●エピローグ
◆◆
人類と友好生物“フレンド”の邂逅から200年。
人々は文明を再興し、宇宙へと飛び出した。
再び地球が攻撃された時、人類が絶滅しない為に播種は必要事業であり、またフレンドとの共生によって事実上人口が倍になった彼らには、もはや地球は狭かったのである。
月や火星にコロニーが作られ、採掘された資源を元に作られたいくつもの宇宙船が、果てしない宇宙へ飛び出していく。
勿論その過程で、再び敵対的な宇宙文明と遭遇する事も考えられる。
よって、武装は必須であり、人々は夢と希望、そして銃を手に、銀河の各地に飛び立っていった。
「ぶげぇ!?」
立花・フランソワ・茜の毎日は、腹部に叩き込まれる衝撃から始まる。
乙女らしからぬ悲鳴を上げて目を開くと、眼前にはモンスターの顔がドアップで映し出されている。ピンク色のもちもちした肌に、青い瞳、唇の無い口から除く鋭い牙、オデコを守る黒い甲殻。
至近距離から自分を覗き込む無邪気な笑顔に、茜は容赦なく腕を伸ばし、そのもちもちのほっぺを引っ張り倒した。
「さ・ふぁ・い・あ~~!! 体重で! 起こすなって! いってるでしょう!?」
『ミギュウウウウ!?』
柔らかい、それこそひっぱったらどこまでも伸びそうなもちもちほっぺだが、しかし引っ張られれば痛いらしい。手足をばたつかせて抵抗するほっぺをつかんだまま身を起こした茜は、さらに追撃を行って床に相棒を放り出した。
「たてたてよこよこまるかいてばちーん!!」
『みぎぎぎぃ!? へぶっ!』
文字通り床に叩きつけられてぺしゃんこに伸びる相棒。ややあって、彼は涙目で自分のほっぺを押さえながらよろよろと起き上がってきた。
『み、みぎぃ……(涙』
「まったく……もう大きくなったんだから、こっちの負担も考えてよね」
ぷんすかと怒る茜。
確かに昔は、お腹のうえに飛び乗ってくるサファイアを受けとめてきゃっきゃしていた時期もある。
だが今やサファイアは全長1m、体重28kg。そんなのが寝ている無防備な所に飛び乗ってきたら、流石にもう割と不味い。内臓破裂だってあり得る。にも関わらず、小さい頃のノリで飛び乗ってくるサファイアは、茜の悩みの種だった。
とりあえず目が覚めてしまっては仕方がない。手洗いに行き、顔を洗って戻ってくると、サファイアはまだ床で落ち込んでいた。
ぺちゃりと潰れて床に涙の水溜まりを作っている相棒に、茜ははあ、と額を押さえてため息をついた。
『みぃ~~~……』
「……ああもう。そんなに落ち込まない! ほら、さっさと母上様に挨拶いくよ!」
床に潰れているサファイアの両脇に手を入れて、ヨイショ、と抱え上げて抱き上げる。
抱きしめられたサファイアはきょとん、と涙で濡れた目を見開いていたが、やがてその頬が先ほどまでとは違う意味合いで赤く染まった。
『……みゅぅ! ミュウ、ミュウ!』
「ああはいはい、嬉しいのは分かったから顔をべたべたにしないで。ああもう」
顔をぺろぺろ嘗め回してくる相棒に、口では悪態をつきつつも嬉しそうな茜。
そのままサファイアを抱きかかえながら、部屋を出て宇宙船の廊下を歩く。
廊下には、彼女の他にも多くの人間が、相棒と共に行き来している。毛布みたいな子を丸めて抱えてる人がいれば、四足歩行の個体の背中にまたがって楽をしている人もいる。細い紐のような子を首に巻き付けてファッションみたいにしている人の横を通り過ぎて、茜は羨ましそうにその背中を見送った。
「……あれ、楽そうね。うちもああいうのがよかったな」
『ミギュッ!?』
「はいはい、ショック受けるぐらいなら腕から降りて自分で歩いて。地味に重いのよ、お前」
苦言を言われてしぶしぶ床に降りるサファイア。そのまま、シャカシャカと小刻みに足を動かして茜の後をついていく。
二人が向かったのは、ある意味この宇宙船で一番大事な場所だ。動力炉や食糧庫よりも、ずっとずっと、人々の心の中心にある場所。
半透明のドームに覆われた、展望室のような空間。
そこでは中央に白い樹のようなものが植えられて、周囲に無数の卵がケースにいれて飾られていた。
既に、何人かの船員が樹の前で膝をつき、祈りを捧げている。その後ろに並び、茜も片膝をついて両手を合わせる。この時ばかりは、サファイアも大人しくしていた。
「母上様、今日も航海の安全を、どうぞお願いします……」
目を閉じて強く祈ると、ふわり、と樹から優しい答えが返ってきたような気がして、茜は口元を小さく緩めた。
この樹は、地球にあるマザーツリーの枝を刺し木で育てたものだ。そして同時に、周囲に保管されている卵を実らせた樹でもある。
人類にとってマザーツリーは守護者そのものだ。かつての大戦争で環境を破壊され、ただの石ころになり果てようとしていた地球を救ったのがマザーツリーだという話は、事実として今に伝わっている。
今、自分達がこうしていられるのは、マザーツリーのおかげ。それを、人々は一時も忘れたことはない。
そして、フレンド。人類の隣人となった彼らは、マザーツリーに実る卵からのみ生まれてくる。常に人類と数を同じにしている彼らは、新しく生まれた人間の赤子を卵に引き合わせると呼応するように新しく生まれてくる。
そうして生まれてきたフレンドは、一生を人間と共にする。人と共に成長し、人と共に老い、そしてやがて、同じように眠りにつく。マザーツリーが地球に聳え、最初のフレンドとの遭遇以降、人類はずっとそうやって、彼らと共に生きてきた。
もはや人類とフレンドは運命共同体。お互い支え合うからこそ、この厳しい宇宙で生きていける。
祈りを終えて、茜は顔を上げた。
「さ、いくよ、サファイア。働かぬ者食うべからず。お仕事、お仕事」
『ミュ、ミュミュッ!』
呼び声に、気合を入れるようにサファイアが尻尾を高速で振動させる。その様子に微笑みつつ、えっさ、ほいさ、と駆け足で茜は自分の仕事場に向かい、その後を小さなフレンドが必死に追いかける。
それは、ある宇宙船の……人類の、ありふれた日常の光景だった。
◆◆
そして。
地球。
南アメリカ大陸、マザーツリーの樹上にて。
「…………ん、うぅ……」
銀色の葉が生い茂る繁みの中で、一人の少女が眠っていた。銀色の羽毛のようなものが布団のように被せられ、幸せそうにむにゃむにゃと呟いている。
その頬を、ぺろぺろと舐める生き物がいた。
全長2mぐらいの、銀色に輝く蜥蜴のような、鳥のような奇妙な生き物。肌には鱗も羽毛もなくつるつるで、腕は鳥のような翼になっているがよくみれば生えているのは羽毛ではなくヒダだ。目はなく、大きく裂けた口の中から青くて長い舌が伸びて、眠る少女を嘗め回している。
『ぴろろ、ぴろろ』
「ふわあああ……あー、うん。むにゃむにゃ……わかった、わかった……」
口をもごもごさせながら、しぶしぶ、といった体で少女は瞼を開いた。
内側から光っているような特徴的な青い瞳。少女は半身を起こすとふわああああ、と大あくびをして、背筋を伸ばした。
「うううーーーん……」
すこし柔軟をして、ずりおちた羽毛を抱えて、体を隠しながら立ち上がる。
少しふらついた彼女を、あぶない、と銀色の生き物が隣に立って羽で支えた。
そこで不意に、強い風が吹いた。少女の黒髪を靡かせながら、梢の葉が揺れて視界が露になる。
カーテンを開くように視界が晴れる。その先に広がる世界が、少女の眼に映った。
そこには、ただただ、平穏な世界が広がっていた。
空は青く、雲は白く。その中を、小鳥たちが囀りながら羽ばたいていく。
大地には緑の草原が広がり、生い茂った木々が、さわさわと風に囁きを零している。
その豊かな大自然の中を、何匹かの奇妙な生き物が、ごく当たり前のような顔をして駆け巡っている。その後ろを、小さな人間の子供が笑顔で追いかける。
追いついて、抱きしめて。そのままもつれ合って草原に転がる。
笑顔が、笑い声が、穏やかな中に響いた。
「ああ……」
それを見た少女の頬に、つぅ、と涙が伝った。
たどり着いた。
きっと、自分はここを目指して、傷つきながら歩き続けたのだと、少女はその答えを得る。
そんな彼女を労わるように、流れた涙を銀色の生き物が舌で舐めとり、優しく頭を摺り寄せた。
『ぴろ。ぴろろ』
「ああ。うん。そうだな」
「ただいま、子供たち」
◆◆
『TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い』 END
あとがき
はい、作者のSISです。
葛葉ママの未来も人類の苦難も宇宙人の暴虐もまだまだ終わる事はないのですが、書くべき事は書ききりましたので、本作はここでピリオドとさせていただきます。ハッピーエンドの後も世界は続いていく、そういう事です。
本格的に物書き復帰してから、全年齢長編作品ですとこれで異世界スピノ、骸骨王子、カードゲームみたいなやつに続き、これで完結のあとがき書いたのは四作品目。なかなか感慨深いですねぇ。
本作は経緯を知っている人の方が少ないとは思いますが、元々はハーメルンで開催されたあるイベントの為に書かれた作品でして。そのイベントはプロ、アマチュア問わず、匿名で作品をハーメルンに投稿して誰が一番受けるか競おうぜ、というものでした。
当初、私は二ヵ月かけて流行りを研究し、別作品を用意して臨んだのですが、悲しい事にそっちは全くの鳴かず飛ばず。どうして駄目なんだーと懊悩の果てにヤケになって書き始めたのが本作でした。
そしたらなんかUAがバリバリ伸びまして。勢いにまかせてうおおおおお、と続きを書きまくって、とうとう完結まで持ってきました。これも皆さんのおかげでございます。ちなみにイベントでは三位でした。
この通り本作が楽しくかけたのは皆さんの応援などあっての事です。ありがとうございました。
さて、本作の話に戻りますが、TSエイリアンのテーマはずばり親子愛です。もっとも人間にとって普遍的で、ありふれているが故に見落としがちな愛。やっぱり、血のつながりって特別なんですよね。しかし、血のつながりがなければそれは親子ではないのか、そういった特別な理由がなければ愛とよべないのか? そういった感じで、本作の企画はスタートしました。
種族も違う、なんなら実際には血もつながっていない間柄でも互いを思い合う事こそ、真実の愛ではないか。そんな感じのひねくれた真理を追究する心が、本作を生み出しました。楽しんでいただけたでしょうか?
こうしてあとがきを読んでいるのだから、きっと、最後まで楽しんでいただけたのだと、作者は信じます。
そして感謝を。
さて。
TSエイリアンも目出度く完結しましたが、私の創作者人生は終わる事はありません。また、次の作品でお会い出来たら、よろしくお願いします。
それでは。皆さまの明日に、幸運がありますように。
ちなみに。
あとちょっとだけ、続くんじゃよ。




