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第 2 章

第 2 章



昨日、18歳の誕生日を迎えたばかりのアンの肩に

重い目に見えない重圧が圧し掛かった。


母への親を思う気持ち


公爵様への立場や親を思う同じ気持ち


それとは正反対の自分の気持ち・・・・


アンには重過ぎるくらいの重圧が圧し掛かった。

そのまま重い夜が明けていった。


次の朝、アンは屋敷にもいれず母が目覚める前に屋敷を出た。

外はまだ朝もやがかかっていた。

朝もやに包まれながらアンは、ただ呆然と歩いていた。


その時!


「ドン!」


アンは誰かにぶつかってしまった。


「痛っ・・」


ぶつかった拍子にアンは転んで足首を挫いてしまった。


「ご・・ごめんなさい」


アンが痛い足首を押さえながら言った。

すると、とても低い声がアンの耳に入ってきた。


「大丈夫ですか?」


その声と同時にその声の主が姿を現した。

その男性は金髪のサラサラとした髪だった。

サラサラとした前髪から覗かせた瞳は、真っ青の青空のようなブルーの瞳だった。

その容姿からは似合わない程低い声だった。

その男性は、アンの怪我にすぐ気がつき、慌てた様子でいきなりアンを抱き上げた。


「あっ・・あの・・大丈夫です!自分で歩けます」


驚いたアンが顔を赤くしながら言った。


「いけません!女性に怪我をさせておいて

歩かせるなんてできません!私がお送りしますので道を教えてください」


その声は、アンの耳だけじゃなく心にまで響く低い声だった。

その声は何故か甘い甘美を漂わせる声でアンは言うことを聞かざるおえなくなった。


「私からぶつかっておきながら申し訳ありません」


アンはうつむいて言った。


「とんでもない。私こそもっと周りに注意して歩くべきでした」


アンはその声を聞くたびに何かに引き込まれるようだった。


「あの、失礼ですがお名前は?」


男性が問いかけた。


「あっごめんなさい。申し送れました。アンジェシカ レトワールと申します」


ちらりと見たアンの瞳に映ったのは

まるで青空を見てるいるかのような男性の瞳だった。

アンは思わずその瞳に吸い込まれるかの様に見つめた。


「私はカイン ライカスと申します」


その声に我を取り戻したアンは目を慌ててそらした。

そんなやり取りの中アンの屋敷に到着した。

アンとカインの姿を見た使用人が慌てて奥様に言いに行った。

驚いた母が屋敷から飛び出して来た。


「アン!どうしたの!!」


母が慌ててアンたちに駆け寄った。


「申し訳ありません!私の不注意で娘さんに怪我をさせてしまいました」


カインがアンを抱きかかえたまま言った。


「お母様、心配しないで、少し足を挫いてしまっただけですから」


母は少し落ち着きを取り戻した。

しかし、昨日の公爵様とのお話があったばかりなのに

他の男性に抱きかかえられて戻った娘に、少し腹立たしさを感じた。


「どこのどなたか存じませんが、わざわざ有難うございました」


少しトゲのある言い方で母は礼を言った。

アンを送り届けたカインは一礼をして去って行った。

そのトゲのある言い方にアンは呆れて何も言えなかった。

その後、医者に診てもらったアンは数日間だけベットで安静にするよう言われた。

ベットに横になってるアンの頭には、何故かカインのことしか浮かんでこなかった。

一昨日までのエドワードの事など嘘のように消えてしまっていた。


「あの人・・・」


アンの頭に浮かんだことは、カインのあの青空の様なブルーな瞳と心底にまで響く低い声。

そんなアンの元へ怪我をしたと聞きつけた公爵がお見舞いに来た。


「コンコン」


ドアをノックする音。

ノックの音に気がつかずアンは呆然と窓辺を見つめていた。

エドワードが静かにドアを開けた。

エドワードの目に映ったものは・・・・何かに心を奪われているアンの姿だった。


「アンジェシカ・・・」


一瞬エドワードは声をかけるのを躊躇した。


「アンジェシカ、足の具合はどうだい?」


しかし、エドワードは見舞いに来たのだからと思いアンに近づいた。

アンはエドワードが入ってきたことすら気づいておらず、驚いた顔で振り向いた。


「公爵様!あっ・・申し訳ありません」


アンは起き上がりながら言った。


「起きなくてもいいよ、寝たままでいい」


エドワードが優しく微笑みながら横に座った。


「えっ・・と、あ・・・」


アンは言葉に詰まった。

言葉に詰まるのも仕方がない。

今までエドワードのことなど忘れていたのだから・・・・・

エドワードの姿を見て一瞬で一昨日のことを思い出したのだった。


「執事から聞いて驚いたよ 大丈夫だったかい?」


エドワードは柔らかい口調でアンに話しかけた。


「わざわざお見舞いに来て頂いて大変申し訳ありません」


アンはうつむいて言った。


「何を言ってるんだい?まだ返事を貰っていないが・・・・

未来の奥さんになるかもしれない人のことだ

心配して来て当然じゃないですか」


ニッコリと微笑んで言われた。

その瞬間、アンの心が鋭いもので突き刺されたかの様に痛んだ。

しばらくアンは言葉が出なかった。

その様子を見てエドワードが優しく語りかけた。


「アンジェシカ・・今は何も考えないでゆっくり静養しなさい」


微笑を残してエドワードが立ち上がり

静かに部屋を去って行った。

そんなエドワードにアンは最後まで何も言えず

部屋を去る彼の姿を呆然と見つめるだけだった。


それから数日が過ぎた。

アンの心は日ごと苦しくなるだけであった。

アンの様子がおかしいのに気がついたのは父であった。

父はアンの元気が無いことを気にかけてギルを呼んだ。


「おじ様、どうされました?」


急いで馬を走らせてやって来た

ギルが部屋に飛び込んできた。


「おぉ、ギル。すまないな、ちょっとアンのことで・・・」


父が椅子から立ち上がりギルに近づいた。


「アンがどうかしたんですか?」


心配そうに伯爵の顔を見つめながら言った。


「実はな、最近アンの様子がおかしんだ

あんなに元気だけがとりえのアンが・・・全然元気が無いんだ・・・」


「えぇっ!?アンが元気ない?」


ギルも驚いた様子で言った。


「とにかくギル、アンの力になってやってくれ」


父がギルの手を取り言った。


「わかりました!アンの所へ行ってきます」


ギルは急いでアンの部屋へ走った。


「アン!アン!俺だ!!」


アンの部屋のドアを勢いよく開けた。

ギルの目に飛び込んだアンの姿は・・・・・少し痩せたように見えた。


「ア・・アン・・・どうしたんだ?」


とても心配そうな顔をしてアンに近づくギル。


「ん?大丈夫だよギル」


微笑んで答えるアンだったが幼馴染のギルには無理して微笑んでるのが判った。


「アン 長年幼馴染をやってる俺にまで作ろうのか?」


ギルがアンの肩に手を当てながら言った。

アンは何も言わずうつむいてしまった。

そんなアンを見ていられなくなったギルは思わず抱き寄せてしまった。


「アン・・・」


ギルはポツリと呟いて強く抱きしめた。

アンはギルの腕の中で何か安堵を感じて身を委ねた。


「ギルごめんね・・・心配かけちゃってるね・・・」


アンが静かにギルの胸の中で言った。


「何があったんだよ・・・何故、俺に何も相談してくれないんだ・・・」


ギルが少し寂しげに言った。

抱きしめた肩が小刻みに震えるのが伝わってきた。


「やっぱり少し痩せたな・・・」


そう言うとギルはアンを抱きかかえ外に飛び出した。

自分の馬にアンを乗せギルは何も言わず走りだした。


「ギル・・・どこへいくの?」


アンの問いかけに何も答えずギルは走り続けた。

緑広がる並木道をギルとアンを乗せた馬が駆けて行った。

もうすぐ夏を感じさせる南風が、アンの頬を優しく撫でていった。

アンの顔は少しづつ明るさを取り戻していった。

走り続けた馬は丘を登り緑広がる草原へ出た。

そこでやっと馬を止めギルはアンを下ろした。


「アン、ゆっくり深呼吸してごらん」


やっとギルが口を開いた。

アンは言われたまま深呼吸をした。

深呼吸をして吐き出した瞬間、何か重い気持ちが少し軽くなった気がした。


「はぁ〜〜何て気持ちが良いのかしら」


アンがやっといつもの笑顔で言った。

その笑顔を見てギルは安心した。


「良かったぁ〜!やっといつものアンの顔になったよ」


ギルもニッコリ笑顔で言った。


「もう季節は夏に近づいているのね・・・」


丘の遠くを見ながらアンが言った。


「そうだよ。アン最近屋敷に閉じこもってただろ」


まるで緑色のジュータンの様な草原に座りギルが言った。


「そうね・・あまり外に出ていなかったわね」


「ギルの顔も久しぶりに見る気がするわ」


アンもギルの横に座りながら言った。


「おい、アン 久しぶりって・・・」


「舞踏会以来、会っていなかったじゃないか」


少しふてた感じでギルが言った。


「あは、そうだったわね」


アンがちょっと困った顔をして言った。


「アン、無理には聞かないが何があったんだ?」


「俺にも言えない事なのか?」


ギルが心配そうにアンの顔を覗き込んで言った。


「ギル、本当にごめんね・・・

誰かに話して解決するような問題じゃなくて・・・」


アンはうつむいて言った。


「だけど、人に話すだけで楽になる時もあるじゃないか」


ギルが遠くを見つめて言った。


「・・・・・・・」


アンが少し沈黙した後


「そうね、でも結局答えは自分でしか決められないのよ」


アンも遠くを見つめて言った。

その瞳はとても切なそうに見えた。


「そっかぁ〜俺にも言えないかぁ〜」


ギルは寂しく感じたがアンを元気にしたい気持ちの方が強く


「アン!何も言わなくていい!もう俺も何も聞かない!」


「だけど、気晴らしくらいは俺を使えよ」


そんなギルの言葉がアンを支えた。


「ありがとう!何だか少し元気が出てきたわ」


アンが嬉しそうに立ち上がった。


「ねぇ、少しお散歩しましょ」


そう言ってアンとギルは緑広がる丘を散歩した。

その間はアンも悩み事を忘れていつものアンに戻った。

日も暮かかってきた頃、ギルとアンは帰ることにした。

丘を降りて、ゆっくりと並木道を通っていると・・・・・・

道の横に倒れてる人がいた。


「ギル!誰か倒れてるわ!」


慌てて二人が馬から降りて駆け寄った。

そこに倒れていたのは若い女性だった。


「ギル、私はこの先歩いて帰れるからこの人を早く病院へ連れて行って!」


「わかった!!」


ギルは急いで女性を馬に乗せ走りだした。

アンは心配そうにギルと女性を見送った。

ギルたちの姿が見えなくなってからアンはゆっくりと歩き出した。

並木道を抜ける頃、後ろからアンの心に響く声が聞こえてきた。


「アンジェシカ!」


その声にアンは胸が締め付けられる感じがした。

ゆっくりと声のする方に振り返るとそこには・・・

夕暮れの夕日が、サラサラとした金髪の髪を染め、

ブルーな瞳だけがキラキラと輝いていた。


「カ・・・カインさん」


少し言葉を詰まらせてアンが言った。

アンは胸の鼓動が早くなるのを感じた。


「アンジェシカ、足はもう大丈夫なのか?」


馬から降りてアンに近づくカイン。


「ええ・・もうすっかり良くなりました。

あの時は、本当にありがとうございました」


アンが軽く一礼をして言った。


「そうか、良かった」


ほっとした顔でアンを見つめるカイン。

アンはカインの顔を見ることができなかった。


「どうしたんだい?一人でこんなところを」


夕暮れ時に、一人で歩いているアンに不思議に思ったカインが言った。


「あっ、幼馴染と丘へ行ってきた帰りだったんですけど

途中道端に女性が倒れてて・・・」


アンは今までの経緯を話した。


「そうだったのか。なら私が送ってあげるよ」


そう言うと、カインはアンを軽く抱き上げ馬に乗せた。


「えっ・・・いいえ大丈夫です!一人で歩いて帰れますから」


アンが慌てて言った。

カインはアンの言葉を無視するかのように

アンの後ろに乗って、手綱を持ってゆっくりと馬を歩かせた。


「あ・・あの・・カインさん・・・」


アンは戸惑いながら胸の鼓動を必死に抑えようとした。

カインの温もりがアンに伝わると余計に鼓動が早くなった。

アンは段々と早くなる鼓動に耐えられなくなっていった。


「カインさん!あの・・・一人で帰れます」


耐え切れなくなったアンが少し声を大きくして言った。

すると、カインはクスっと笑って馬を止めた。

笑われたことにアンはとても恥ずかしくなり、顔を真っ赤に染めた。


「さて、困った姫君だな。こんなか弱い女性を

一人で帰らせたら紳士の名に傷がつくのだが」


カインは少しアンを困らせるような言い方で言った。

まるでアンの反応を楽しんでるかの様に・・・


「あっ・・そういうつもりじゃ・・・」


アンが戸惑い困った様子で答えた。


「あはははは!君は本当に素直な人だ」


カインが笑いながら言った。

アンは少しむっとした。


「カインさん!私の反応を楽しんでるのですか?」


「いやいや、君があまりに可愛らしい人だから

ついつい、いじめたくなるんですよ」


カインがさらりと言った。

アンは少し呆然とした。

アンの周りにはこんな男性はいなかったので驚いたのだった。

呆然としてるアンをほっとくかのようにカインはまた馬を歩かせ始めた。


「あっ!カインさん・・・」


アンは結局最後まで馬から降ろして貰えなかった。


「あははは、私が女性を一人で帰らせるわけないじゃないか」


カインはすっかりアンをからかうかの様に笑った。

そのお陰でアンの胸の鼓動が収まった。

でも、カインの声を耳にするたびに胸に響く何かがあった。

屋敷へ到着してやっと馬から降ろしてもらえたアン。


「有難うございました、カインさんには・・・

初めて出会った時からお世話になりっぱなしで・・・」


「いや、君に出会えて良かったよ」


さっきまでとは違う真剣な顔で言われた。

その瞬間、またアンの胸にドキンと鼓動が鳴った。

困惑した顔をするアンを見ながらカインが言った。


「アンジェシカ、また会ってくれるかな?」


真っ青のブルーの瞳がアンの瞳を捕らえるかの様に見つめた。


「え?あっ・・あ・・はい」


アンはその瞳に捕らえられたまま答えた。


「良かった。断られたらどうしよかと思ったよ」


カインはそっと微笑んだ。

もうアンは、その瞳と甘美な低い声に捕らえられていた。

次に会う約束をしてカインは去って行った。

その姿が消えてもアンは屋敷に入ることが出来なかった。

まるでカインが去った後も捕らえられてるかの様に・・・・



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