『なにこれグッロ! こういうのが流行りなの?』
アステリオスが確保した着陸場に、次々と箱型飛行機が着陸していく。分厚い装甲の鈍重そうな見た目とは裏腹に、馬鹿げたスラスターの推力で小鳥のように軽々と減速、姿勢制御をして着地する。
その機首ががぱっと開いて、中からどたどたと兵士達が降りてくる。パワードスーツのエイリアンたちに、強化スーツを装備した陸戦兵達だ。アメリカ軍肝煎りの精鋭達は、極東人類軍のそれと比較しても明らかに装甲部位の多い強そうなスーツを纏っている。ぶっちゃけ方向性が違うだけでエイリアンのそれと同じレベルの機械化装備、かっこいいなあ。私も装備してみたい。
そして最後に、周囲の飛行個体を殲滅した葵ちゃんがしゅたん、と降りてくる。スーパーヒーロー着地みたいなのを決めた彼女は、すぐさま立ち上がるとすたすたこちらに歩み寄ってきた。
「これで全部かしら」
「多分な。あとはあのハッチから内部に侵入しよう」
ちらりと見た先、内部に繋がる通路は分厚い扉で閉ざされている。エイリアン兵の一人が端末に触れるが、数秒たってから首を横に振った。
『どうやらシステムが書き換えられているようだな。しょうがない、機のターボレーザーで穴を開けよう』
「あ、それなら必要ないよ。アステリオス」
マスターに腕を振って下がらせて合図する。アステリオスが扉に向かって生体ワイヤーを打ちこむと、そのまま怪力にものを言わせてひっぱった。全身の筋肉がめきめきと膨らみ、両足の爪が足場に鋭くめり込む。
直後、ばがごん、と凄まじい音と共に扉がひしゃげて引っこ抜かれた。レールからもぎ取られた扉はそのまま外に投げ捨てられて、遥か下方へと不法投棄される。
まあ下には友軍いないから大丈夫でしょ。
「さ、いこうか」
『…………あ、ああ』
何やらマスターが戸惑ったように首を巡らせて、葵ちゃんと視線を合わせている。視線を向けられた彼女は、めんどくさそうに首を振って肩を竦めた。
え、何。
なんかおかしかった?
怪獣みたいなサイズのディスペアをブツ切りにするんだから、これぐらいは朝飯前でしょ?
おおげさだなー。
「それより、艦内マップは大丈夫なんだろうね? 流石に道が分かりません、じゃ話にならないからな」
『問題ない、艦の構造は把握している。一応監視対象だったからな、勝手な増築などは許可していない』
「ならいいんだけど」
なんせ半分ぐらい壊れているとはいえ全長12kmの超巨大船だからね。内部も相応に入り組んでいるだろうし、地図もなしにそんな所に入り込んだら迷路必須だ。
真っ暗な穴倉を覗き込んでいると、背後で荷物を降ろし終えた箱型飛行機が再び浮上し、空に戻っていくのが見えた。彼らも空中での戦闘に参加するつもりのようだ。
宙を見上げれば、航空部隊が必死こいて戦っているのが見える。ディスペアの戦力を集中させないのもそうだが、私達が万が一失敗した時に爆撃で片が付けられるよう、対空砲を破壊するのも彼らの任務だ。逆に言えば、任務が成功しない限り、彼らに生還の目途はない。私達がてこずって燃料切れになってもアウトだ。
仲間達を一人でも多く救う為には、短時間で事を終わらせる必要がある。
急ごう。
私達は一丸となって、船の内部に突入した。
「それで。何が問題ないって!?」
『それは本当に申し訳ない!!』
暗闇の中、猛烈なマズルフラッシュが闇を照らし出す。
それが照らし出すのは、捻じれた歪な機械の回廊……ではなく、赤黒いピンク色の肉塊に覆われた内臓のような場所。蠢く肉塊の間から、錆びつつある無数の機械が垣間見えている。
そして肉の回廊の奥から、途切れることなく陸戦個体の津波が押し寄せてくる。床だけでなく壁や天井までつかって縦横無尽に押し寄せるそれらを、弾幕でなんとか押し返す。
「I'm out of ammo. Cover me!(弾切れだ、リカバリー頼む!)」
『まかせろ!!』
海兵隊が後退してコンテナロボットから補給する間、エイリアン達が立ちはだかって時間を稼ぐ。何人かが囮も兼ねて前進し、レーザーソードみたいな武器で陸戦個体と白兵戦を演じる。
宇宙船の内部はまさに地獄だった。突入した私達の目の前に広がっていたのは、話に聞いていたのと全く違う、赤黒い肉の洞穴。唖然とする暇もなく、押し寄せてくる敵戦力と交戦が始まって、今に至る。
ついでにいうと、道も全然違った。どうも墜落のショックで内部構造が崩壊したのを、増殖したこれらの肉塊が繋いでいるらしくて、太い血管みたいな通り道を通るしかない。それはつまり、どこに繋がってるかなんてわからんという事だ。
ええい、役立たずどもが(二度目)!!
「親がきたわ、葛葉ちゃん、アステリオス、お願い!」
「ええいまたか!」
押し寄せる陸戦個体の群れの後ろから、どすどすと重い足音を響かせて一際巨大な個体が現れる。女王蟻と蜥蜴を足して2で割ったような見た目のそいつは、腹部が異様なまでに膨らんでおり、そこから次々と陸戦個体を産み落としている。産卵、というよりは、卵胞ユニットを抱えた補給ユニットといった方が正しいだろうか。この個体が産卵しているのではなく、別途で用意された卵塊を抱えている、という意味ではタツノオトシゴやコオイムシみたいなもんだろう。
これがほんとに産卵個体……事の元凶だったら手心もかけるのだが、残念ながら、そういう訳でこいつには自我らしきものは存在しない。
よって躊躇ったり期待する必要も無し。
姿を確認するや否や、アステリオスが前進、陸戦個体を吹き飛ばしながら突撃して補給個体を粉砕する。
これでこの場でいきなり数百体増える、というのは阻止できたが、どっちにしろたくさんいる。おまけにちょっと目を離すと死肉を食らって大増殖しようとするから、漫然と撃ち殺す訳にもいかない。一応、葵ちゃんが機動力活かして片っ端から膨らんでる奴を撃ち殺して阻止してくれているけど。
「ああ、くそ、キリがない! いっそ私の脳波動で……」
『だからそれはやめろと言っているだろう。この状況、君の力は温存しておくに越したことはない。大体、超空間ゲートを開くのに相当消耗したはずだ。短気はよせ』
「はいはい、わかってますよ」
マスターの正論に口を尖らせる。そりゃあ、言ってる事はただしいけどさー。そもそもあんたらが役に立たなかったからこういう事になってるの、わかってる?
私のジト目に、マスターは小さく頷くと部下に目を向けた。
『そういう目でみるな、名誉挽回は試みている。……どうだ、解析はできたか?』
上司の問いかけに、エイリアンの一人が頷きながら何かの機器を操作している。直後、彼らの動きが明らかに変わった。
防衛、停滞から、侵攻へ。火力を集中させて突破口を形成する。
『内部構造のスキャニングが終わった。崩壊した構造もある程度把握できた、目標地点の中央システムの間まで一気に突撃する。遅れずについてきてくれ!』
「へいへい。アステリオス、いくよー!」
『クルルル!』
補給個体を叩き潰した後も陸戦個体をちぎっては投げちぎっては投げ、していた我が子を呼び戻す。その肩に抱え上げられ、私はエイリアン兵達と共に最奥へと向かった。
ただしその道は平たんではない。当然ながら墜落で地面に船がぶっ刺さっているので、本来まっすぐな廊下は垂直落下と同じだ。幸いにしてバキバキに崩壊していて内部構造は螺旋階段のようになっているので、翼がなくてもなんとかなる。
まあその奥から、溢れ出すように向かってくる陸戦個体には辟易とさせられるが。
が、そこで大活躍するのが葵ちゃんだ。単独で飛行可能な彼女にとって、この状況は苦にならない。両手にかかえたでっかいガトリングを振り回して、部隊に先行して敵を駆逐する。流石というか、この閉鎖空間でガトリング砲の弾幕密度は極悪すぎてちょっと笑う。秒でミンチ肉の塊が築き上げられ、それを踏み砕いて皆で進んでいく。
とはいえ、いくらなんでも敵の数が多すぎる。圧力を減じる為に、分岐路などでエイリアン数名と兵士数十人が足止めに残る。それによって、突入部隊の数もどんどん減っている。無駄に人数が多くても火力投射しきれないから無駄ではあるのだが、最奥に進むにつれて数が減っていくとどうしても頼りない。
そんな私を案じてか、元気よくディスペアを屠りまくるアステリオスが、肩に載せた私に頬を寄せてくる。ぺろぺろと嘗め回してくるその無邪気な瞳に、知らず不安に塗れていた心が癒された。
まあでももうちょっとの頑張りだ。
どこまでも続くかのように見えた道にも、終わりが見えてくる。
『よし、この先を右だ。本来エレベーターホールになっているが、今の状況なら真っすぐ走れる』
「おぅし!」
『だが、悪い知らせだ。これまでの十倍以上の敵が、ここに押し寄せてきている。……まずいぞ』
空間に映像を投影しながら、マスターが険しい声を上げる。
こいつが感情を出すときは本当にヤバイ、ってのは短い付き合いでもわかってきた。事実、表示された映像には、軍隊蟻の群れかってぐらいの敵反応が、一心不乱にこちらを目指しているのが分かる。
残してきた足止め部隊も、数を減らしながら後退、こちらに向かっているようだ。合流して食い止めるつもりのようだが、いくらなんでも敵の数が多すぎる。
こいつは不味いぞ。
『已むを得んな。我々が残って侵攻を阻止する。幸い、エレベーターホール前は籠城に適した地形だ。ある程度の時間は稼げるだろう』
「No. Leave this to me.(いや。それはわれわれに任せてもらおう)」
会話に、海兵隊の部隊長が割って入ってくる。思わず、私とマスターは同時に彼の顔を見返した。
『正気か? ……死ぬぞ?』
「I never intended to return alive. And while it pains me to admit it, you are stronger than I. A formidable foe awaits ahead—so you must be the ones to advance.(もとより死ぬつもりでここにきているのでな。それに、腹立たしいが戦力としては貴様らの方が上質だ。この先に待つディスペア本体の事を考えれば、ここで進むべきは貴様らだ)」
『……わかった』
問答する時間も惜しい。
冷徹に数字だけを検討し、マスターは淡々と頷くと、即座に奥へと向かった。その後に、彼の部下達が続く。
ただ私と葵ちゃんはそうもいかない。それでも、葵ちゃんは歴戦の兵士らしくすぐに割り切ったようで、すぐさま兵士達とすれ違って奥へ向かう。
「……武運を祈ります」
「Stay strong, warrior maiden. If you get too powerful, you won't be able to get married.(戦乙女もな。あまり強すぎると嫁の貰い手が無くなるぞ)」
「セクハラで訴えますよ??」
互いに軽口をかわし、笑顔で分かれる二人。
だけど、私は……。
口ごもる私を抱えたまま、アステリオスが足早に兵士を横切る。肩の上で振り返ると、残った兵士達が、皆、敬礼でこちらを見送っていた。
「All hands, salute our little comrades!(総員、小さき同胞に、敬礼!)」
「……兵士さん! お願い、死なないでね!」
無理とわかりつつ、私に言えるのはそれが精いっぱい。周囲から、凄まじい数の敵が押し寄せてきているのを感じ取りつつも、私は脳波動を使いたい気持ちを必死に抑えた。
この先に、ディスペア本体が待ち受けている。
超空間ゲートを開くほどの力をもった、何かが。それを相手する上で、私の脳波動は欠かせない。
マスターの言う通り、超空間ゲートのハッキングで私もかなりの力を消耗している。これ以上、力を使う訳にはいかない。
味方を見殺しにする罪悪感を噛み殺して、私はただ只管、前を向いた。
全長100mほどのエレベーターの通り道。その先に、ディスペアの源が、私達を待ち受けている。
「いくよ、アステリオス!」
『クルルルゥ!!』




