだ。

その声を聞きつけて母が出迎えた。


「これはこれは、侯爵様

そんなに息を切らしてどうなさったのですか?」


母は冷たい視線でカインを見た。


「これは、失礼をしました伯爵夫人」


馬から降りたカインが一礼をして言った。


「伯爵夫人、アンジェシカを・・・・アンジェシカ嬢にお会いできますか?」


カインは冷静を装いカトリーナに問いかけた。


「カイン侯爵様、申し訳ありませんが・・・

公爵家に嫁いでいく娘に誰であろうと

殿がたに会わせるわけにはいきません!」


カトリーナは強い口調で言った。


「それは、アンジェシカが承諾したのですか?」


カインは問いかけ続けた。


「もちろんですわ!何をおっしゃてるんですの?」


カトリーナは横目でカインを睨みつけるように見た。


「そんな・・・馬鹿な・・・・・」


カインが呆然としながらうつむいて呟いた。


「え?何か言いました?」


カトリーナが聞きなおした。


「いえ、何でもありません、わかりました。失礼します」


カインは馬に乗り、それ以上何も言わずに走り去った。


「一体何なのかしら・・・」


母は一つの疑問を持った。

そんなすべての状況を

アンは知る術もなく部屋に監禁された状態だった。

母がアンの元へやって来た。


「ガチャ」


部屋のドアが開く。


「コツコツコツ」


アンに近づく母からいきなり飛び出した言葉が


「アン!カイン候とはどういう関係なの!」


アンは驚いて暫く沈黙した。


「え?」


戸惑うアンの姿を見て母は悟った。


「アン!貴方・・・もしかして・・・」


母は言いかけたが、それ以上の言葉は言わなかった。

今更そんなことに気がついたからといって

どうにかなるわけじゃない。

母の貪欲な性格なら分かっていても

侯爵に嫁がせるわけがない。

母は、冷たい視線をアンに向けて言った。


「アン、公爵様には私からお返事をしました」


アンは言葉がでないくらいショックを受けた。


「もう公爵家では、式の準備が始まっているわ!

あなたもそのつもりで準備をしなくてわね」


母がニッコリと笑った。

その笑みには、貪欲さが滲み出ていた。

アンはその場に崩れ落ちるかのように座り込んだ。

そんな姿を見ても母は冷たくアンの部屋を去っていった。

アンは愕然とした。


「せっかく初めて人を好きになったのに・・・どうして?・・・・」


アンはただ泣くしかできなかった。

その間に、無情にも着々と式の準備がされていった。

数日後には、アンのウイディングドレスも出来上がってきた。

部屋に飾られた純白のウイディングドレスを

呆然と見つめ続ける日々が続いた。


そんなある日の夜更け・・・・・

アンの部屋にギルがやって来た。


「アン・・まだ起きてるか?」


静かにアンの部屋に入ったギルは驚いた。

そこにいたアンは、

ギルが昔から知っているアンではなかった。

顔は青白く、やせ細ってしまったアンの顔にはもう・・・・・

笑顔は無かった・・・・


「アン・・・お前・・・」


もう、ギルの言葉も耳に入ってない様子のアン。

実はギルは、

アンの父から言われて様子を見に来たのだった。

父は薄々感づいていたらしく、

アンを心配してギルに様子を見るように頼んだのだった。


「アン!アン!!」ギルがアンの肩を掴み揺すった。


しかし、アンは何も反応せず、どこか遠くを見つめていた。

ギルはたまらなくなり部屋を飛び出した!

馬に飛び乗り向かった先は公爵家だった。


「ドンドンドン!!」


激しく扉を叩いた。


「夜分遅く申し訳ありません!ギルフォード バルギスです!!」


執事が扉を開くなり、ギルはすごい勢いで言った。


「公爵様はおられますか!お話が・・・・お話があるんです!!」


ギルは息を切らせながら言った。

執事もその様子に驚いて急いでエドワードを呼びに行った。

エドワードは静かにギルを出迎えた。


「どうされたのですか?ギル殿」


「公爵様・・・夜分遅くに申し訳ありません!アンが・・・アンが・・・」


ギルは今にも泣き出しそうだった。

その異様な様子を見たエドワードは驚きを隠せなかった。


「ギル殿!アンジェシカがどうかしたのですか!!」


ギルの肩を強く掴みエドワード言った。


「とにかく、アンの元へ来てください!」


ギルとエドワードは急いで馬に乗り走りだした。


「ヒヒィーン!」


馬の声と激しいひづめの音が暗闇を駆け抜ける。

ギルとエドワードはアンの屋敷に到着し、

慌しくアンの元へ急いだ。


「バン!!」


勢いよくアンの部屋の扉が開いた。

そこには、ギルとエドワードが息を切らして立っていた。

エドワードはアンの姿を見て驚き一瞬立ち止まった。


「アンジェシカ・・・・」


アンの変わり様にエドワードは慌ててアンに近づいた。


「アンジェシカ!一体どうしたんだ!!」


アンの肩を掴み必死に言うエドワード。

虚ろげな目でアンがエドワードを見た。


「あ・・・公爵様・・・」


その声は今にも消えてしまいそうな、か細い声だった。

騒々しさを聞きつけて、母も慌ててアンの部屋に入ってきた。


「まぁ!公爵様!!」


「出迎えもせず大変失礼いたしました」母が一礼をした。


エドワードはそんなカトリーナの元へ勢いよく駆け寄った。


「伯爵夫人!!これはどういうことですか!!」


少し怒鳴りつけるようにエドワードが言った。

さすがに母も慌てた様子で答えた。


「あ・・あ・・公爵様・・・アンのことでしたらご心配なく・・」


エドワードはその言葉に怒りを覚えた。


「ご心配なくとはどういうことですか!!

アンがこんなにも変わり果てているのに・・・

母親のあなたは何をなさっていたのですか!!」


いつも温厚で優しいエドワードが

こんなにも怒りを表したのは、これが最初で最後かもしれない。

母はうろたえた様子で口を紡ぐんだ。

そんなカトリーナの態度を見てエドワードは怒りをぶつけた。


「伯爵夫人!アンジェシカはこのまま私の屋敷へ連れて帰ります!

後日改めてお伺いしますので事の状況を説明して頂きましょう!」


そう言うとエドワードは、

虚ろげなアンを抱き上げ屋敷に連れて帰った。

カトリーナは何も言えず

エドワードが立ち去った後、ガックリと座り込んだ。

屋敷に戻ったエドワードはすぐに、

執事にアンの部屋を用意させ、優しくベットにアンを寝かせた。


「何があったんだ・・・アンジェシカ・・・君がこんな姿に・・・」


そう呟いてエドワードは部屋を後にした。


次の日、エドワードがアリスの部屋を訪れた。


「コンコン。アリス起きてるかい?」


「はい。お兄様」アリスの声が聞こえてたきた。


エドワードはゆっくりとアリスの部屋に入った。


「どうなさったの?お兄様」


エドワードのいつもと違う様子にアリスは問いかけた。


「アリス・・・アンジェシカのことで・・・・」


沈んだ兄を初めてみたアリスは驚いた。


「アンがどうかなさったのですか!」


アリスは立ち上がって言った。


「とにかく来てくれないか」


アリスは兄の後をついて、アンの部屋へ向かった。


「え?!アンがここにいるんですか?」


アリスは慌てて部屋に入った。


「アン!!」


アリスもアンの様子に驚いて駆け寄った。


「いったい・・・どうなさったの・・・」


アリスがアンの手を取り握り締めた。

アンはアリスの存在に気がつきアリスの手を握り返した。

エドワードはその様子を見て静かに部屋を出て行った。


「アリス・・・・私・・・私・・・」


そう言ってアンは泣き出した。


「アン・・・」


アリスはそっとアンの肩を抱き寄せた。


「少し外の空気を吸いにいきましょう」


アリスは優しくアンを立ち上がらせ部屋を出た。

季節はすっかり夏を迎え、暑い日ざしが二人に照りつけた。

池のほとりにあるテラスへ二人は行き、ゆっくりと座った。

外に出てアンは少し落ち着きを取り戻していた。


「いったい何があったの?」


物静かに、ゆっくりとアリスが問いかけた。

アンは暫く沈黙した後、うつむきながら語り始めた。


「私・・・本当にどうしたらいいのでしょ・・・」


「アン・・・まさか・・・」


アリスは何かを悟った。


「あなたの好きな人は、お兄様じゃないのね?」


アンは驚いてアリスを見た。


「やっぱり・・・そうなのね・・・」


アリスはアンの様子を見て確信した。


「そうだったの・・・だからこんなになるほど・・・」


アリスは悲しそうな瞳でアンを見つめた。

アリスが一呼吸置いてから話し始めた。


「私もね・・・あなたと同じなの」


遠くを見つめる漆黒の瞳は、とても切なさを物語っていた。


「私は産まれつき体が弱かったせいで

小さい時から親が婚約者を勝手に決めてしまったの。

私もこんな体のせいで、親や兄に色々迷惑をかけてきたから・・・

親の言うとおりにしてきたわそれに・・・・

階級や名誉が物を言う時代ですもの

自分の意思など、あってないようなものですわ

特に女には・・・・意見や意思など・・・

耳も傾けてもらえないわ。

だけど・・・・私にも好きな人ができたの」


アンはジッと、アリスを見つめて話を聞いた。


「私ね、この恋を諦めるつもりはないわ!」


アリスは少し強い口調で言った。


「確かに、親に反抗するなんてとんでもないことだけど・・・

だけど、好きでもない人と結婚して何が幸せなの?

もう階級や名誉や財産なんてうんざり!

どんなに階級が偉くても、財産をたくさん持ってても

そこに得られないものがたった一つあるわ!」


アリスの瞳は真っ直ぐと、力強くアンを見つめた。

その瞬間、アンの胸に衝撃が走った。


「アリス・・・」


アリスの強い気持ちにアンは感動さえ覚えた。


「アリスの好きな人はどなたなんですか?」


アンが問いかけた。


「フフ、あなたが一番良く知ってる人よ」


アリスがニッコリ笑って言った。


「え?」


アンは一瞬、考え込んだ。


「えぇっ!まさか・・・ギル?」


アンの口からとっさに出た言葉だった。

アリスは少し頬を赤く染めて言った。


「そうよ。助けてもらって以来ギルフォードさんが毎日のように来てくださってたの。

知らず知らずのうちに・・・・彼に惹かれていってる自分に気がついたわ」


アリスは幸せそうにギルの話をアンに聞かせた。


「アリスはその気持ちをギルに打ち明けたの?」


アンが問いかけた。

アリスは恥ずかしそうに言った。


「フフ、それがね・・・私が言う前にギルフォードさんに告白されたわ」


アンは驚いた。


「ギルから告白したんですか?」


何か信じられない顔でアリスを見つめた。


「あはは、どうなさったのアン。

ギルフォードさんはとても意思のお強いお方よ。

彼は階級など気にしないで告白してくれたわ。

私の方が階級など世間手を気にしていたのかもしれない・・・

でも彼は、すべてを受け止めてくれたわ」


アンはギルの意外な一面を知った。


「そうだったの・・・それでアリスはこれからどうするの?」


「今はまだ・・・・」


「父の容態が安定するのを待って打ち明けるつもりよ」


アリスは微笑んで答えた。

その顔には、迷いや悩みなど一切感じさせなかった。

階級や親や世間手に縛られない、

自由な意思をアンはアリスに見せ付けられた。

そんなアリスを見たアンは、またふさぎ込んだ。

やはり自分は何もかも捨てて、

自分の気持ちを貫く自信がなかった。

そんなアンを見てアリスが静かに語った。


「アン・・・人を好きになるって・・・

その意思を貫くことは・・・時には・・・残酷な事を・・・・

乗り越えていかなければならない時だってあるのよ

誰しもが皆、平等に傷つかないなんて無理なことなのよ」


アリスはアンを一生懸命励ました。


「アリス・・・ありがとう・・・」


アンは涙ぐんで言った。


「私からお兄様に式の延期を頼んであげるわ

その間に・・アン!自分で答えを見つけるのよ!

まずは・・・元気になって前のアンに戻らなくてわ」


アリスが満面の笑みで言った。

アンはアリスの言葉に勇気づけられた。


「わかったわ!アリス」


アンはコクリとうなずいて言った。

アリスがエドワードに話してくれたお陰で式は、

急きょ延期することになった。

どの道、今のアンの状態では結婚式など無理でもあった。

アンはそのままエドワードの屋敷に滞在することになった。

アリスは大喜びで、毎日アンの側を離れなかった。

アリスのお陰でアンは段々と元気を取り戻していった。



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