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TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い  作者: SIS
愛しき母に穏やかな午睡を

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『なんかわちゃわちゃしてるなあ!』



 なんか、大変な事になってんな。


 現場を見た私の第一印象がこれである。


 飛行船の墜落を隠れ蓑に、ここまで宇宙人ボコったんだからしばらくは出てこないだろ、としばしの休暇を決め込むつもりだったのだが、なんだか空模様がよろしくないので出てきたら案の定である。


 なんか海やら空やら、うちの子の親戚みたいなのが溢れかえってるし、どこからかとんでもなく強くて憎悪に満ちた脳波動が届いてくるし、なんかもう無茶苦茶である。


 いつからこの星は黙示録タイムに入ったのか。いや大分前からか。


「にしても、うーん。なんだこれ。凄い事になってんな」


『キュルルルゥ』


 私の嘆きに、我が子……アステリオスも同意してくれる。


 せっかく復興した岩国基地は今や再び廃墟へと戻ってしまっていた。建物は崩れ、滑走路は崩壊し、なんかガルドみたいなのがいっぱい生えてきている。そしてそれらが吐き出した小さな子供たちが人類軍を襲っている。


 ……なんていうか、一目見て、これは駄目だ、って分かった。あの子達の目には深い絶望と憎悪が燃えているが、それは薄っぺらで空虚だ。生まれたばかりの空っぽの魂に、どこかの誰かの凄まじいソレが注ぎ込まれて、その色と形に染まってしまったのだ。芽生える筈だった情緒も感情も、憎悪一色に塗りつぶされて影も形もない。


 あれらは、生きているとはいえない。暖かいだけの肉の人形だ。


 可哀そうに。もう、殺してあげる以外に彼らを救う方法はない。


 そして、今アステリオスが引き倒しているでっかいやつ。


 プルートゥ達に似た形の、竜人型装甲獣。こいつは小さいのと違い、何かしらの自我を持っているが……それもまた、憎悪と怒りに染まりきっている。この世の全てを拒絶し、排斥しようとする、ただそれだけの存在。憎しみだけを学習してしまった少年兵がそのまま大人になってしまって、悲劇を再生産するのに似ているかもしれない。


 凝り固まってしまった心は、もう本来の純粋さを取り戻す事は出来ない。考えを変えるには、心の余裕と、何より勉強が必要だ。


 この子達には、その余裕も、何よりもその意思がない。幸せになろうとする意志がない者達に幸福を教える事は、神様にだって出来はしないだろう。


 そして私は、神様なんかではないのだ。


「……アステリオス。ごめん、付き合って」


『クルルルゥ……』


 私の嘆きに、我が子は甘えるように唸って答えてくれた。


 ごめんね。悪い親で。


『ギルルルッ!』


『ギェエッ!』


 眼下では、集まってきた小さな子供たちが、唾を散らしてこちらを威嚇している。


 本当ならば、この子達を抱きしめてあげたい。返ってくるのが牙と爪だとしても、本当はそうしてあげたかった。


 だけどそれは自己満足だ。


 残される者の気持ちを考えれば、安易な自己欺瞞に逃げる事はできない。私は涙を呑んで、彼らを眠らせてやる事にした。


「……ごめんね」


 脳波動を放出し、彼らの心を掴んでいる憎悪を上書きする。コントロールから解放された小さな子達、そしてガルドに似た子も、糸の切れた人形のようにバタバタとその場に倒れ込んだ。心も、魂も、何もかもが空っぽの抜け殻が、青黒い炎で燃え上がる。


「葛葉ちゃん!」


 送り火の炎を見送っていると、向こうから聞き覚えのある声が聞こえてきた。そちらに向くと、葵ちゃんが私の方に千切れんばかりに手を振っているのが見て取れた。隣にいるのは柏木さんと……うげ。見たくなかった顔がある。13年ぶりか?


 想像以上によくわからん事になってるようだ。さっきも、連中がまるで人類軍を守るように動いていたのを見たし。


 まあいい。


 話は後でゆっくり聞かせてもらうとして、まずはこっちの相手が先だ。


 炎の海に目を戻すと、その中から身を起こす一体の怪物。葵ちゃん達を殺そうとした大鎌の個体。


 やはり、確固たる自我を持った個体には、私の救済はとどかない、か。


『ギ、ギィ……!』


『キルルル……』


 でかいのとアステリオス、似通った姿の二匹が会話するように鳴き声を交差させる。私達には彼らの言葉はわからないが、それでもあの大きな子供が、見得ぬ涙を流して訴えているのは、痛いほど伝わった。


 でも、ごめん。


 私は君の絶望に寄り添ってあげる事は、できない。


『ギィィイイアアア!!』


 絶叫と共にでかいのが襲い掛かってくる。


 私を肩に乗せたまま、アステリオスは静かに重心を落とし、迎え撃つ構えを取った。


 ……体格は互角。見た目だけで見れば、勝負は一見、わからない。


 この子が。相手が、アステリオスでなければ。


『ギィイイ! ギィアア! ギュアアッ!』


『……シッ!』


 盾型の腕で身を守りながら突撃してくるでかいやつ。身を守りながら、鎌の利点を生かしてその陰から責め立ててくるが……それはアステリオスに掠りもしない。軽くスウェーするだけで二度、三度と攻撃を回避され、苛立ったように大振りの一撃を繰り出す。


 もちろんそれは囮の一撃。屈んで横なぎの一撃を回避したアステリオスへ、副腕が爪を立てて組み付いてくる。


 だがそれは、アステリオスが軽く腕を振っただけで、根本から千切れて吹き飛んだ。バラバラと千切れた指と腕の破片が、周囲に飛び散る。


『ギ、ギィイイ! グギィイイイ!』


 衝撃に数歩、たたらを踏むように後退した巨体が、意を決したように身を屈める。全体重を乗せた突進、そしてその勢いを乗せた全力の一撃。


 回避など許さない、カウンターならば相打ちに。全身全霊を込めた、でかいやつの一撃をアステリオスは正面から迎え撃った。


『ギィィイイイーーーッ!!』


 振り下ろされる大鎌の一撃。


 だけどそれは。


 アステリオスの掲げた左手に、ひどく軽い音と共に受け止められた。


 ぶわ、と吹き荒れた風が、私の髪をかすかに乱した。それだけ。


『…………ギ?』


 唖然としたように目を見開くでかいの。……落ち着いて観察してみれば、アステリオスの腕の表面を、青白い輝きがうっすらと包み込んでいるのが分かっただろう。かつてオリジナルが見せたのと同じ、物理干渉可能なまでに高まった脳波動による防壁。それによって、岩盤をも砕く一撃は防がれ、そこに込められた力はアステリオスに伝わる事なく霧散した。


 代わりに、アステリオスの右の籠手が相手の胸元に押し付けられる。


『クルルル』


 撃発。


 鞭を打ち出した時と同じ原理で、ただし今度は硬質化した骨のスパイクが打ちこまれた。骨芯が爆発のように胸を打ち砕き、でかいやつの背中から鋭い切っ先を突き出させる。


 ごぼり、と青黒い血を吐くでかいやつ。


 ……完全な致命傷。いくらこの子達でも、助からない。


 ぐらり、とその巨体が傾ぐ。完全に力を失ったその体を、アステリオスが優しく受け止めてくれた。私はアステリオスの腕に移り、死にゆく子供の頭を、そっと抱き留めた。


「……おやすみなさい。可愛そうな子」


『ギ、ギギ……ィ……』


 その瞳が、ゆっくりと閉ざされる。


 生命活動の完全な停止を見届けて、アステリオスはゆっくりとその体を地面に横たえてやった。


『クルルルル……』


 自分と似た姿の同胞に、何か思う所があるのだろう。我が子の横顔は、いつになく悲しそうだった。


 その頬を優しく撫でてやり、その首に抱き着く。我が子が優しい手つきで、私にそっと触れた。


 ……止めなければならない。こんな事。


 どうしてこの子達が暴走しているのかは分からないが、もう彼らは明らかに正常ではない。自分で止まれないのなら、私がとめなければ。


 それが、彼らを肉親だと思っている、私の責務だ。


「……その為にも話を聞こう、アステリオス。恐らく、彼らが真相を知っている」


『ギルルルゥ』


 返ってきたのは明らかに不本意そうな歯ぎしりで、私は思わず苦笑する。気持ちは分かる。私だって本当は顔も見たくないが、まあもう仕方ないじゃない?


 一転して不機嫌そうにその場に座り込んだ我が子を必死にあやしながら、私は周囲を見渡した。青黒い炎はすっかり消えており、焼け焦げた滑走路をこちらにむかって歩いてくる葵ちゃんと柏木さん……そしてその後方についてくる、茶色いパワードスーツの姿が見える。


 さて。


 しょーもない話だったら容赦せんからな、宇宙人め。





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