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TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い  作者: SIS
愛しき母に穏やかな午睡を

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『流血の惑星』



 2036年11月16日。


 現地時間14時23分。




「……ん?」


 その日、その時、歩哨に出ていた一人の兵士が、違和感に空を見上げた。


 最前線から少し離れた競合地域の偵察。数か月前までは、無数の殺人ロボットや奴隷兵、センチネル兵士がうろついていたものだが、ここ最近は比較的静かだ。


 だからといっても安全ではないのだが、南米人類軍は総司令部から距離を置いて久しく、それ故規律や士気の劣化も著しい。昨日が大丈夫だから今日も大丈夫だろう、そんな低い志で偵察兵達はまばらに散開し、形だけの偵察を行っていた。


「なんだ……?」


 赤茶色い肌をもった兵士は、妙な違和感に空を見つめる。


 何が気になるのか。しばし空を見つめて、兵士は明らかな違和感に目を見開いた。どうして、今まで気が付かなかったのか。


「た、太陽が……」


 太陽が、二つある。


 煌々と輝く天球と、もう一つ、赤く燃える炎の球。


 ややあって燃え盛るそれが、地上に落ちてきているのだという事を彼は理解した。見ている前でどんどん地上に近づいてきているそれが、やがて太陽などではないという事に彼は気が付く。


 それは、何かしらの人工物であった。


 途方もなく巨大な直方体。宗教的な構造物がびっしりと林立する、空飛ぶ巨大寺院、あるいは神殿都市。もしくは万里の長城そのものが宙から落ちてきているという事実に、兵士はその場で尻もちをついた。


「な、な、なん……?!」


 ……侵略者どものマザーシップについて、人類は多くは知らない。そのようなものが存在する、というのは戦争初期に確認されていたが、当然詳しい事は機密事項であり、末端の兵士にまでは知らされていない。よって、目の前で地上に落ちてきている途方もなく巨大な構造物が侵略者達の星船だと、理解するだけの知識も教養もその兵士にはなかった。


 故に、次に起きる事が何かも、彼にはわからなかった。


 山の向こうに、赤く燃える船が堕ちる。


 実際の所、墜落していても宇宙人のテクノロジーは最低限の仕事をしていて、その落下速度は普通に落下した時の数分の一であった。他にも墜落の瞬間に重力制御に加え一瞬だけ最後の力でシールドを展開、その衝撃は数百分の一にまで抑え込まていた。


 だが、全長12kmを越える巨大宇宙船の墜落は、本来であれば地球という惑星にトドメを刺しうる災事である。墜落した衝撃で、世界が一瞬白く染まり……山の向こうで、途方もなく巨大な爆発が起きた、そのようにしか見えないキノコ雲が上がった。聳える山々が、衝撃で形が崩れていく。


 茫然としてそれを見守る兵士。たっぷり何分もたってから、はっと彼は我に返り、通信を繋ごうと無線機に手を付けた。


「ほ、本部! こちら偵察班、今、とんでもないことが……」


 早口でまくし立てる兵士。だが、肝心の要項を伝える前に、彼は見た。


 遥か彼方から、吹きすさぶ衝撃波。空に白い輪を広げるそれが、自分の元に到達しようとしている事に。


 それを理解した時にはすでに遅く。


 核弾頭の爆発、それに匹敵するソニックウェーブが、兵士を飲み込み一瞬にしてこの世界から彼の痕跡を消し去った。




◆◆




 同日。


 現地時間14時30分。


 前線基地からの連絡途絶。






 おなじく同日。


 現地時間16時14分。


 南米人類軍本部、救援部隊を派遣。前線の再構築に着手する。






 2036年11月17日。


 現地時間8時23分。


 敵支配領域への偵察を行った部隊が宇宙人からの攻撃を受ける。巨大質量落下があっても、敵戦力は健在と判明。南米人類軍本部、前線の後退を決意。戦線を20キロ後退して再構築。


 敵部隊からの追撃は確認されず。




 2036年11月19日。


 現地時間2時11分。


 人類軍総司令部、無人ドローンを用いて敵支配領域への強行偵察を敢行。これまで敵領域への強行偵察は全て撃墜されてきたが、今回に限っては30分以上の偵察に成功する。映像の解析結果、敵支配領域における侵略者の拠点の損害は最低限であった模様。しかしながら、巨大質量の落着地点を中心にした半径100キロの範囲において、非常に活発な活動が観測された。


 情報解析の結果、侵略者軍は広域にわたって、何者かと激しい交戦状態にあると推測された。また、ドローンを最終的に撃墜したのは、これまで観測された事のない攻撃方法であったと断定。


 状況は不明。さらなる情報を求む。




 2036年11月23日。


 現地時間13時25分。


 南米人類軍本部主導による、前線の再前進が行われる。前線の前進は今回、40キロにも達し、後退前よりも最前線は大幅に更新された。なお、この作戦において、敵軍の反応は見受けられず。南米人類軍本部、人類軍総司令部にコンタクトを取り、無人ドローンによる偵察を提案。人類軍総司令部、これを即座に快諾。




 2036年11月25日。


 現地時間1時22分。


 人類軍総司令部、再び無人ドローンを用いて敵支配領域への強行偵察を実施。此度の偵察時間は、前回より大幅に縮んで12分で終了した。敵支配領域全域において、侵略者軍の極端な鎮静化を確認。交戦反応や活動反応は一切見受けられず。


 撃墜直前の映像に、何か飛翔する怪生物らしきものが確認される。






 2036年11月27日。


 現地時間8時34分。


 南米人類軍本部。特別隊を編成し、敵支配領域への偵察を試みる。




◆◆




 彼らは、南米人類軍の中から選りすぐられた精鋭達だった。


 皆、5年以上の戦歴を持つベテラン。これまで宇宙人どもの悪逆非道を耐え抜き、混乱の中でも生き抜いてきた、文字通りの地獄を見てきた兵士達。


 その彼らを以てしても、今回の状況は異常の一言にすぎた。


「……何が起きているんだ」


 草むらに身を隠しながら、目前に迫る宇宙人達の基地を前に兵士の一人が呟く。


 彼らは、南米人類軍本部が状況把握のために差し向けた偵察部隊である。敵地への侵入という事で、全滅もありうる過酷な任務。しかし、彼らはその任務を拝命し、最前線から遥か先……“アポカリプスエリア”と呼ばれている、巨大質量落着地点から半径100キロメートル内へと突入した。


 目の前にあるのは、そのエリアに存在する宇宙人達の大型拠点。南米における最大拠点の一つと目されており、これまで攻撃はおろか、砲火を届かせる事も出来なかった基地である。


 にもかかわらず、彼らは一切の抵抗も、攻撃も受ける事なくここまでたどり着いてしまった。


 順調、というには、余りにも異常だった。


「いくらなんでも静かすぎる」


 薄気味悪そうに別の兵士が応じる。


「もともと生活感の無い連中だったが。見張りの一人も立っていないってのは異常だぜ」


 これまで兵士として戦ってきた中で、覚えのない静寂だ。


 少なくとも宇宙人どもは無能ではない。これだけ基地に接近すれば、常に外周を警備している奴隷兵の足音、巡回する殺人ドローンの作動音、そして基地内部から響く機械音などで、騒がしいとはいかなくとも、物々しい物音に満ちているはずだった。


 それが、今は何の音もしない。工場設備も完全に停止しているらしく、耳に痛いような静寂が広がっている。


 兵士達は顔を見合わせて、草むらから進み出た。そのまま、監視装置を避けながら基地の外壁に取り付く。


「……何の反応もないな」


「俺達の隠形が完ぺきだったから……って訳でもないか」


 軽口を叩き合いながら、慎重に基地内部に侵入する。防壁の上に素早くよじ登り、降下。敵基地内に侵入する。


 南米においては火力制圧されていない基地に単身侵入に成功したのは俺達が初だろうな、そんな事を考えながら周囲を警戒する。


 ……敵が出てくる様子はない。


 困惑に兵士はむしろ恐怖すら覚え始めていた。


「おいおい、どうなってんだよ」


「ひとっこ一人いない……? 奴隷兵も、殺人ドローンもか」


「お、おい、こっちきてくれ!」


 不意に仲間の一人が呼び声を上げ、弾かれたように兵士達が集まった。


「どうした?」


「これを……」


 そう言って兵士が指さしたのは、地上に転がる何かしらの機械の残骸。


 原型をとどめていないが、間違いない。連中の用いる戦闘用ドローンの一種である。戦争開始直後から投入されていたそれは、連中にしては珍しく脳細胞の制御を行っていない純粋な機械でもあった。


 それが、ばらばらになって転がっている。


 しゃがみこんで状態を確認した兵士は、その見た事のない破壊痕に顔をしかめた。


「なんだこれ。凄い圧力で潰されたみたいな……」


「これ……なんか獣の噛み跡っぽいけど……」


 ぐしゃぐしゃに潰された部分にグローブで触れると、ねとりとした粘液のような物が糸を引いた。うわ、ばっちい、と振り払う。


「涎かよ」


「……わからんな。たまたま野生動物が、転がっていた残骸を齧っただけかもしれん。もう少し調べよう」


 兵士は互いに頷いて、基地の調査を開始する。


 曲がり角や建物の陰、銃をつきつけて調査して回るが、異常はどこにも感じられない。


 やがて、彼らは基地の中央設備らしき場所に辿り着いた。これまでに、敵との遭遇は一度もない。


「……入るか?」


「ここまで来て何もありませんでした、ではすまんだろう」


 趣味の悪い神殿のような建物に慎重に踏み入る。鍵はかかっておらず、一行が近づくと自動的に扉が開いた。


 暗がりの中を、警戒しながら進む。建物内部には非常灯のようなものが明滅するばかりで、照明は全て割られていた。


「……ん?」


 と、その中で一人の兵士が違和感に気が付き、マグライトで床を照らした。


 そこには……。


「血痕?」


「何かを引きずったような跡があるな……」


 床にべったりと残る、青いペンキのような染み。それが宇宙人の体液であるという事はしらべずとも分かった。


 血の跡は蛇行しながら続き、ある部屋へと向かっていた。入口の扉は、半開きになっている。


 兵士達が息を飲んだ。


 念のため、複数人をバックアップに残し、3人が慎重に扉の周りに集まる。顔を見合わせタイミングを計り、一斉に踏み込んだ。


 果たして、そこに広がっていたのは。


「……?!」


 最初、兵士はそれを、赤と黒の斑模様の塊だと思った。部屋いっぱいに、何かが密集して団子になっている。


 よく見るとそれは、赤い肌と黒い甲殻を持った、何かの生き物の背中で。侵入してきた兵士達に気が付いたように、ざわざわと動き始める。


 銃を向けたまま硬直する兵士達に、怪物達が振り返る。恐竜を思わせる、厳めしい顔。黄色い瞳がぎょろり、と兵士をねめつけ。その手には、半ばからちぎられたセンチネル兵士の腕が握られている。鋭い牙が、まるでチキンナゲットを齧る様に、肉をぶちぶちと食い千切る。


 それが、いくつも。


 いくつもいくつもいくつもいくつもいくつもいくつもいくつも……。


 何十、何百という数えきれないほどの瞳が、底知れぬ飢えが、兵士達を睥睨した。






「う、うわあああああああああああああああああああああ!!!」






 静寂に満ちた基地の中に、銃声が木霊する。


 だがそれは30秒も経たずに途絶え、しかし静寂は戻る事はなかった。まるでこれまでの眠りから目覚めたかのように、基地からざわざわと無数の足音が外へと這い出す。噴き出した赤と黒の濁流は、忽ち周囲を埋め尽くし広がっていった。


 それは、この基地だけではない。


 アポカリプスエリアと呼ばれた範囲全て。そこに存在していた全ての、かつて宇宙人の基地だった場所から。まるで蟻の巣をひっくりかえしたように、侵攻を開始する無数の異星獣。その様は、宇宙からでも見えるほどだったという。




 2036年12月1日。


 現地時間11時44分。


 南米人類軍本部の反応……完全に途絶。




 2036年12月1日。


 現地時間21時32分。


 北米人類軍から、未知の怪生物との交戦報告。怪物の個体数は測定不能。また、報告によれば怪生物は人類軍、侵略者軍の双方に攻撃を仕掛けているもよう。




 2036年12月3日。


 現地時間19時34分。


 アフリカ方面軍、中東方面軍からも怪生物との交戦報告。




 2036年12月4日。


 現地時間3時56分。


 ヨーロッパ方面軍からも怪生物との交戦報告。こちらでもやはり、侵略者軍にも怪生物が攻撃を仕掛けている様子を確認。




 2036年12月6日。


 現地時間11時23分。


 オーストラリア方面軍、未知の怪生物との交戦を開始。




 同日。


 現地時間11時32分。


 南極基地より、怪生物の発見報告。以降、南極基地からの通信は完全に途絶。






 怪生物の出現、侵攻開始より168時間が経過。


 アフリカ、中東方面軍の反応、完全に途絶。


 オーストラリア方面軍、全戦力の2割を喪失。


 ヨーロッパ方面軍、全戦力の2割を喪失。またイギリス防衛部隊、全戦力の3割を喪失、失陥地域はイギリス全土の30%を超過するも、絶対防衛線は厳守。


 旧中国・ロシア領内にも、多数の怪生物の侵攻を確認。


 北米人類軍、戦力の1割を喪失。備蓄弾薬の20%を消費。


 尚。現存する侵略軍の拠点はおよそ7割が失陥した模様。侵略者軍、人類軍よりも怪生物に対する攻撃を強化するも劣勢にあるとみられる。




 怪生物群。


 総数、未だに測定不能。人類軍、侵略者軍双方からの攻撃を受けながらも、その数はいまだに増大し続けていると考えられる……。





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