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TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い  作者: SIS
Other・Q

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『命が命を思う事を、何て呼ぶ?』



 人類軍基地の訪問。


 そこで受けた、もう一人のクイーンからの奇襲。


 それを乗り越えた私は、我が子に抱えられて地下の隠れ家に戻っていた。……この地下室の壁には、ラウラの脳波動の影響が数か月経た今もまだ色濃く残留しているせいで、サーモグラフィーをはじめとする透視装置が機能しない事が分かっている。ここに潜めば、少し安心だ。


『ズラァン』


「ありがとう……」


 体を揺らさないように優しく床に横たえてくれる我が子に礼を言うも、呼吸した拍子に腹の傷がずきりと痛んだ。うっ、と呻いて体を硬直させる私に、我が子は慌てて部屋の隅から救急箱を持ってくると、傷口にガーゼを宛てがった。


 が、あまりにも傷口が広すぎてどうにもならない。赤子が生まれたのみならず、その後急成長しながらはい出したことで、臓腑を引き抜かれたようなぽっかりとした穴が開いてしまっている。血はなんとか止まっているようだが、そもそもこれで出血多量で死んでいないのがおかしいレベルの傷だ。止まったというより、もう流す血がないのかもしれない。


 だとしたらどうして私は生きているんだろう。ぼんやりとした頭で考える。


『ズババ……』


 我が子はちょっとためらった後、指をぺろり、と舌先で嘗めた。やたらと粘着質な唾が糸を引き、それを傷口にちょいちょい、と塗っていく。そして傷口をくっつけ合わせると、それはたちまちくっついてしまった。


 ……瞬間接着剤? そういえば、一般的な瞬間接着剤はもともと医療用に開発されたそれの流用らしい、と聞いたことがある。


 まあ、不思議な話ではない。私も血液の成分を変質させて強酸にしたり、くっつけたりできるし、それと同じ事なのだろう。


 丁寧に子供が傷口を縫い合わせ、見た目上は何とか、腹の大穴はふさがった。下腹部から、場合によっては胸部まで届く、深く広い傷。


 人間であれば即死だろう。私であってもだいぶん危険だった。


「……う゛……」


『ズ、ズアァン……』


「いいよ、わかってる。……おいで、ブレイド」


 今、考えた名前で我が子を呼ぶと、我が子は頭に生えた角で私を傷つけないように顔を寄せてくる。その首筋に腕を回し、そっと抱き詰める。


 触れ合う我が子の体はひどく熱い。いや、これは私の体が凍え切っているのだろうか。血を失いすぎたか。


「大丈夫、わかってる。お前は私を助けようとしてくれたんだね? ありがとう、おかげで助かった」


『ザァン……』


 安心したように、こわばっていた我が子の体から力が抜ける。おずおずと抱き返してくる我が子の抱擁に、頬が緩む。


 しばらくの抱擁の後に、それを解く。床に体を預けると、おずおずと我が子が毛布をひっぱってきて被せてくれた。


 ただ熱源が足りない。しばしためらって、我が子もまた毛布の中に入り込んでくる。たちまち、毛布の中が暖かく火照る。


「暖かい……」


 たちまち、眠気が襲ってくる。


 私の意識は、たちまち瞼の裏の闇の中に溶け込んでいった。






 気が付けば、私はどこかの荒野にいた。


 紫色の岩が並ぶ、どことも知れない不毛の荒野。


 私は一人、曇天の空の下、崖の上に立っている。


「ここは……」


 崖の上から下を見下ろす。そこでは、地獄絵図が広がっていた。


 眼下では、二つの生命体が争っていた。


 片方は、人類に似た二足歩行の知的生命体。頭髪はなく、複雑に隆起した頭部構造を持ち、四つの目を持ったヒューマノイド。彼らは重火器を手に、襲ってくる敵を前に防衛線を展開している。防壁に身を隠し、敵の攻撃から身を守りながら撃ち返している。


 そして、もう一つ。


 彼らを襲撃しているのは。


「…………ルー?」


 それは低い姿勢で大地を駆ける、四本足のトカゲを思わせる生命体だった。頭部や背中、肩を黒い強固な外骨格で守り、黄色い瞳を爛々と輝かせながら岩の隆起を縫うように走る。手には、半ば融合した肉の銃を持っており、そこから放つ強酸の弾丸が、防衛線に襲い掛かっていた。


 手にする銃を除けば、それはとても、最初の我が子によく似ていた。


 戦況は一方的だった。


 ヒューマノイド達の銃は決して低性能ではないのだろうが、異星獣達の外骨格はそれをたやすくはじき返し、放物線を描いて降り注ぐ強酸の砲撃は物陰に隠れるヒューマノイド達を焼いていく。それにひるんで弾幕が緩めば、異星獣達は防壁を駆け上がって銃座にとびかかり、その鋭い爪と牙で抵抗するヒューマノイドを引き裂いていく。


 一か所が突破されると、そこから流血が広がり、瞬く間に戦線が崩壊していく。それは、致命的な病が広がっていく様にも似ていた。


 やがてさほどの時間を置かず、交差する銃声は消え失せる。


 ちろちろと炎が燃えるだけの戦場を、異星獣が走り去っていく。後にはただ、転がる遺体が残されるのみ。


 否。


 びくん、と命を失ったはずの躯が震える。指が痙攣し、足がばたばたと動く。


 生きていた? 違う。


 躯から冷たい血が噴き出し、その中で産声を上げる寄生獣の赤子。


 生まれてきた寄生獣達はその肉からはい出しながら、見る間に大きくなっていく。瞬く間に成長した彼らは、自分たちの揺り籠だった死肉を食らい、栄養を補充する。


 やがて完全に成長した異星獣達は、自分たちの親の後を追って駆け出した。




 それは、終わりの無い侵略。殺戮の津波。


 生きる全てを滅ぼしつくすまで終わる事のない、生きた破滅の群れ。


 それなのに、何故だろう。


 私には彼らが、決して報われる事のない愛を叫んでいるように見えた。








 そして、目を覚ます。


「……ん……」


 体を軽くゆするように確かめる。……けだるさはあるが、だいぶ体調は回復している。今更だが、相変わらずふざけた体のつくりだ。


 まあ、今回はそれで助かったが。


 ぼおっとしていると、見上げる視界の中にひょっこりとブレイドが顔を出してくる。その心配そうな瞳が、じっと私を見下ろしている。


 口元に知らず、笑みが浮かんだ。


「……大丈夫よ。ずっと寄り添ってくれたの? ありがとう」


『ザァン……』


 頬を摺り寄せてくる我が子、自らも頬を寄せる。すこしざらついた我が子の皮膚。


 顔を離すと、おずおずと保存食が口元に差し出されてきた。それを受け取り一口齧ると、今度は水筒に入った水。


 なんだか、いつもと逆だ。私がお世話しているのを返すように、我が子が私の世話をしてくれている。なんだか、幸せな気分。


 少しだけ食べ物と水を口にしたことで、少し元気が戻ってきた気がする。やはり、食餌は大事だね。


「ありがと。ブレイド……ちょっといいかしら」


『ザァン?』


 そっと顔を寄せてくる我が子の頬に手を伸ばす。さすさすと撫でながら、私は核心に触れる言葉を口にした。






「貴方達。私の為に、わざと未熟児で生まれてきたのね?」






 ぴしり、とブレイドの体が固まる。


 私はそれに構わず、自分の考えを口にする。


「ずっと変だな、と思ってたの。貴方達の孵化、私は耐えられるけど、一般人には……改造されてない、普通の命にはどうかしら? 私の目算だと、ギリギリ命を落とす……そんな所? でも片利共生……寄生する側がやるには、いろいろと半端じゃないかしら。地球にも寄生生物は沢山いるけど、そんな勿体ない事する生き物は、ほとんど例がないわ」


 そう。寄生側は、寄生する対象にほとんど害をもたらさないか、あるいはそのすべてを奪いつくすのが道理だ。


 前者はカオジラミやカクレウオの類。後者は、それこそコマユバチをはじめとする寄生ハチ。例外としてテントウムシにつく奴なんかは、寄生ハチが孵化した後も生存するケースがあるが、あれはテントウムシという生命体が生態系の上の方にいる、完成された強い種族だから、というのが大きい。基本的に、殺すと決めたならば、その資源を最後の一滴まで絞りつくす、それが効率的であり、命に対する敬意ともいえる。


 それを考えれば、我が子の生態はあまりにも不完全だ。本当にそれが本来の形なのか、とずっと疑問があった。


 それが、今回の件ではっきりした。


 我が子は親の命を吸い、その体を引き裂いて生まれてくるのが本来の仕様。親の命を吸いつくし、孵化して数分で戦闘可能な個体として完成する。生物兵器としては、あまりにも完成された仕様。戦い、殺し、卵を産み付け、そこからまた次が生まれてくる。敵がいる限り、その数は減ることはなく、勝つ限り際限なく増殖していく。それはやがて、星の命を一つ残さず滅ぼすまで、止まる事はない。


 だけど、この子達はずっとそうしなかった。


 それはなぜか?


「私を、気遣ってくれたのね」


『ザ、ザァン……』


 顔を背ける我が子の頬に両手を添えて、こちらを振り向かせる。怒ってないよ、と微笑み、私は語りかけた。


「貴方達がどうして、私の体から生まれてくるつもりになってくれたかはわからないけど。私は、貴方達のおかげで救われたわ。大切な家族だと思っている。今回も、私を死なせないために、仕方なくそうしたのよね? わかっているわ、母親だもの」


『ズラァン……』


「……お願い。力を貸してほしいの。……私は、あの子を助けてやりたい。あの子と、その子供たちを」


 あの少女。おそらく彼女は、私のデータをもとに作り出された後継機……というよりも、簡易量産型だ。


 おそらく、そこから生まれてくる子供たちの性能も、我が子には及ばない。だが代わりに、宇宙人どもが機械的な強化を行っているのは間違いない。寿命が長いのも、それが関係しているのかもしれない。


 それが、当人達にとって望ましいものとはとても思えない。無理やりに産まされ、無理やりに生かされて、望まぬに兵器として使いつぶされようとしている。


 それは。断じて、許すわけにはいかない。


 これ以上、宇宙人どもの思うような事、何一つ許してなるものか。その為には、どうしても我が子の力が必要だ。どうしても。


「お願い。貴方が殺そうとしたあの子を救うために、貴方の力を貸して。ブレイド……」


『……ザァン』


 答えは。


 確かな抱擁だった。


 私を両手で抱きしめて、首筋に顔を寄せてくる我が子。その体の暖かさを感じ取って、私は一筋の涙を流した。


「ありがとう。優しい子ね、貴方は」


『ザァン……』


 これでやるべき事は決まった。私は、あの子を必ず助ける。


「……宇宙人ども。これ以上貴様らの評価が落ちる事はないと思っていた、訂正だ」




「阿鼻地獄の底でさえも、貴様らには生ぬるい」




 地獄というものがどういう場所か。


 貴様らに、教えてやる。





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