『女三人集まれば……っていうけど、私も今は女だったな、そういや』
葵ちゃん達のハンガーは、基地のちょっと奥まった所にあった。立ち入り禁止のスタンドと、銃を手にした見張り員さんを越えた先に、大きなトレーラーが止まっていた。
日本ではまず見ないような大型トレーラーだ。複数あるタイヤの直径が私どころか葵ちゃんの背丈より高い。荷台に至っては中に戦車が数台入りそうであり、その横に人間サイズの扉がある。我が家のようにつかつかと中に入っていく葵ちゃんに、おっかなびっくり後に続く。
「ただいま。客を連れてきたわよ」
「おかえりなさい、隊長。……客?」
中に入ると、いかにも格納庫です、といった感じのごちゃっとした空間が広がっていた。壁際や天井はこうトラスフレームです、という感じで凹凸していて、用途の分からない道具や部品が大量に設置されている。その格納庫の中央に、アーマーを装備する為のハンガーベッドが5つ並べられていて、その間で四人の少女達がアンダースーツ一枚のラフな格好でくつろいでいた。
思わず私は自分の視界を手でふさいだ。尻とか胸とか、身体のシルエットがもろに見えるやんけ! 誰だあんなエロスーツ考案した変態技術者は!
「客ってそのおチビさん? って、その顔……」
「X-0!?」
「えちょっとまってマジ!? 本物!?」
私の正体に気が付いた少女達がわっと集まってくる気配。私はびびって葵ちゃんの後ろにすっと隠れた。
「はいはい、急に騒ぐからびっくりしちゃったじゃない。あと、X-0じゃなくて葛葉ちゃん。もう知らない仲じゃないんだから、番号呼びしないの」
「あ、すいません」
「ごめんね葛葉ちゃん……」
手を叩いての葵ちゃんのおしかりに、しゅん、と大人しくなる少女達。どうやら葵ちゃんはリーダーとしては一目も二目も置かれているようだ、年長者としての振舞が堂に入っている。
「い、いえ、気にしてませんので……」
「今日は少将がお話したいって彼女を呼んだのよ。ついでに、同じく宇宙人を不倶戴天の仇とする者同士、互いの事を知る機会だから連れてきたの。あんまし騒がしくするんじゃないわよ」
「はーい」
返事をしながらも、少女達の好奇心に満ちた瞳が爛々と輝いているのがはっきりとわかる。私は目を塞いだまま、より一層葵ちゃんの背中に隠れた。
気分は動物園のパンダである。
「それよりアンタらいつまでその恰好でいるつもり? 葛葉ちゃんが恥ずかしがってるじゃないの、ほら、なんでもいいからひっかけてくる!」
「はっ、し、しまったっ!」
「も、申し訳ないべさ」
葵ちゃんのおかげで皆がいそいそと上着を着こみ始める。私はほっとして、ようやく手をどけてトレーラー内を見回した。
どうやら、ここはハンガー兼休憩室になっているようだ。部屋の隅の机には、何やら女の子らしいポップな色合いの雑貨が寄せてある。隊員達の私物だろう。そういった事を許されているあたり、この部隊に与えられた権限の大きさが見て取れた。
そりゃあ、一般兵と一緒に扱ったらトラブルになるだろうな。それで敢えて、こういったトレーラーハウスを用意してそこに住まわせている訳か。
別に特別扱いとは思わない。対空砲攻略作戦で見せた彼女らの働きは、それだけの投資をする価値がある。彼女らが居ると居ないで、作戦の成功率は10%以上変動するだろう。
まじまじと観察していた私は、ふと背後に邪な気配を察知し、ひらりと身をかわした。一瞬遅れて、私の存在した空間に掴みかかった少女がつんのめった。
「に、逃げられた……」
「なーにしてんのよ、あんた」
「その、ちっちゃくて軽そうだし、抱っこしようかと思って……」
危ない危ない。今、私はお腹に卵を抱えているので、流石に抱えられたらバレてしまう。間合いには気を付けないと。
「あのねえ。あんまり露骨にちいさい子扱いしないの。この子、私らより宇宙人どもを多く潰してるんだからね。先輩よ先輩。わかる?」
「そんな事言われても、こうしてみる限りは普通の子供だし……」
葵ちゃんに怒られて口を尖らせる少女。
別に舐められてる訳ではないようだが、なんかこう、扱いがアレだな……。見た目が見た目だからしょうがないが……。
流石に葵ちゃんは、プルートゥに齧られかけた経験があるせいか、私の事を見た目通りの幼女だとは思ってないようだが。
と、今度は別の少女が私と視線を合わせるようにしゃがみ込んできた。
「ねえねえ。そういえば、パートナーは今日来てないの?」
「パートナー?」
「ほらほら、あのカブトムシみたいな子! 岩国基地で、宇宙人の船をふっとばしてくれたの、あの子なんでしょ? 上層部の人達が狂喜乱舞してたよ」
……ラウラの事か。
流石に、私があの後、宇宙人のドロップシップを粉砕したのは人類軍も把握しているか。しかし、ラウラが既に亡い事は知らなかったか。
どういうべきか。
変な期待をされても困るので、正直にラウラはもう居ない、と告げるべきか? しかし、あまりチルドレンの詳細な活動期間について人類軍に教えるのも、あまり賢い選択とはいえない。少将は信じてもいい人物だと思うが、人類軍全体はまだまだ信用出来た物ではない。
宇宙人からの情報によれば、ヨーロッパ方面やアフリカ方面の連中は、まだまだ不合理な考えに捕らわれているようだし。
うーん……まあ、この子達なら、教えてもいいか。
「その。……あの子、ラウラはもう寿命が来てしまって……」
「え……」
私の言葉に、にこにこ笑っていた少女の顔が凍り付く。
「そ、そっか。ごめんね、悪い事を聞いちゃった……」
「いえ……」
気まずそうにする少女に、和やかだった場がしんと静まり返る。
き、気まずい……。
「はいはい、余計な事聞くからそうなるのよ。それで葛葉ちゃん、私達に何か聞きたい事、ない? 貴方相手なら大抵の事は教えてあげられるわよ」
「えーと、じゃあ……その。皆さんは、どうしてこの部隊に?」
そんな沈んだ空気を仕切り直したのは、やはり葵ちゃんであった。露骨な方向転換だったが、私もそれに乗る。
「あー。私はねえ、単純に食い扶持の為に軍に入隊したら、適性があった、って事でここに」
「私はその、恥ずかしながら親が軍に影響力のある人物でして。極力実戦から遠い部隊に、という事で実験部隊に配属されたんですが、そこからの流れで逆に最前線に来てしまった、という形です」
「あたしゃ所属してた部隊が宇宙人の罠でみんな死んじまってば、途方に暮れてた所を少将に拾われたべさ」
なるほど。人に歴史あり、皆それぞれの理由があるという事か。
まあいずれにせよ、技術的な補助があるとしても人の身で超高速飛行戦闘を行うのだから、いずれも平均値を逸脱した反射神経や対応能力の持ち主なのだろう。人は見かけによらず、という奴だな。
女子ばっかりなのは、他の意味もありそうだが。
ポスター映えしそうよね、彼女達。
「それを言うなら……葛葉ちゃんは、どうして宇宙人と戦ってるの? それも一人で。人類軍が信用できなかったから、というのはまあ分かるけど、それにしたって一人で喧嘩売るのは無茶が過ぎるわよ」
「そうそう。助けられておいてなんだけどさ、あんなに強い怪物が言う事聞くなら、どこかに隠れて自分の身を守る事だけ考えていてもよかったんじゃない? というか、今からでもそうした方がいいよ、絶対」
「ええと……」
どうしよう、どこまで話をするべきかな。可愛い子供たちの報復、といっても理解を得るのは難しいだろうし。親兄弟を殺された報復、というのが無難か? でもそれだと、ある意味十分に報復は済んでるし、隠居を否定する理由としては薄いか?
「それは……その……」
彼女らを納得させられるだけの言葉を探して言い淀む私。
だが、結局その答えが言葉になる事はなかった。
時間切れ。
基地を突如襲う振動、平和な時間は終わりを告げた。




