『誰が生んでくれと頼んだ。私達が何を望んだ』
『まさか、ヴィシガーナーの奴が、一番最初に逝くとはな』
宇宙人達の母船。
その最奥で、今や二人となった三賢人が会話していた。
至高工房長パーリアス。軍部総司令バラゴン。
二人は、ここには居ない司祭長の事を惜しむように言葉を交えている。それは宇宙人達らしからぬ、哀悼の意だったのかもしれない。
『やはり、我々のどちらかが、ついておくべきだったか……』
『……仕方あるまい。クイーンが、最強の神獣兵を下すほどの化け物に育っていたとは、誰も想像していなかった。先祖返りどころではない、あれは、かつてのそれを越えた全くの新種というべきだろう。人類という生命体、そのポテンシャルを見誤った』
『我々の過ちという事か。否定できんな、事実は事実だ』
件の実験体については、三賢人自らが主導した計画だ。数万年に渡り休眠状態にあり目覚める事のない神獣兵の卵、新たに発見された新種の現住生物を母胎にすればあるいは、という試み。
特別屈強な、生存本能に優れた個体を選別し、様々な遺伝子改造、改変を行い、最も生命体として純化した姿に変え、それを母胎に卵の孵化を試みる。
その実験は成功し、神獣兵の卵はついに目覚めた。
だが、その影響で母胎までもが、人知を超えた生命体に進化したのは完全に想定外であった。
『再現実験の結果、人類全てにはそんな能力が無い事は判明した。あれは、あの個体が特別だったのだろう』
『うむ。とはいえ、人類が母胎に適している、という事実は変わらぬ。人為的な調整を加えた改造神獣兵も、問題なく孵化した。惜しむべきはその性能が、先の個体から孵化したものには遠く及ばなかった事だが……母胎の特異性の影響を受けたのかもしれぬな』
『それを踏まえても、神獣兵の孵化に成功した事の意味は大きい』
そう。
思わぬ被害を出す事になった今回の実験だが、しかし目標そのものは果たしている。
神獣兵の孵化。
母胎の確立。
兵器として扱いやすくするための品種改良と改造。
いずれも、十分なデータが取れている。
さらには、クイーンの血液データによって、目覚める事のない仮死状態に陥っていた最強の神獣兵の再起動にすら成功した。あまりにも時間が経ちすぎたために本来の戦闘力の半分も発揮できないとはいえ、単体でこの惑星上の抵抗戦力を鏖にしてもおつりがくるほどの最強の生物兵器を起動できた、その意味は大きい。
残念ながらその個体そのものは、クイーンとの闘いに敗れて失われたが、活性化した細胞の採取には成功している。
何より。
何故、神獣兵が孵化しなかったのか、その理由が判明したのだ。
『そして、油断は禁物だが……船の墜落以降、奴は姿を見せていない。恐らくは、あちらも相当の痛手を負ったのだろう。機は熟した』
『ああ……パーリアス。やはり、お前の技術力は素晴らしい』
二人そろって、窓から研究室を見下ろす。
研究室には、異様な光景が広がっていた。今や広大な空間一面にびっしりと人間サイズのカプセルが並べられ、その内部には老若男女問わず、無数の人間が拘束服を着せられて中に納まっている。その数、およそ数万人。これまで捕獲され、実験の為に凍結保存されていた人間の大半が、この研究室に集められていた。
並ぶカプセルの中、身動きが取れないでいる一人の男性。急に苦しみ始めた彼は、身を捩るように絶叫し、やがて口から血を吐いて絶命する。それと同時に、彼の腹部を突き破り、拘束具を割いて、何かが血塗れで外に這い出してきた。
神獣兵の幼体。
食い破った腹から、ずるり、と幼体が這い出して来る。それに、天井から伸びてきたアームが、透明なカプセルの壁を通過するように入り込み、がっちりと幼体を固定する。もがく幼体に、何かしらの薬剤が注射されると、それは途端にくたり、と動かなくなる。不活性化処置を施した幼体はそのまま保管庫に運ばれ、用済みとなった人間の亡骸はカプセルごと床下に回収。そのまま、燃え盛るプラズマ炉に放り込まれて、塵も残さず焼却される。
それと同じことが、研究室のあちこちで起きていた。カプセルの内部が血で染まり、次々とアームで幼体が回収される。
満足そうにその惨状を見下ろしながら、パーリアスが高説を垂れる。
『調査の結果、神獣兵は単なる生物兵器ではなく、高次元ネットワークで連結された群体生物である事が発覚した。むしろ、この高次元にあるプログラムが本体で、肉体は添え物のようなものだ。神獣兵が不活性化したのは、このプログラムに何らかの異常が起きたからであり……それさえわかれば、あとは簡単だ。その代用プログラムを用意してやればいい。その為のサイキック波動についても、クイーンとエンペラーのデータから推測が可能だった。小癪だが、クイーンの存在があってこそ、ついに神獣兵の再運用が可能になったのだ』
『被害の大きさを顧みれば感謝はできんがな。それで、制御は完璧なのか?』
『勿論。この新しいネットワークは、この船の中枢システムで制御されている。クイーンのように我々の手を離れて暴走する事はない。それに加え、母胎となった個体は確実に絶命するように調整している、反乱対策は万全だ。そのせいで、数を増やすのが効率が悪いが……何、惑星上には、まだ数億人もの人類が残っている。奴らを利用すれば、十分な数が確保できる。これまで手を抜いて殺しつくさなかったのは正解だったな』
満足そうに、悍ましい今後の計画を語り合うパーリアスとバラゴン。二人は眼下で繰り広げられる惨劇にはもう興味も持たず、先の話をしながら、その部屋を後にした。
支配者二人が消えた後も孵化は続き、また新たな幼体が生まれてくる。アームがそれを掴み上げ、苦悶の顔で事切れた少女の亡骸が、また一つプラズマ炉に放り込まれて焼き尽くされた。
保管庫に運ばれる、神獣兵の幼体。
『……み』
だが、薬剤によって不活性化処置を施されたはずのそれが、突如、目を見開いた。
真っ赤に血走った瞳に、亀裂のような瞳がぎらつく。
その腹部が、不自然に膨らんでおり……その内部で、何かがいくつも、蠢いていた。
……パーリアスの調整は完璧だ。彼の施した反乱対策は完全である。
だが。
命は螺子や歯車ではないという事を、彼は最後まで理解していなかっただけだ。
『み』
『みぃ、みぃ』
『みみみぃ、みぃ』
『『『みぃ!』』』
数時間後。
人類軍の対宙監視班が、地球に接近する巨大な構造体を確認。
識別の結果、それは宇宙人のマザーシップであると判明。
母船は完全にコントロールを失っており、制御の無いまま、大気圏に落下。
そのまま南アメリカ大陸、南米宇宙人支配領域に墜落。
殺戮の嵐が。
今、地球に吹き荒れようとしていた。
●作者からのコメント
次から最終章、スタートです。




